これまで当ブログの【神社めぐり】や【名所めぐり】で、度々その名前が登場してきた古代の偉大な天皇を覚えていますでしょうか?
- 疫病を鎮めるために墨坂の神を祀った(墨坂神社)
- 天照大御神を皇居の外へ祀り、元伊勢の旅のきっかけを作った
- 箸中山古墳に眠る巫女「モモソヒメ」の時代を治めた
これらすべてのエピソードの中心にいるのが、第10代崇神(すじん)天皇です。 今回は、古代日本の国家としての枠組みを実質的に創り上げ、歴史学・考古学の世界でも「実在した最初の天皇」として有力視される彼の巨大な御陵、崇神天皇陵(行燈山古墳)をご紹介します。
山の辺の道の美しい自然に溶け込む、圧倒的なスケールと古代のロマンを徹底解説します。
1. 崇神天皇陵とは? —— 国家の基礎を築いた「御肇国天皇」の安息地
崇神天皇陵(すじんてんのうりょう)は、奈良県天理市柳本町に位置する、全長約242メートルの巨大な前方後円墳です。正式な遺跡名は「行燈山(あんどんやま)古墳」と呼ばれています。
- 「初めて国を治めた」王: 『古事記』では、彼のことを「御肇国天皇(はつくにしらすすめらみこと)」と称えています。これは「初めて国を創り、治めた天皇」という意味です。初代・神武天皇から9代までの天皇は神話的な色彩が非常に強いのに対し、10代目の崇神天皇からは具体的な政治、人口調査、税制(男の弓矢の調、女の紡績の調)、そして外国や地方との交渉がリアルに描かれるため、彼こそがヤマト王権の実質的な初代大王(最高権力者)であったと考えられています。
- 宮内庁による管理: 現在は宮内庁により「山邊道上陵(やまのべのみちのえのみささぎ)」として崇神天皇の墓に治定されており、厳重に守られています。
2. 考古学が紐解く「柳本古墳群」の王権ミステリー
箸中山古墳(箸墓古墳)のある纒向(まきむく)エリアから少し北へ移動したこの地は、「柳本(やなぎもと)古墳群」と呼ばれ、崇神天皇陵をはじめとする巨大古墳が密集しています。
圧倒的な水を湛える「渡り土手」の美しさ
崇神天皇陵(行燈山古墳)の最大の特徴は、周囲を巡る広大で深い「周濠(しゅうごう=お堀)」です。 実は、現在の美しい満々たる水は江戸時代の文久の修陵(修復作業)の際、周囲の田畑のための「ため池」として拡張された歴史を持ちます。
前方部と後円部の境界近くには、お堀を横切るように「渡り土手(わたりどて)」と呼ばれる細い土の手すりのような構造が残されており、古代の古墳祭祀(お墓の前で儀式を行うこと)がどのように行われていたかを今に伝える貴重な遺構となっています。
3. 名所めぐりのハイライト:山の辺の道随一の絶景スポット
崇神天皇陵は、日本最古の古道である「山の辺の道(やまのべのみち)」のハイライトとも言える場所にあります。ただ歴史を学ぶだけでなく、散策としての魅力が抜群に高いスポットです。
- ① 正面拝所からの荘厳な眺め: 古墳の西側には、白い砂利が敷き詰められた宮内庁の参拝所(拝所)があります。ここに立つと、遮るもののない広大な水面の向こうに、こんもりとした緑の後円部が美しく聳え立ち、背後には大和の聖山・龍王山が控えています。その静けさと圧倒的な美しさは、時間を忘れて立ち尽くしてしまうほどです。
- ② 周囲の「陪塚(ばいちょう)」を巡る: 崇神天皇陵の周囲には、主人の墓を守るようにいくつかの小さな古墳(陪塚)が配置されています。これらは、天皇に仕えた有力な臣下や、天皇ゆかりの宝物を納めた墓とも言われており、巨大な本体と合わせて歩くことで、当時の「王と臣下」のパワーバランスを視覚的に体感できます。
4. 記紀が伝える崇神天皇の「光と影」
これまでのブログ記事でも触れてきた通り、崇神天皇の治世は決して平坦なものではありませんでした。
前半は謎の疫病によって国民の半分を失うという絶望を味わい(墨坂神社の結界や、大神神社の創建で解決)、後半は四道将軍(しどうしょうぐん)と呼ばれる皇族の将軍たちを全国(北陸・東海・西道・丹波)に派遣し、大和朝廷の支配力を一気に全国区へと押し上げました。
苦難を乗り越え、日本の「形」を創り上げた大王が、自らが切り拓いた大和盆地を見下ろすこの柳本の丘に眠っている——そう考えると、目の前に広がる穏やかなお堀の景色が、より一層深い意味を持って迫ってきます。
5. まとめ:古代国家の夜明けに想いを馳せる
箸中山古墳が「邪馬台国・卑弥呼」という謎に満ちた時代の終わりを告げる象徴だとするならば、この崇神天皇陵(行燈山古墳)は、私たちの知る「日本(ヤマト)」という国家の仕組みがはっきりと動き出した、夜明けの象徴です。
山の辺の道を歩き、心地よい風に吹かれながらこの大王の墓の前に立つとき、1300年以上前の『日本書紀』や『古事記』に記された文字の羅列が、確かな「歴史」として目の前に立ち現れる瞬間を感じることができます。
歴史ファン、神社仏閣巡りが好きな方には絶対に訪れてほしい、大和の至宝です。
崇神天皇陵(行燈山古墳)
- 所在地:奈良県天理市柳本町
- アクセス:JR万葉まほろば線(桜井線)「柳本(やなぎもと)駅」から東へ徒歩約10分。
- おすすめの散策ルート:近隣にある「黒塚古墳(三角縁神獣鏡が大量に出土したことで有名)」や、さらに南にある「箸中山古墳」を巡る【大和王権の誕生ルート】は、古代史ファンに最も人気のある歴史ウォーキングコースです。周囲には柿の木畑やのどかな集落が広がり、歩くだけで癒されます。

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