【神社系統】浅間神社系 〜富士の神・木花咲耶姫命を祀る美と火の女神〜

日本全国におよそ1,300社以上存在するといわれる**「浅間神社(せんげんじんじゃ)」
その総本社は静岡県富士宮市の
富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ)**であり、
霊峰・富士山そのものを御神体と仰ぐ古社です。

浅間信仰は富士山の噴火鎮めとともに広がり、
日本人の“山岳信仰”と“美神信仰”を象徴する存在として、
古代から現代に至るまで人々に親しまれています。


■ 主祭神:木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)

浅間神社の主祭神は、木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)
天照大神の孫・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の妃として知られる、
「花のように咲く生命」「火と水を司る山の神」として崇敬されています。

【ご神徳】

  • 安産・子授け
    炎の中で子を産んだ神話に由来し、安産祈願の神として全国で信仰。
  • 家内安全・火防(ひぶせ)
    火中出産の逸話から火難除けの御利益。
  • 芸能・美貌成就
    その名が「花咲く」を意味するように、美の象徴とされ、女性守護としても人気。
  • 登山安全・自然鎮護
    富士山信仰と一体化し、山岳の神・自然の守護神として崇敬を集める。

■ 全国の有名な浅間神社

● 富士山本宮浅間大社(静岡県富士宮市)《総本社》

全国の浅間神社の頂点に立つ総本宮。
富士山の噴火鎮めを祈るため、平安初期の延喜年間(9世紀初頭)に坂上田村麻呂が現在地へ社殿を遷座。
湧玉池(わくたまいけ)をはじめ、湧き水が豊富な神域は霊気に満ちています。
富士山頂にも奥宮があり、「山そのものが御神体」という日本有数の信仰形態を今に伝えています。


● 北口本宮冨士浅間神社(山梨県富士吉田市)

富士山の北麓に鎮座し、登山道の入口に位置する古社。
壮麗な社殿群と荘厳な杉並木が特徴で、武田信玄の崇敬が厚かったことでも知られます。
山梨県を代表するパワースポットです。


● 浅間神社(東京都大田区)

東急池上線沿いにある「東京で一番高い自然の山」洗足池富士塚を有する神社。
江戸時代の富士講信仰の名残が今も残り、富士山信仰の文化遺産としても貴重です。


● 京都府京都市右京区:嵯峨野 産土神社(別称・嵯峨浅間神社)

平安時代、嵯峨天皇が皇后の安産を祈願して勧請。
木花咲耶姫命の安産伝説にちなみ、京の人々から「産の神」として厚く信仰されました。


● 鹿児島県指宿市:枚聞神社(ひらききじんじゃ)

九州における浅間信仰の影響を色濃く残す古社。
「開聞岳(かいもんだけ)」を御神体とし、“薩摩富士”と呼ばれる山岳信仰と結びついています。
富士信仰が全国に広がった象徴的な例の一つです。


■ 浅間神社系の特徴

浅間神社系の最大の特徴は、山岳信仰と火山信仰の融合にあります。

◆ 特徴まとめ

  1. 富士山そのものを御神体とする
    • 自然崇拝の原型がそのまま残る。
  2. 火山鎮護と水の恵みへの感謝
    • 火の神でありながら湧水・農耕の神としても信仰。
  3. 女性守護・美徳信仰
    • 木花咲耶姫命が象徴する「花の美」「母性」「純潔」が信仰の中心。
  4. 富士講・富士塚文化の形成
    • 江戸時代、庶民が富士登拝を疑似体験するために築いた「富士塚」が全国に広がった。
  5. 地域ごとの山と結びつく
    • 富士山を原点としながら、各地の山(開聞岳、阿蘇山、浅間山など)と習合していく。

■ 神仏習合と浅間信仰の仏教的側面

浅間神社は神仏習合の時代に、
富士山そのものが仏教の聖地とみなされ、「富士権現(ふじごんげん)」として信仰されました。

◆ 習合した主な仏尊

  • 浅間大菩薩(せんげんだいぼさつ)
    木花咲耶姫命が菩薩として現れた姿とされ、女性の救済や安産の仏として信仰。
  • 大日如来(だいにちにょらい)
    富士山の「火と光」の象徴が大日如来と重ねられ、山岳修行の対象となる。
  • 十一面観音菩薩(じゅういちめんかんのんぼさつ)
    女性守護・安産・救済の側面から同一視され、富士権現と共に祀られる例も多い。
  • 不動明王(ふどうみょうおう)
    火の神である木花咲耶姫命と共鳴し、修験道では富士山の守護仏として祀られた。

また、修験道の影響で「富士山登拝=悟りへの道」とされ、
登山は信仰修行そのものとして位置づけられていました。


■ おわりに 〜美と生命を象徴する女神信仰〜

浅間神社系の神々は、自然の猛威と美しさ、母性と強さを兼ね備えた存在です。
噴火という破壊の中にも、恵みと再生を見出す日本人の自然観を象徴しているといえるでしょう。

木花咲耶姫命のように、花のように咲き、燃えるように生きる——
そんな祈りが、今も全国の浅間神社に息づいています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました