【神社めぐり】島根県 美保神社 えびす信仰の総本社と呼ばれる古社

今回は島根県松江市美保関町に鎮座する「美保神社(みほじんじゃ)」をご紹介します。出雲大社と並び、島根を語る上で欠かせない大社であり、日本全国に広がる“えびす信仰”の中心的存在として知られます。

■ 主祭神

事代主神(ことしろぬしのかみ)
三穂津姫命(みほつひめのみこと)

事代主神は大国主神の子神で、漁業の神・商売繁盛の神として全国的に信仰があります。三穂津姫命は事代主神の后神とされ、この夫婦神を祀る社としての格式が、美保神社の大きな特徴の一つです。

■ 歴史的背景・社伝

創建年代は定かではないものの、平安初期成立の『延喜式神名帳』にも記載があり、古代から出雲地方の重要な信仰の中心でした。

社伝には「事代主神が美保関の海の近くに降りた」とされ、この地で亡くなったとも伝えられます。古代の海上交易でもこの美保関は要所で、漁業・航海・海運と深く結びついた神として崇敬され、神社は海民の精神的中心であったと言えます。

特に中世以降、出雲大社が「大国主神」の信仰の中心となるのに対し、美保神社は「その子である事代主神」の信仰中心として、出雲地域は“父と子の信仰の中枢が同じ地域に並立する”という極めて稀な神域構造を持つようになりました。

■ 不思議な信仰・独自の祭儀

美保神社には「美保神楽」が伝わっています。出雲大社の「出雲神楽」とはまた異なる系譜を持ち、独特の演式と楽曲を有します。これは海民文化と深く関係していると考えられ、出雲神話世界の多層性を肌で感じられる文化遺産でもあります。

また、毎月7日には「七日えびす」と呼ばれる祭が行われ、商売繁盛・漁業繁栄の祈願に訪れる人が全国から訪れます。

事代主神を祀る美保神社を「えびす神の総本社」と呼ぶ説があるのも、この一連の信仰が全国に広がった背景によるものです。

■ 見どころ

・美保関の海に面した神域
海と社殿の距離が極めて近く、この地に海神・海の民の歴史が深く刻まれてきたことが直感的に伝わります。

・国重要文化財の本殿
二殿並立の「美保造り」と呼ばれる特殊な社殿様式で、これも美保神社の大きな特徴。建築史的にも他に例が少ない貴重な存在です。

・美保関の港町の空気
古代から海運の拠点であったこの地の地域背景を、歩くだけで感じることができます。

■ まとめ

美保神社は、出雲神話の中で“海を中心とした信仰”の核となる大社です。漁業・商い・交易・海上交通と深く結びついた神社として栄え、いまなお全国のえびす信仰の中心地として人々の信仰を集め続けています。

出雲神話を立体的に理解したいなら、出雲大社とセットで必ず訪れるべき神社です。出雲の父(大国主)と子(事代主)の信仰が共存するこの地域は、日本神話の奥行きが最も濃く感じられる場所の一つと言えます。

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