名古屋市緑区に鎮座する氷上姉子神社(ひかみあねごじんじゃ)。
熱田神宮の境外摂社として知られ、草薙剣にまつわる創祀の伝承を持つ由緒ある神社です。その境内にはいくつかの末社があり、そのひとつが今回ご紹介する**朝苧社(あさおしゃ)**です。
この朝苧社には、少し珍しい神霊が祀られています。ご祭神は 火上老婆靈(ひかみうばのみたま)。名前からも不思議な力を感じさせる存在です。
朝苧社とは?
朝苧社は氷上姉子神社の境内末社のひとつで、比較的小さな社殿ながら、地域の人々に篤く信仰されてきました。
「苧(お)」とは、麻やカラムシなどの繊維のことを意味し、古代から衣服や生活の必需品を支える大切な植物でした。社名の「朝苧」には、日の出とともに糸を績む女性たちの姿が重なり、暮らしに根差した信仰を感じさせます。
火上老婆靈(ひかみうばのみたま)とは?
この社に祀られているのが、火上老婆靈です。名前を分解すると、
- 「火上(ひかみ)」 … 火を司る、あるいは火を扱うことに優れた存在
- 「老婆」 … 年長の女性、知恵や経験を持つ象徴
- 「靈」 … 神霊・御魂
つまり「火を扱う知恵を持つ老女の霊」と解釈することができます。
古来より火は生活の中心にあり、調理、暖房、製鉄や製陶など、文化の発展に欠かせない要素でした。一方で、火は扱いを誤れば大火事を引き起こす恐ろしい存在でもあります。火上老婆靈は、この火を守り、正しく使う知恵を授けてくれる存在と考えられてきたのです。
信仰の意味
火上老婆靈への信仰には、次のようなご利益が伝えられています。
- 火防(ひぶせ)・火難除け … 火災から家を守る
- 生活守護 … 竈(かまど)や台所の安全を見守る
- 手仕事上達 … 火を使う工芸や料理の上達を導く
また「老婆」という名が示すように、人生経験を重ねた長寿や家庭円満の象徴ともされ、家庭を守る女神的な存在としても信仰されました。
まとめ
氷上姉子神社の境内末社・朝苧社に祀られる火上老婆靈は、日々の生活を支えてきた「火」の守護神です。
火を恐れながらも共に生きてきた古代人の知恵が、この神霊の姿に重なっているといえるでしょう。
氷上姉子神社を訪れた際には、ぜひ朝苧社にも手を合わせ、家庭と暮らしを見守る火上老婆靈の温かな力を感じてみてください。
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