◆はじめに
玄界灘に浮かぶ島、壱岐(いき)。
古代より日本と大陸を結ぶ要衝として栄えたこの島には、海の民たちの信仰が息づいています。
その中心的存在が、長崎県壱岐市勝本町に鎮座する「海神神社(かいじんじんじゃ)」。
延喜式神名帳にもその名を連ねる式内社であり、壱岐国の一之宮として古代から厚い崇敬を受けてきた格式高い神社です。
「海の神を祀る社」として、航海安全・漁業繁栄・海上守護のご利益で知られています。
◆神社の概要
- 名称:海神神社(かいじんじんじゃ)
- 鎮座地:長崎県壱岐市勝本町仲里仲触182
- 社格:壱岐国一之宮・延喜式内社・旧国幣中社
- 御祭神:
- 底津綿津見神(そこつわたつみのかみ)
- 中津綿津見神(なかつわたつみのかみ)
- 上津綿津見神(うわつわたつみのかみ)
この三柱の神は総称して「綿津見三神(わたつみのさんしん)」と呼ばれ、
古事記や日本書紀に登場する「海の神様」です。
◆御祭神・綿津見三神とは?
綿津見三神は、伊邪那岐命が禊(みそぎ)を行った際、
「海水(わた)」から生まれた三柱の神とされています。
- 底津綿津見神:海の底を司る神
- 中津綿津見神:海の中層を司る神
- 上津綿津見神:海の表面を司る神
それぞれが海の異なる層を支配し、
海全体の安定と恵みをもたらす神々として、古代から航海民・漁民の信仰を集めました。
壱岐が古代海上交通の中継地であったことからも、海神信仰の中心として栄えたことがうかがえます。
◆宇賀福の神としての信仰
海神神社の神々は、海の守護だけでなく、
豊漁・商売繁盛・金運上昇をもたらす「宇賀福(うがふく)」の神としても信仰されています。
大漁を願う漁師や、海を渡る商人たちは、古来より出港前にこの神社で祈願し、
航海の安全と帰港の無事を祈りました。
◆歴史
『延喜式神名帳』(平安時代)に「壱岐國壱社 海神神社」として記載されており、
創建は少なくとも1000年以上前に遡ります。
古代には「海神宮」や「和多都美社」とも呼ばれ、
海上交通の守護神として朝廷や武家からの崇敬も厚く、特に平安・鎌倉期には遣唐使の航路安全祈願所として重要な役割を果たしました。
また、壱岐島には「魏志倭人伝」にも登場する古代国家・一支国(いきこく)が存在したとされ、
その中心地の近くに鎮座していた海神神社は、古代国家祭祀の中枢でもあったと考えられています。
◆見どころ
◇苔むす石段と神秘的な森
海神神社の最大の特徴は、社殿へと続く長い石段。
樹齢数百年の杉や樫の木々が生い茂る参道は、まるで“異界への入口”のような神秘的な雰囲気に包まれています。
100段を超える石段を登る途中、足元には一面の苔が広がり、
古代からの信仰の深さと時の流れを感じさせます。
この風景は「日本の名参道100選」にも選ばれています。
◇本殿・拝殿
社殿は江戸時代に再建されたもので、木造の簡素ながらも荘厳な佇まい。
近くには「潮の音」が響き、まるで海の神々がすぐそばにいるかのような感覚を覚えます。
◇御朱印
海神神社の御朱印は、波をイメージした「海の文様」と神名が記された美しいもの。
壱岐の旅の記念にぜひいただきたい一枚です。
◆ご利益
- 航海安全
- 漁業繁栄
- 商売繁盛
- 金運上昇
- 家内安全
- 厄除け
壱岐の漁師や船乗りにとって、海神神社は“命を預ける神”であり、
現代でも海難防止祈願や新造船の安全祈願が多く行われています。
◆祭事・行事
- 例大祭(10月15日):海の恵みに感謝し、五穀豊穣・航海安全を祈る島最大の祭典。神輿が地区を練り歩き、太鼓や笛の音が響き渡ります。
- 祈年祭(2月17日):春の豊漁を祈る神事。地元漁師が集まり、海上安全を祈願します。
- 大祓式(6月・12月):半年の罪穢れを祓う伝統儀式。
◆アクセス情報
- 所在地:長崎県壱岐市勝本町仲里仲触182
- アクセス:
壱岐島・郷ノ浦港または芦辺港から車で約25分
壱岐交通バス「勝本小学校前」停留所から徒歩約10分 - 駐車場:あり(無料)
◆まとめ
壱岐の「海神神社」は、古代より海を渡る人々を守り続けてきた神々の社。
苔むす参道と深い森が織りなす神秘的な空間は、まさに“神が降りる島”の象徴ともいえる場所です。
航海安全や金運上昇の祈願はもちろん、
静寂の中で自然と神の気配を感じたい方にもおすすめの神社です。
海の青と森の緑に包まれた壱岐の聖地、
「海神神社」で、太古から続く海人の信仰の息吹に触れてみてはいかがでしょうか。

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