【神社めぐり】花の窟神社(はなのいわやじんじゃ)

〜神々の母を祀る、日本最古の神社〜

■ 花の窟神社とは

三重県熊野市有馬町に鎮座する**花の窟神社(花の窟神社)**は、『日本書紀』にもその名が登場する由緒正しい古社です。
ここは、日本最古の神社の一つとも言われ、神々の母・**伊邪那美命(いざなみのみこと)**を主祭神として祀る神聖な場所。

社殿を持たず、高さ約45メートルにも及ぶ巨大な岩壁そのものが御神体とされており、自然そのものを神と仰ぐ古代信仰の原型が今も残る貴重な聖地です。
この壮大な岩壁が「花の窟(はなのいわや)」、つまり「花が咲く洞窟」「神々が籠もる岩窟」を意味するとされます。


■ 御祭神

  • 伊邪那美命(いざなみのみこと)
  • 軻遇突智命(かぐつちのみこと)

伊邪那美命は国生みの母神。日本の大地や自然、そして神々を次々と産み出しましたが、最後に火の神・軻遇突智命を産んだ際に火傷を負い、この地で亡くなったと伝えられています。
その御陵(みささぎ)こそが、この花の窟神社の御神体・岩壁だとされています。


■ 神話と由緒

古事記や日本書紀によると、伊邪那美命は軻遇突智命を出産した際に命を落とし、夫の伊邪那岐命はその死を悲しみ、黄泉の国へ追いかけます。
この悲劇の物語は**「黄泉比良坂(よもつひらさか)」の伝説**へと続き、死と再生の神話の起点となりました。

花の窟神社は、まさにその伊邪那美命の御陵として祀られた場所。
また、火の神・軻遇突智命も同時に祀られており、火と命、生と死、再生の象徴として古来より崇拝を受けています。

『日本書紀』には「神祭る始めなり」と記されており、ここでの祭祀が日本の神道儀礼の原点とされることから、まさに「神社の起源」とも言える存在です。


■ 神社の特徴と見どころ

◇ 1. 巨岩そのものが御神体

高さ約45m、幅35mの**巨岩(花の窟)**は圧巻のスケール。
社殿を設けず、岩壁を直接拝する形式は古代の自然崇拝の名残であり、「自然そのものを神とする信仰」の象徴です。
岩肌には注連縄が張られ、まさに神が鎮まる姿を感じさせます。

◇ 2. 織りなす注連縄行事(御綱掛け神事)

毎年2月2日と10月2日には、御綱掛け神事(おみなわかけしんじ)が行われます。
長さ約170メートル、太さ10センチほどの大綱を、花の窟の御神体と沖合の「鬼の城山(おにのじょうやま)」を結ぶ勇壮な神事。
綱を架けることで天と地、神と人をつなぐ意味があり、国の重要無形民俗文化財
にも指定されています。

◇ 3. 神々の眠る熊野の自然

境内の周辺は、熊野灘を望む静かな土地。
すぐ近くには「七里御浜」の長大な砂礫海岸が広がり、荒波が打ち寄せる音がまるで神々の息遣いのように響きます。
まさに「神と自然が共に在る」熊野ならではの風景が広がっています。


■ ご利益

  • 火防守護
  • 安産・子授け
  • 厄除け
  • 再生・復活
  • 開運招福

火の神と命の母を祀ることから、「火難除け」や「生命の再生」に関するご利益があるとされています。
また、伊邪那美命が国土を生み、神々を育んだことから、「創造」「繁栄」「新たな始まり」の象徴ともされています。


■ アクセス

  • 所在地:三重県熊野市有馬町上地130
  • アクセス
    • JR紀勢本線「有井駅」から徒歩約15分
    • 熊野市中心部から車で約5分
  • 駐車場:あり(無料)

周辺には「世界遺産・熊野古道」も通っており、熊野三山参拝とあわせて訪れる人も多いです。


■ 周辺の見どころ

  • 獅子岩:国の天然記念物。花の窟から徒歩10分ほど。海をにらむ獅子の姿が印象的な霊石。
  • 鬼ヶ城:熊野灘に面する奇岩群。海蝕による自然の造形美と神秘が融合した世界遺産。
  • 熊野古道・松本峠:熊野詣の歴史を感じる石畳の道。花の窟からもアクセスしやすい。

■ まとめ

花の窟神社は、**「神々の母が眠る聖地」として、そして「日本最古の神社」**として特別な存在感を放っています。
社殿を持たず、自然そのものを拝むこの神社には、古代日本人が神と自然を一体として崇めた祈りの形がそのまま残っています。

熊野の海風を感じながら、伊邪那美命が見守る巨岩の前に立てば、
「生と死」「創造と再生」という人の営みの根源を静かに感じることができるでしょう。

神話の原点に触れる旅の終着地として——
花の窟神社は、まさに神々の記憶が息づく神聖な場所です。

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