― 日本の王権を揺るがした“宇佐八幡神託”と、忠義の臣の奇跡 ―
■ はじめに
奈良時代末期、日本の皇位継承を巡って起きた「道鏡事件」。
この事件において、天皇の権威と国家の未来を守ったのが 和気清麻呂(わけのきよまろ) です。
和気清麻呂は、宇佐八幡宮の神託を正直に奏上し、道鏡の野心を阻止したことで知られ、後に“忠義の神”として祀られるようになります。
この記事では、歴史的事実 と 伝説・神話的エピソード を交えながら、道鏡事件の全貌をわかりやすく解説します。
■ 道鏡事件とは?
● 道鏡とはどんな人物?
- 僧侶
- 称徳天皇の寵愛を受け、破格の出世
- ついには「法王」という異例の地位を得る
- 政治に深く介入し、皇位への野望が噂された人物
当時の朝廷は、仏教勢力の影響力が強まり、政治と宗教が混在していました。
● なぜ問題になったのか?
「道鏡を次の天皇に」という勢力が現れたため、国家の根本である 皇統維持 が揺らぐ事態になったのです。
■ 宇佐八幡神託事件
● 神託を確認せよ。
称徳天皇は、皇位継承に関する神の意志を確かめようと、
大分県の 宇佐八幡宮 に使者を遣わします。
この時の使者が
- 和気広虫(ひろむし) … 清麻呂の姉
であり、後に弟の 和気清麻呂 が追加の勅使として向かうことになります。
● 宇佐八幡宮での神託
清麻呂が宇佐八幡宮で受けたとされる神託は、次のものです。
「天つ日嗣(皇位)は、必ず皇族から立てるべき」
これは 道鏡を天皇にしてはならない という意味に他なりませんでした。
■ 和気清麻呂の“忠義の奏上”
京都へ戻った清麻呂は、神託をそのまま称徳天皇に奏上します。
しかし、道鏡にとってこれは完全に不都合な内容でした。
これにより、清麻呂の運命は大きく動きます。
■ 清麻呂への報復 ― 右足を切られ流罪に
道鏡の怒りを買った和気清麻呂は、
- 官位を剥奪され
- 右足の腱を切られ(足が不自由になり)
- 大隅国(鹿児島)へ流罪
という過酷な罰を受けます。
この段階で、清麻呂は命を狙われてもおかしくない状況でした。
■ 伝説:300頭の猪が清麻呂を守る
ここからが、伝説的エピソードの核心です。
● 道中での奇跡
流罪地へ向かう途中、清麻呂の一行の前に 300頭もの猪 が現れたといいます。
猪たちは清麻呂を囲むようにして道案内し、護衛のように付き従った
その姿はまさに“霊猪(れいちょ)”と呼ぶにふさわしい神秘性を帯びています。
● 足が回復したという伝承
さらに、一度切られた足が
猪の加護により奇跡的に回復した
という伝承も残っています。
この逸話が、現代の 「足腰の守護神」 の信仰につながりました。
■ 道鏡の失脚と清麻呂の復権
称徳天皇が崩御すると形勢は逆転。
道鏡は下野へ左遷され、そのまま失意のうちに亡くなります。
和気清麻呂は許され、
- 元の官位以上に復帰
- 桓武天皇の時代には政治の中心に返り咲く
という見事な復権を遂げました。
歴史的にも、道鏡の皇位継承を阻止した清麻呂の行動は、
日本の王権と皇統の維持に大きく寄与したと評価されています。
■ 和気清麻呂はこうして“神”になった
道鏡事件で命を賭けて神託を守り、皇統を守った清麻呂は、後世に「忠義の神」として祀られるようになります。
● 神としての性格
- 忠義・正義を貫いた人物
- 国家安泰の守護
- 道鏡からの乱を鎮めた英雄
- 足腰の守護神(猪伝説による)
● 代表的な神社
- 護王神社(京都)
- 和気神社(岡山)
- 全国の護王社・和気社
護王神社では狛犬の代わりに 狛いのしし が置かれ、足腰の健康祈願に訪れる参拝者で賑わいます。
■ まとめ
和気清麻呂と道鏡事件は、
「日本の皇位を守った忠義の物語」であり、
「猪による奇跡の護り」を持つ神秘的な伝説です。
歴史と信仰が重なり、
和気清麻呂は現代でも 足腰の守護神・忠臣の象徴 として崇められています。
道鏡事件は、単なる政治事件に留まらず、
日本の皇統と国家のかたちを決定づけた重大な歴史的分岐点 であり、
その中心に立った清麻呂は、まさに伝説の人物と言えるでしょう。


コメント