今回紹介するのは、鹿児島県指宿市、開聞岳の麓に鎮座する「枚聞神社」です。薩摩国一宮として知られ、その荘厳さと、南九州の海と山に守られた静けさ、そして開聞岳信仰と深く結びついた古社として、古くから崇敬を集めてきました。
主祭神
主祭神は「大日霎尊(おおひるめのみこと)」
一般には天照大神と同一視されます。
南九州では天照大神を「大日霎尊」と表記する社が散見されますが、その典型的な代表が枚聞神社です。
歴史的背景・由緒
枚聞神社は、古代から開聞岳を神体山として信仰が起きたことに始まるとされ、鎮座の起源は非常に古いと伝わります。開聞岳は「薩摩富士」とも呼ばれ、その山容は古代から海上交通のランドマークでもあり、海の神・航海の守護神としての信仰が極めて強かった地域です。
薩摩国一宮として格式の高い神社であり、『続日本後紀』の承和4年(837)の記録に見えることからも、平安初期の段階ですでに中央から認識されていた古社であることが分かります。
また、江戸時代には薩摩藩の保護も厚く、薩摩の国家的シンボルとして機能していました。
現代でも息づく海の信仰
枚聞神社は今でも漁業者・海に関わる人々の信仰が篤く、航海安全祈願で参拝される方は多くいます。薩摩半島南端という地理的条件、黒潮の近さ、南島との交流、これらの歴史的文脈を考えると自然で、土地の歴史そのものが信仰となっている典型的な地域神社と言えます。
拝殿・境内の見どころ
朱色が鮮やかな社殿が印象的で、開聞岳の緑と鮮やかな対比を見せます。境内からも開聞岳が重厚にそびえ、まさに山と神と人が一体化したような景観を感じられます。
また、境内には南薩摩ならではの文化・気配が感じられ、南国特有の気候による植物や空気感も含め、神社空間そのものが一つの歴史的資料となっています。
不思議な話・伝承的な側面
枚聞神社は、霧島神宮と同様、南九州における天照大神信仰の非常に重要なポイントとなっており、開聞岳は「神々が集う地」とも言われる場所です。特に薩摩における天照大神信仰は、伊勢とは別系統として語られることもあり、こうした地域性がしっかり色濃く残っている神社の一つです。
また、古代においては南海との往来や交易も盛んだったと考えられ、海の道を介して信仰や文化が行き交ったハブとしての役割も想定されています。「海のアマテラス」という表現が成立し得るほど、航海と天照大神信仰の融合が見られる場所です。
まとめ
枚聞神社は南九州の神社の中でも歴史の層が非常に厚く、神話・民俗・海上交通史が同居したような古社です。
なぜ南九州では天照大神を「大日霎」と書くのか
なぜ薩摩国一宮がこの場所なのか
その答えのヒントは、開聞岳と海という、大自然そのものの存在にあります。
この神社はただ見るのではなく、周囲の景観・地形・土地の空気と合わせて感じることによって理解が深まるタイプの神社です。歴史好き・古代史好きには特に訪れておくべき神社と言えると思います。
  
  
  
  
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