本歌は、万葉集 巻九に収められた、
「詠水江浦嶋子一首并短歌(みづのえのうらしまのこをよめるいっしゅ ならびにたんか)」です。
浦島伝説を題材にした長歌と反歌で構成されています。
以下、原文に対応した現代語訳を示します
詠(二)水江浦嶋子(一)一首 并短歌
春日之 霞時尓 墨吉之 岸尓出居而 釣船之 得乎良布見者 古之事曾所レ念
水江之 浦嶋兒之 堅魚釣 鯛釣矜 及(二)七日(一) 家尓毛不レ來而
海界乎 過而榜行尓 海若 神之女尓 邂尓 伊許藝趍
相誂良比 言成之賀婆 加吉結 常代尓至
海若 神之宮乃 内隔之 細有殿尓 携 二人入居而
耆不レ爲 死不レ爲而 永世尓 有家留物乎 世間之 愚人乃 吾妹兒尓 告而語久
須臾者 家歸而 父母尓 事毛告良比 如(二)明日(一) 吾者來南登 言家礼婆
妹之答久 常世邊 復變來而 如レ今 将レ相跡奈良婆
此篋開勿勤常 曾己良久尓 堅目師事乎
墨吉尓 還來而 家見跡 宅毛見金手 里見跡 里毛見金手 恠常 所許尓念久
従レ家出而 三歳之間尓 垣毛無 家滅目八跡 此筥乎 開而見手歯
如レ本 家者將レ有登 玉篋 小披尓 白雲之 自レ箱出而 常世邊 棚引去者 立走
叫袖振 反側 足受利四管 頓 情消失奴 若有之 皮毛皺奴 黒有之 髪毛白斑奴
由奈由奈波 氣左倍絶而 後遂 壽死邪流 水江之 浦嶋子之 家地見
反謌
常世邊 可レ住物乎 釼刀 己(之)行柄 於曾也是君
本歌は、万葉集 巻九に収められた、
「詠水江浦嶋子一首并短歌(みづのえのうらしまのこをよめるいっしゅ ならびにたんか)」です。
浦島伝説を題材にした長歌と反歌で構成されています。
以下、原文に対応した現代語訳を示します。
◆ 長歌 現代語訳
春の日に霞が立つころ、
住吉の岸に出て、
釣り舟が魚を得ているのを見ると、
昔の出来事が思い出される。
水江の浦嶋子が、
鰹を釣り、鯛を釣って得意になり、
七日も家に帰らず、
海原を漕ぎ進んで行ったところ、
海神(わたつみ)の娘に偶然出会った。
互いに心を通わせ、契りを結び、
ついには常世の国へ至った。
海神の宮殿の、
奥深く立派な殿舎に、
二人は手を取り合って入った。
老いることもなく、
死ぬこともなく、
永遠の命を得ていたのに、
この世の愚かな心から、
愛しい妻に告げて言った。
「しばらく家へ帰り、
父母に事情を話し、
明日にはまた戻って来よう。」
すると妻は答えた。
「再び常世へ戻って、
今のようにまた会おうと思うなら、
この箱を決して開けてはなりません。」
そう固く約束した。
住吉へ帰り、
家を見ようとすると家はなく、
里を見ようとすると里もない。
不思議に思った。
家を出てから三年の間に、
垣根もなくなり、
家は滅びてしまったのかと、
その箱を開いて見た。
もとの家が戻るだろうと思って、
玉の箱を少し開けると、
白雲が箱から立ちのぼり、
常世の国へたなびいて消えた。
浦嶋子は立ち走り、叫び、袖を振り、
地に転げ回り、足ずりして嘆いた。
たちまち心は消え失せ、
若々しかった肌はしわだらけになり、
黒かった髪は白くなった。
やがて息も絶え、
ついに寿命が尽きて死んでしまった。
それが水江の浦嶋子の家の跡である。
◆ 反歌 現代語訳
常世の国にそのまま住んでいればよかったのに、
自らの行いゆえに恐ろしい結果となったのだよ、あなたは。
◆ まとめ
この長歌は、
- 常世=不老不死の世界
- 約束=箱を開けるなという禁忌
- 人間界=滅びと無常
- 破約=老いと死
という主題を、抒情豊かに描いています。
『万葉集』において浦嶋子は、
単なる昔話の主人公ではなく、
永遠と無常の対比を象徴する人物 として歌われています。

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