■ 香取神宮系とは
「香取神宮(かとりじんぐう)」は、千葉県香取市に鎮座し、常陸国一之宮・鹿島神宮と並んで東国随一の古社として知られます。古くから武神として朝廷や武家の崇敬を集め、その分霊を祀る「香取神社」は全国に約400社以上存在します。香取神宮を中心としたこの系統を「香取神宮系」と呼びます。
この系統は、東国鎮護・武運長久の守護神として、古代の防衛拠点や戦国時代の武将ゆかりの地に多く勧請されました。
■ 主祭神
経津主大神(ふつぬしのおおかみ)
『日本書紀』に登場する国譲りの神で、天照大神の命を受けて出雲の大国主命を説得し、日本の国土を天孫に譲らせたとされる神です。剣を象徴とする武神・勝運の神であり、国家鎮護・平和の守護神として信仰されてきました。
その神名に含まれる「フツ」は剣の鋭く鳴る音を意味し、「物事を断ち切る」「正邪を裁く力」を象徴しています。
■ 全国の主な香取神社
香取神宮の分霊は古くから全国に勧請され、特に関東・東北地方に多く見られます。以下はその中でも著名な神社です。
- 香取神宮(千葉県香取市)
総本社。創建は神武天皇18年と伝えられ、古代から「東国鎮護」「武運長久」の神として崇敬されてきた。鹿島神宮の武甕槌神とともに国家鎮護の二大神とされ、祭神の経津主大神は「香取の大神」と呼ばれる。 - 香取神社(東京都墨田区)
隅田川沿いに鎮座し、江戸時代には徳川家からも信仰を受けた古社。勝運祈願・厄除開運の神として多くの参拝者を集める。 - 香取神社(茨城県潮来市)
鹿島神宮に近く、香取・鹿島両神を祀る地域の守護神として信仰されている。香取・鹿島の祭りは地域を代表する伝統行事。 - 香取神社(埼玉県さいたま市岩槻区)
関東武士の信仰が厚く、戦勝祈願・交通安全の神として地域の崇敬を集めている。 - 香取神社(宮城県仙台市)
東北地方への勧請例として知られ、戦国期に伊達家によって崇敬されたと伝わる。
■ 香取神宮系の特徴
- 武神信仰の中心
経津主大神は「剣の神」であり、戦に勝つ力・邪を祓う力を持つ神として古代より武人や武家の篤い信仰を受けました。源頼朝・徳川家康なども香取神宮を崇敬していたと伝わります。 - 鹿島神宮との深い関係
香取神宮は鹿島神宮(武甕槌神)と常に対をなす存在です。両社の神は共に「国譲り」の神として出雲へ赴いたとされ、東国守護・国家鎮護の象徴とされました。このため、香取・鹿島両神を並祀する神社も各地に多く見られます。 - 勧請の広がり
奈良時代以降、朝廷が東国経営を進める中で香取神宮の神威が重視され、地方官や武士によって各地に分霊が祀られました。特に関東・東北には「鹿島・香取」両社を一対で祀る例が多く残ります。 - 神剣の象徴性
経津主大神が持つ「布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)」は、霊剣として国家の守護を意味します。後に物部氏の祖神・饒速日命が伝えたとされ、武神信仰・剣信仰の原点ともなりました。
■ 神仏習合の影響
中世以降、香取信仰は密教や仏教と結びつき、経津主大神は「不動明王」や「毘沙門天」と習合しました。
- 不動明王(ふどうみょうおう):剣と炎を持ち、悪を断ち切る姿が経津主大神の「裁断・制止の神徳」と共通する。
- 毘沙門天(びしゃもんてん):戦勝・武運の神であり、武人の守護神として香取信仰と結びついた。
また、修験道の影響を受けた地域では、香取の神を「鎮護国家・降魔の神」として祀る信仰形態も見られました。
■ まとめ
香取神宮系の神々は、古代から現代に至るまで「武の守護神」「国家鎮護の神」として崇敬されてきました。
経津主大神の力は、単なる戦勝ではなく、「正義を貫き、乱を鎮める力」を象徴しています。
香取神宮系の神社を巡ると、どの地にも「武の気」「静けさの中にある強さ」を感じることができます。それは、日本人の心の中に古代から受け継がれる「秩序と平和を守る祈り」そのものといえるでしょう。

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