地下世界である根の国での過酷な試練を乗り越え、須佐之男命(スサノオノミコト)から「大国主神(オオクニヌシノカミ)」の名と国主の権威を授かったオオナムヂ。
ここから、彼は地上世界である葦原中国(あしはらのなかつくに)を、争いのない豊かな国へと変貌させる、国造りの偉業に着手します。この物語は、日本の古代社会が求める理想の統治と平和の姿を描き出しています。
この記事では、オオクニヌシがどのようにして「豊葦原の瑞穂の国(豊かで実りのある国)」の基盤を築いたのかを解説します。
1. 邪魔者の排除と基盤の確立
正式な国主となった大国主神の最初の仕事は、かつて自身を迫害した八十神(やそがみ)の勢力を一掃し、国内の秩序を確立することでした。
スサノオから授かった生大刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)の強力な力によって、オオクニヌシは八十神たちを打ち破り、彼らを追い払うことに成功します。
これにより、出雲を中心とした地上世界は、オオクニヌシの統治下に統一され、国造りのための安定した基盤が築かれました。彼は、正妻として須勢理毘売命(スセリビメノミコト)を迎え、平和な統治を始めます。
2. 賢者の協力:少名毘古那神(スクナビコナ)の登場
オオクニヌシが一人で国造りに励んでいた頃、海の彼方である常世の国(とこよのくに)から、小さな舟に乗って奇妙な神がやってきます。これが、オオクニヌシの最も重要な協力者となる少名毘古那神(スクナビコナノカミ)です。
- 容姿: スクナビコナは、非常に背が低く、小さな体をしていましたが、知恵に溢れていました。
- 協力: 高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)の命を受けたスクナビコナは、オオクニヌシと兄弟の契りを結び、共に国造りに取り組みます。
🍺 医療と技術の確立
スクナビコナは、オオクニヌシの持つ武力や統率力とは異なる、高度な知識と技術をもたらしました。
- 病気の治療: スクナビコナは、人々の病気の治療法や災厄から身を守るための呪術を教え、社会の安定に貢献しました。
- 酒造り: 薬となる酒(薬酒)の造り方を教え、人々の生活と健康を支えました。
- 温泉の発見: 温泉の効能を広め、人々の疲れを癒やしました。
二神の協力体制によって、葦原中国はただ広いだけでなく、人々の健康と文化が保証された、豊かな国へと発展していきます。
3. 国造りの完成とスクナビコナの旅立ち
オオクニヌシとスクナビコナは、力を合わせて各地の荒ぶる神々を鎮め、国土を平定していきました。国造りが軌道に乗り、平和な秩序が確立された頃、スクナビコナは突如として、その役目を終えたかのように常世の国へと帰ってしまいます。
オオクニヌシは、唯一無二の協力者を失い、一時的に悲嘆に暮れ、「これで一人で国造りを続けるのは難しい」と悩みます。
🌊 大物主神(オオモノヌシ)との約束
思い悩むオオクニヌシの前に、海の上から光り輝く神が現れます。
その神は、「私を御諸山(みもろやま、現在の奈良県三輪山)に祀れば、私はあなたの国造りの協力者となり、国を完成させよう」と告げました。
オオクニヌシがこの神の言葉に従って祀りを執り行うと、この神(大物主神、あるいは大神)の力によって、オオクニヌシは残る国造りの使命を完全に果たし、豊かで安定した地上世界の支配者として確固たる地位を築きました。
4. 理想的な統治者としてのオオクニヌシ
オオクニヌシ神話の国造りの側面は、日本の古代における理想の統治者像を示しています。
| 特徴 | 具体的な行動 |
| 慈愛と包容力 | 迫害された身でありながら、白兎を助ける慈悲の心を持つ。 |
| 知恵と技術の導入 | スクナビコナという賢者の協力を受け入れ、医療や技術を普及させる。 |
| 秩序の確立 | 荒ぶる神や敵対する勢力(八十神)を鎮圧し、国内を平定する。 |
オオクニヌシが築いた**「豊かで平和な世界」**は、天上(高天原)の神々の目に留まるほど立派なものでした。
この成功こそが、次に起こる神話最大の出来事、**「葦原中国平定(国譲り)」**の背景となります。高天原の神々は、この地上世界を、アマテラスの子孫である「天孫」が治めるべきと考え始めたのです。

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