【書物図鑑】『古事記』世界を闇に変えた神の怒り!「天の岩戸神話」徹底解説

『古事記』の中でも、そのドラマチックな展開と、日本の祭りの起源を示す重要な要素から、最も人気のある神話の一つが「天の岩戸(あまのいわと)神話」です。

これは、太陽の神である天照大御神(アマテラスオオミカミ)が岩屋に隠れてしまい、世界が闇に包まれた事件、そして神々が知恵と機知を絞って光を取り戻す物語です。

この記事では、この神話の背景からクライマックス、そしてその意味について詳しく解説します。


1. 悲劇の引き金:須佐之男命(スサノオ)の暴挙

この神話の始まりは、アマテラスの弟である須佐之男命(スサノオノミコト)の行動にあります。

イザナギ命から「海原」の統治を命じられたスサノオでしたが、彼はその役割を果たさず、ひたすら泣きわめいていました。イザナギに追放されたスサノオは、姉であるアマテラスに別れを告げるため、高天原(たかまがはら)へ向かいます。

誓約(うけい)の儀式

スサノオの訪問に対し、アマテラスは「弟は高天原を奪いに来た」と疑います。二神は疑いを晴らすため、誓約(うけい)という占いのような儀式を行います。この誓約によって、スサノオの潔白は証明され、アマテラスは彼を受け入れます。

しかし、自分の正しさが証明されたことに気分を良くしたスサノオは、高天原で次々と乱暴狼藉を働き始めます。

怒りを呼んだ行為

スサノオの悪行の中でも、特にアマテラスを激しく怒らせたのは以下の行為です。

  1. 田の畔を壊し、水路を埋める。
  2. 新嘗祭(にいなめさい)の宮殿に汚物をまき散らす。
  3. 機織り小屋に皮を剥いだ馬を投げ入れる。

この最後の行為が、機織りをしていたアマテラスの侍女を死に至らしめ、激しい恐怖と怒りを覚えたアマテラスは、ついに自らの意思で行動を起こします。


2. 世界の闇:天岩戸隠れ

怒りと悲しみ、そして恐怖に耐えかねたアマテラスは、自ら高天原の天岩戸(あまのいわと)と呼ばれる大きな岩屋に入り、岩でできた扉を固く閉ざしてしまいます。

天照大御神は太陽の神です。 彼女が隠れたことによって、世界からすべての光が消え去り、永久の夜のような闇に包まれてしまいました。

  • 昼夜の区別が失われ、
  • 作物が枯れ、
  • 災いが頻発し、
  • 八百万の神々にも動揺と混乱が広がりました。

3. 知恵と賑わい:光を取り戻すための神議

困り果てた八百万(やおよろず)の神々は、天安河原(あまのやすかわら)に集まり、会議を開きました。この会議の中心となったのは、「思金神(オモイカネノカミ)」という知恵の神です。

オモイカネの提案に基づき、神々は光を取り戻すための大掛かりな作戦を実行します。

作戦の内容担当した神と役割
祭祀の準備堅い木を切り出し、榊の枝に玉や鏡を飾る(後の三種の神器の原型となる)
祝詞(のりと)布刀玉命(フトダマノミコト)が御幣を捧げ、アマテラスを招き出す準備をする。
常世の長鳴鳥(とこよのながなきどり)を集めて鳴かせる。夜明けを告げる鳥の鳴き声で、本当に夜が明けたと思わせる。
中心となる踊り天宇受売命(アメノウズメノミコト)が、岩戸の前で裸に近い格好で滑稽に舞い踊る。

舞いのクライマックス

アメノウズメが激しく踊り、神々がそれを見て大笑いしたため、岩戸の周りは大騒ぎとなります。

岩戸の奥に隠れていたアマテラスは、「なぜ、世界が闇になっているのに、神々はこんなに楽しそうに笑っているのだろう?」と不思議に思い、扉を少しだけ開けて外の様子を尋ねます。


4. 光の帰還

アマテラスが問いかけると、アメノウズメは「あなた様よりもっと尊い神が来ておられるので、喜んでいるのです」と答えます。

その時、布刀玉命がアマテラスの姿を八咫鏡(やたのかがみ)に映し出し、手力男神(タヂカラオノカミ)が岩戸の隙間に手を差し入れ、アマテラスを引きずり出します。

アマテラスが完全に外へ出た瞬間、世界に再び光が満ち溢れ、闇は消え去りました。すぐに岩戸は注連縄(しめなわ)で塞がれ、二度と隠れることができないようにされました。

結末:スサノオの追放

一件落着した後、神々はスサノオに千位置(ちくら)という償いの品を課し、髭を切り、手足の爪を抜き取るという罰を与えて、高天原から永久追放しました。スサノオはその後、地上世界である出雲へと降り立つことになります。


💡 この神話が持つ意味

天の岩戸神話は、単なる物語以上の意味を持っています。

  • 太陽の復活: 太陽が隠れてまた戻るという現象は、日食、あるいは季節の変わり目(冬至)における太陽の力の復活を象徴していると考えられています。
  • 祭りの起源: アメノウズメの舞や神々の賑わいは、神楽(かぐら)やお祭りの起源であるとされています。人々が力を合わせて神を喜ばせ、幸いを招き入れるという、日本文化の根幹にある考え方を示しています。

この神話によって、高天原の秩序は回復し、物語は追放されたスサノオの地上での冒険、すなわち「出雲神話」へと引き継がれていくのです。

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