【神社めぐり】出雲神話の入口に立つ「揖夜神社」──イザナミの御魂を祀る地、神々の境界

■ 出雲の黄泉平坂近くに鎮座する古社

島根県松江市東出雲町揖屋(いや)に鎮座する**揖夜神社(いやじんじゃ)は、日本神話の女神伊邪那美命(いざなみのみこと)を主祭神とする神社です。社の名「揖夜(いや)」は古くから「黄泉(よみ)」と関係が深く、すぐ近くには黄泉比良坂(よもつひらさか)**があり、「現世と黄泉の国の境」と伝えられています。

揖夜神社はこの地の産土神であり、また出雲国風土記にも記載されている由緒ある古社です。出雲国造家の奉斎を受けた格式の高い神社として知られ、長い歴史の中で「死と再生」「生と死の境」を象徴する特別な聖地として信仰を集めてきました。


■ 御祭神と御由緒

  • 主祭神:伊邪那美命(いざなみのみこと)
  • 相殿神:伊邪那岐命(いざなぎのみこと)

『古事記』や『日本書紀』によれば、伊邪那美命は火の神・軻遇突智(かぐつち)を生んだ際に火傷を負い、命を落としたとされています。夫の伊邪那岐命は嘆き悲しみ、黄泉の国に彼女を追って訪れます。その入口が、まさにこの揖屋の地と伝えられています。

揖夜神社は、黄泉の国に旅立った伊邪那美命の御霊を鎮めるために創建されたといわれ、その地は“生と死の境界”を象徴する神聖な場です。


■ 歴史と伝承

揖夜神社は**『出雲国風土記』(733年)**に「伊布夜社(いふやのやしろ)」として登場します。古代から出雲地方の信仰の中心地の一つであり、かつては広大な社領を誇っていました。

また、黄泉比良坂伝承地とともに、「この世とあの世の境界線」「命の循環を感じる場所」として多くの人々が訪れます。古代の人々は、死を忌むべきものとするよりも「命が巡る自然の摂理」として捉えていたようで、この地に宿る霊的な静けさは今もなお感じられます。


■ 見どころ

● 鳥居と参道の静けさ

揖夜神社の参道は樹齢数百年の木々に囲まれ、まるで異界への入口に導かれるような厳かな雰囲気に包まれています。参道の奥に佇む社殿は、どこか「黄泉の国」への境を思わせる神秘的な静けさ。

● 伊邪那美命の御陵伝承地

境内の裏手には、「伊邪那美命の御陵」と伝えられる古墳状の塚があります。ここは出雲地方でも特に霊的なエネルギーを感じる場所として知られ、今も手を合わせる参拝者が絶えません。

● 黄泉比良坂への道

神社から車で数分の場所には「黄泉比良坂伝承地」があります。古代の神話に登場する“あの世への坂道”を実際に歩くことができ、揖夜神社と合わせて訪れることで、出雲神話の世界観をより深く体感できます。


■ ご利益

揖夜神社は、伊邪那美命の「母神」としての性格から、

  • 安産・子授け
  • 縁結び
  • 家内安全
    といった生命に関するご利益があると伝えられています。
    また、命を司る女神として「再生」「復活」「厄除け」のご加護を授かるともいわれています。

■ アクセス情報

  • 所在地:島根県松江市東出雲町揖屋2229
  • アクセス:JR揖屋駅から徒歩約10分
  • 駐車場:あり(無料)
  • 周辺スポット:黄泉比良坂伝承地、出雲玉造温泉、意宇六社めぐり

■ まとめ:神話と現実が交差する「境界の神社」

揖夜神社は、伊邪那美命を祀る神社の総本社的存在であり、出雲神話の“生と死”という壮大なテーマを肌で感じられる特別な場所です。

黄泉比良坂とあわせて訪れれば、神話の舞台を実際に歩くような感覚が得られるでしょう。
出雲の深淵なる神話世界に思いを馳せる旅路の一歩として、ぜひ一度足を運んでみてください。

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