加賀国の古社である菅生石部神社は、石川県でも特に古い歴史・独自の伝承を持つ神社として知られています。所在地は加賀市大聖寺。古代よりこの地域は「石部郷(いそべのさと)」と呼ばれ、その地名を神社名に残してきたとされます。
■祭神と由緒
主祭神は大国主命とされますが、社伝によればこの神社は「水・農耕と密接に関わる神の鎮まる地」として古代から崇敬されてきました。『延喜式神名帳』にも名を載せる式内社であり、国史にも現れるほどの格式を持つ古社です。
中世以降、加賀一帯では「石部(いそべ)」という呼称そのものが信仰の象徴として扱われ、農耕・五穀の豊穣、汎用的な生活安泰を願う場として広く祈願が集まった場所でした。
■不思議な話・特異な社伝
菅生石部神社には「勾玉が湧いた」とされる伝承が残っています。
境内には「勾玉池」と呼ばれる池があり、古代、この池で、勾玉のような石が自然に生まれ湧き出たと言われています。実際に古代の遺物とも推定される石製装飾物がこの地域で出土し、人々はそれを神威として崇めてきました。
水中から聖なる石が湧き生まれる、という信仰形態は全国でも極めて珍しく、物質(石)と神霊の結びつきが強く意識されていた神社であることが分かります。
■見どころ
・落ち着いた森と古社の雰囲気
喧騒から少し離れているため、静かで「古社の空気」に触れやすい環境です。社殿も重厚で、意匠も落ち着いており、古い神社の風格を備えています。
・勾玉池
この池にまつわる伝承は、菅生石部神社の独自性を象徴するものです。古代、水・石・生命の循環が信仰の中心にあったことを直接感じられる場所です。
・式内社としての重み
加賀は加賀藩の歴史で語られることが多い地域ですが、菅生石部神社はそれ以前、古代から存在感を持つ神社であり、石川県の神社史を読む上でも不可欠な存在です。
■まとめ
菅生石部神社は「水から石(霊物)が生まれる」という、日本の古代信仰の原型のような伝承を今に伝える神社です。加賀の土地に根差し、農耕・生活の基盤と共に歩んできた歴史を持つ古社。石と神霊が直結していた時代の記憶を追体験できる場所と言えるでしょう。
石川県の式内社めぐりをするなら、特に立ち寄るべき一社です。

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