延命長寿の大神から、山と水の神へと至る祈りの道
滋賀県東部、犬上郡多賀町から彦根市一帯にかけて伝わる**「多賀三社詣り」**。
これは、
- 多賀大社(たがたいしゃ)
- 胡宮神社(このみやじんじゃ)
- 大瀧神社(おおたきじんじゃ)
という三社を巡拝する、古くからの信仰習俗です。
単なる観光的な神社巡りではなく、
「命の根源 → 生成の場 → 清めと再生」
という、極めて日本神道的な世界観を体現した参拝形態であり、江戸時代には多賀講を中心に広く行われていました。
本記事では、
- 多賀三社詣りの成立背景
- 各神社の由緒・御祭神・信仰内容
- 三社を巡る意味と順序
- 現代における参拝の意義
を、できる限り史実と信仰の両面から詳しく解説します。
1.多賀三社詣りとは何か
■ 多賀信仰を中心とした「複合的参拝」
多賀三社詣りは、多賀大社を中心核としながら、その周辺に点在する古社を併せて参拝する信仰形態です。
江戸時代には、
- 伊勢神宮参拝
- 多賀大社参拝
- 西国三十三所巡礼
と並び、**「延命・家内安全・五穀豊穣」**を願う庶民信仰として全国に広まりました。
特に近江・美濃・尾張・伊勢方面からの参拝者が多く、
多賀三社詣りは 多賀講の正式な行程の一部 として行われていました。
2.第一社:多賀大社
―― 命を司る「お伊勢さんの親神」
■ 基本情報
- 所在地:滋賀県犬上郡多賀町多賀604
- 主祭神:
- 伊邪那岐大神(いざなぎのおおかみ)
- 伊邪那美大神(いざなみのおおかみ)
■ 「お伊勢さんの親神」と呼ばれる理由
多賀大社の御祭神である伊邪那岐・伊邪那美は、
- 天地を開き
- 国土を生み
- 神々を生んだ
**日本神話における“創造神”**です。
天照大神の父母神にあたることから、
古来より 「お伊勢さんの親神」 と称されてきました。
■ 延命長寿の信仰
多賀大社最大の特徴は、延命長寿の御神徳です。
これは、
- 伊邪那岐大神が黄泉国から帰還し
- 禊(みそぎ)によって再生した神話
に由来するとされ、
「命は尽きるものではなく、清めによって更新される」
という思想が、多賀信仰の根底にあります。
このため、
- 長寿祈願
- 病気平癒
- 家系繁栄
といった祈願が特に盛んでした。
■ 多宝の象徴「太閤橋」
境内に架かる太閤橋は、豊臣秀吉が母・大政所の病気平癒を願って寄進したと伝わります。
- 橋を渡る=俗世から神域への移行
- 命を更新する境界
という象徴的意味を持つ橋であり、多賀信仰の精神を視覚的に表しています。
3.第二社:胡宮神社
―― 生成と実りを司る近江の古社
■ 基本情報
- 所在地:滋賀県犬上郡多賀町敏満寺49
- 主祭神:
- 天御影命(あめのみかげのみこと)
- 天照大神
■ 天御影命とは何者か
天御影命は、
製鉄・鍛冶・農耕技術に関わる神として信仰されてきた神で、
- 大地を耕し
- 道具を生み
- 生活基盤を整える
**「生成・生産の神」**といえます。
■ 多賀大社との関係性
多賀大社が「命そのもの」を司る神社であるのに対し、
胡宮神社は、
命がこの世で“営まれるための力”
を司る神社です。
そのため多賀三社詣りでは、
- 多賀大社で命を授かり
- 胡宮神社で生活と繁栄を祈る
という流れが成立します。
■ 山上の聖域としての胡宮神社
胡宮神社は、山中に鎮座する神社であり、
- 磐座信仰
- 山岳信仰
- 古代祭祀の名残
が色濃く残っています。
境内に立つと、
「人が自然の一部として生きている」
という感覚を強く覚える場所です。
4.第三社:大瀧神社
―― 水と清め、再生の神
■ 基本情報
- 所在地:滋賀県犬上郡多賀町大瀧
- 主祭神:
- 水分神(みくまりのかみ)系の神格
■ 大瀧神社の本質
大瀧神社は、
- 滝
- 清流
- 山水
と一体化した神社であり、
**「水による浄化と再生」**を象徴します。
古来、水は
- 罪穢れを洗い流す
- 新たな生命を生む
- 境界を越える力
を持つと考えられてきました。
■ 多賀三社詣りの「結び」
三社目に大瀧神社を詣ることで、
- 命を授かり(多賀大社)
- 命を営み(胡宮神社)
- 命を清め、次へつなぐ(大瀧神社)
という一連の循環が完成します。
これはまさに、
日本神話における「死と再生」の構造そのものです。
5.多賀三社詣りの正しい巡り方
■ 基本的な参拝順
- 多賀大社
- 胡宮神社
- 大瀧神社
※逆順に回ると「意味が薄れる」とされた時代もあり、
古来はこの順が重視されました。
■ 現代の参拝における注意点
- 山道が多いため歩きやすい服装
- 雨天時は足元注意
- 時間に余裕を持つこと
三社すべてを巡ることで、
単独参拝では得られない精神的な深みを感じられます。
6.現代における多賀三社詣りの意義
現代社会においても、多賀三社詣りは、
- 家族の健康
- 人生の節目
- 心身のリセット
に非常に適した参拝です。
単なる「願掛け」ではなく、
「自分の命の流れを見つめ直す旅」
として行うことで、
多賀三社詣りは今もなお、生きた信仰として息づいています。
■ まとめ
多賀三社詣りとは、
- 命の根源を知り
- 命の営みを感謝し
- 命を清め、次へつなぐ
日本人の生命観そのものを体験する参拝です。
滋賀の山と水に抱かれながら、
ぜひ一度、三社を通して巡ってみてください。
きっと、
「なぜ昔の人々がこの道を歩いたのか」
その答えを、身体で感じられるはずです。

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