【書物図鑑】『古事記』が語る天地の始まり:深淵なる「天地開闢」の世界

日本の最古の歴史書であり、神話集である『古事記』。その冒頭に記されているのが、壮大で神秘的な宇宙の始まり、「天地開闢(てんちかいびゃく)」の物語です。この物語は、私たちの世界がどのようにして形作られたのか、そして神々がどのようにして誕生したのかを教えてくれます。

この記事では、『古事記』の天地開闢のエッセンスを、神々の誕生の順序と合わせて詳しく解説します。


1. 混沌からの始まり:「天地の初発(てんちのしょはつ)」

『古事記』の冒頭は、宇宙がまだ形をなしていない、混沌とした状態から始まります。

「天地(あめつち)初めて発(ひら)けし時…」

天地開闢とは、「天と地が分かれ、世界が形成されること」を意味します。最初、世界は泥のような、あるいはクラゲのように漂う不確かな状態でした。この混沌から、清らかなものが上昇して高天原(たかまがはら:天上の世界)となり、重く濁ったものが下に留まって葦原中国(あしはらのなかつくに:地上の世界)となりました。


2. 独り神の誕生:別天神(ことあまつかみ)

天と地が分かれ、高天原が成立したその時に、世界を動かす根源的な力として、三柱の神々が姿を現します。これを「造化三神(ぞうかさんしん)」とも呼び、この三柱と後に続く二柱を合わせて「別天神(ことあまつかみ)」と呼びます。

誕生した神神名(読み)役割・神格
1天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)宇宙の中心、至高の神。世界を統べる根源的な存在。
2高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)創造と生成を司る神。生産力を象徴。
3神産巣日神(カミムスヒノカミ)創造と生成を司る神。霊的な力を象徴。

これらの神々は、すべて独り神(ひとりがみ)として現れ、性別を持たず、すぐに姿を隠してしまいます。これは、彼らが具体的な世界を治めるのではなく、世界を動かす抽象的な原理を象徴しているためと考えられています。

続いて、地上世界が葦の芽のように萌え上がる状態になった時に、さらに二柱の独り神が出現しました。

誕生した神神名(読み)役割・神格
4宇摩志阿斯訶備比古遅神(ウマシアシカビヒコヂノカミ)美しい葦の芽が萌え出るように、生命力を象徴。
5天之常立神(アメノトコタチノカミ)天が永遠に存在し続けることを象徴。不変性を司る。

これらの五柱の神々が、世界の基礎を築いた「別天神」です。


3. 具体的な世界の創造へ:神世七代(かみのよななよ)

別天神が姿を隠した後、高天原に現れたのが、具体的な国土の創造を担う神々、「神世七代(かみのよななよ)」です。

神世七代は、最初に現れた二柱の独り神を除き、すべて男女一対の夫婦神として誕生しました。

世代神名(読み)概要
6代国之常立神など独り神として二柱が誕生。
7代〜11代泥土(うひぢ)や角杙(つのぐひ)の神々など4組の男女の夫婦神が誕生。具体的な大地の要素を象徴。
12代(最終)伊邪那岐命(イザナギノミコト)伊邪那美命(イザナミノミコト)神世七代の最後にして、国生み・神生みを担うことになる重要な夫婦神。

この最後の夫婦神、イザナギイザナミこそが、天上の神々の命令を受け、いよいよ混沌とした世界に手を加え、具体的な日本列島(国土)の創造へと進んでいくことになります。


💡まとめ:天地開闢のポイント

『古事記』の天地開闢は、単なる世界の始まりの物語ではなく、日本の思想における創造のメカニズムを示しています。

  • 独り神(アメノミナカヌシなど):世界を動かす抽象的・根源的な力
  • 夫婦神(イザナギ・イザナミなど):具体的・生産的な創造の力

この壮大な物語を通じて、『古事記』は神々がどのようにして現れ、いかにしてこの美しい国土を生み出したのかを、読者に示しているのです。

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