『古事記』上巻の壮大な天地開闢(てんちかいびゃく)に続いて語られるのが、この世界に初めて具体的な国土、すなわち日本列島が誕生する物語、国生み神話です。
これは、日本の国土の成り立ちを語る、非常にドラマチックで重要なエピソードです。この記事では、国生み神話の内容と、その後の神々の誕生(神生み)について詳しく解説します。
1. 国生みの主人公:伊邪那岐命と伊邪那美命
国生み神話の中心となるのは、「神世七代(かみのよななよ)」の最後に登場した夫婦神、伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)です。
彼らは、天上の神々(別天神)から、「漂っている国土を整え固めなさい」という重要な使命を授かりました。この時、二神には天沼矛(あめのぬぼこ)という一本の矛が与えられます。
天の浮橋とオノゴロ島
イザナギとイザナミは、高天原(たかまがはら)と地上の間に架かる天の浮橋(あめのうきはし)に立ち、矛の先から滴り落ちた塩が固まってできたのが、最初に誕生した島、淤能碁呂島(おのごろじま)です。
二神はこの島に降り立ち、八尋殿(やひろどの)という宮殿を建て、ここを拠点とすることにしました。
2. 最初の試み:失敗とやり直し
国土創造を始めるにあたり、イザナギとイザナミは正式な結婚の儀式を行います。
二神は八尋殿の周りを回りながら出会う儀式をしますが、この時、女性であるイザナミの方から先に「あなにやし、えをとこを(ああ、なんと素晴らしい男性でしょう)」と声をかけてしまいます。
この順番が「良くない」とされ、最初に生まれた子どもは水蛭子(ひるこ)という形をなさなかった子でした。この失敗作は葦の舟に乗せて流されてしまいます。
二神は高天原へ使者を送って問うと、「女性から先に声をかけたのが良くなかった」と助言を受け、改めて男性のイザナギから先に声をかける儀式をやり直します。
3. 国土の誕生:大八島国(おおやしまのくに)
儀式をやり直した結果、ついに具体的な国土が次々と誕生します。これが国生みです。最初に生まれたのは以下の八つの大きな島でした。
| 島名(現代の地域) | 概要 |
| 淡道之穂之狭別島(あわじのほのさわけのしま) | 淡路島 |
| 伊予之二名島(いよのふたなのしま) | 四国(伊予、土佐、讃岐、阿波の四つの名を持つ) |
| 筑紫島(つくしのしま) | 九州(筑紫、豊、肥、熊曽の四つの名を持つ) |
| 意岐之三子島(おきのみつごのしま) | 隠岐の島 |
| 佐度島(さどのしま) | 佐渡島 |
| 大倭豊秋津島(おおやまととよあきつしま) | 本州(大和/奈良を含む) |
| 吉備児島(きびのこじま) | 児島半島(岡山県) |
| 両児島(ふたごのしま) | 対馬 |
これらの八島を総称して「大八島国(おおやしまのくに)」と呼びます。これは、当時の人々の認識する日本の国土の範囲を示しています。その後も、二神は小さな島々を生み出していきます。
4. 自然と生活の神々の誕生:「神生み」
国土を無事に生み終えた後、イザナギとイザナミは、その大地を形作る神々、そして人々の生活に必要な神々を生み始めます。これが神生みの始まりです。
彼らは以下のような神々を次々に誕生させました。
- 家宅に関する神(屋船久久能遅神など)
- 風に関する神(志那都比古神など)
- 海に関する神(大綿津見神など)
- 山に関する神(大山津見神など)
- 川、野、食物に関する神々
神生みを通じて、世界は具体的な自然の要素と、それらを司る神々の力によって満たされていったのです。

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