【神社めぐり】忌部神社(いんべじんじゃ)―古代日本の祭祀を支えた「忌部氏」を祀る社

◆ 忌部神社とは

徳島県徳島市二軒屋町に鎮座する「忌部神社(いんべじんじゃ)」は、古代の有力氏族である「忌部氏(いんべし)」の祖神を祀る由緒正しき神社です。
忌部氏は古代において朝廷の祭祀を司った氏族で、布(あしぎぬ)・麻・木綿(ゆう)などの供物を調進し、神事に用いる祭具の製作などを担当したことで知られています。

忌部神社はその忌部氏の発祥の地、もしくはゆかりの地として全国に複数存在しますが、徳島の忌部神社は「阿波忌部」の中心として特に重要な位置を占めています。


◆ 創建の由緒と歴史

『延喜式神名帳』には「阿波国名方郡 忌部神社」と記される式内社で、古代から朝廷に奉仕していた阿波忌部の総本社と伝わります。

創建年代は明らかではありませんが、伝承によれば天太玉命(あめのふとだまのみこと)の子孫である天日鷲命(あめのひわしのみこと)が阿波の地に降り立ち、麻や楮を栽培して布を織り、朝廷に献上したことが始まりとされます。
この功績によって、忌部氏は「祭祀・織物・神具製作の神人」として尊ばれました。

その後、平安時代には「名方郡一宮」として厚く信仰を集め、現在では「阿波国一宮」としても位置づけられています。


◆ 御祭神

主祭神は以下の通りです。

  • 天日鷲命(あめのひわしのみこと)
    忌部氏の祖神であり、天照大御神の天岩戸開きの際に天細女命を助け、祭具や神衣を整えた神。
    麻の栽培や織物の技術を伝えたとされ、「産業振興・開拓・織物・技芸」の守護神として信仰されています。

このほか、配祀神として忌部氏ゆかりの神々が祀られており、国家鎮護や技術の繁栄を願う人々から厚く信仰されています。


◆ 見どころと境内の様子

忌部神社は徳島市街地の南方、眉山(びざん)の麓に鎮座しています。
境内は清浄で静かな雰囲気が漂い、古代の神々に通じる厳かな気配を感じさせます。

本殿は伝統的な神明造で、素朴ながらも格式を感じる造り。
境内には「忌部の碑」や「阿波忌部発祥の地」の記念碑などがあり、古代の技術と信仰の歴史を偲ぶことができます。

また、毎年秋には「忌部祭」が斎行され、古式ゆかしい神事が行われます。
特に注目されるのは、神前に麻や楮を奉納する儀式で、現代においても忌部氏の伝統を受け継ぐ重要な行事です。


◆ 忌部神社と天皇の関係

忌部氏は、天皇の御装束や神事に使う供物を調進するなど、朝廷の神事と深く関わっていました。
そのため、明治天皇が国家神道を整備する際にも、忌部神社は「祭祀文化の源」として注目され、社格の復興が図られました。

昭和15年(1940年)には紀元2600年記念事業として現在地に再興され、全国の忌部関係者の崇敬を集める社となっています。


◆ ご利益

忌部神社は以下のご利益で知られています。

  • 技芸上達・手仕事の守護
  • 産業繁栄・商売繁盛
  • 国家安泰
  • 開運招福

特に、ものづくりに携わる人々や職人、芸術家からの信仰が篤く、「技の神」として崇敬されています。


◆ アクセス情報

  • 所在地:徳島県徳島市二軒屋町2丁目
  • 交通:JR徳島駅から車で約10分、またはJR牟岐線「二軒屋駅」より徒歩約5分
  • 駐車場:あり(無料)

◆ まとめ

忌部神社は、古代の日本文化を根底から支えた忌部氏の信仰を今に伝える貴重な社です。
麻や織物といった生活文化、祭祀具を通じて神々に仕えた一族の誇りが、今なお境内に息づいています。

「日本の文化を支えた手仕事の源流」を感じたい方は、ぜひ徳島の忌部神社を訪れてみてください。
静かな杜の中で、古代の祈りとともに生きた人々の息吹を感じることができるでしょう。

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