◆はじめに
京都府宮津市の丹後半島に鎮座する「籠神社(このじんじゃ)」は、
天照大神が伊勢へ遷御する前に一時鎮まったと伝わる「元伊勢」として知られる古社です。
海の京都・天橋立のすぐそばにあり、古代から「日本の精神文化の発祥地」とも称されるほどの霊験あらたかな場所。
伊勢神宮の原点ともいえるこの地は、神々の物語と日本神話の記憶を今に伝えています。
◆神社の概要
- 名称:籠神社(このじんじゃ)
- 鎮座地:京都府宮津市大垣430
- 社格:旧官幣大社・丹後国一之宮・延喜式内社
- 御祭神:
- 主祭神:彦火明命(ひこほあかりのみこと)
- 相殿神:豊受大神(とようけのおおかみ)
- 他に天照大神・海神・天御中主神などの伝承あり
◆御祭神・彦火明命とは?
主祭神の**彦火明命(ひこほあかりのみこと)**は、天照大神の孫神であり、天孫降臨神話において重要な神格を持つ神です。
「天火明命(あめのほあかりのみこと)」とも呼ばれ、天照大神の御子・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の兄神にあたる存在とされます。
一説では、彦火明命こそが天照大神の“もう一つの姿”であり、太陽神の化身とも伝えられています。
古代において、天孫族(天照大神の系統)が丹後に降臨したという伝承が残ることから、
籠神社は「天照大神の神霊が初めて降臨した場所」として信仰されてきました。
◆籠神社と「元伊勢」伝承
籠神社の最大の特徴は、**「元伊勢」**としての由緒です。
『倭姫命世記』によると、
天照大神をお祀りするために倭姫命(やまとひめのみこと)が各地を巡行し、最終的に伊勢へ至る途中、
この丹後の地・籠神社に一時的に御鎮座されたと伝わります。
そのため、籠神社は「天照大神が伊勢へ遷る以前に祀られた場所=元伊勢」として、
伊勢神宮外宮・内宮双方の原点にあたる神社とされているのです。
特に相殿の**豊受大神(とようけのおおかみ)**は、
後に伊勢神宮の外宮に祀られるようになった食物神であり、
その“発祥の地”が籠神社であると伝わります。
◆神社の歴史
創建は神代の時代ともいわれるほど古く、実際に記録上も2000年以上前に遡るとされます。
古くは「吉佐宮(よさのみや)」と称され、
天照大神が伊勢へ遷御した後も、皇族・朝廷から深い崇敬を受け続けてきました。
平安時代には延喜式神名帳に「籠神社」の名が記され、丹後国の一之宮として格式を誇りました。
また、中世には神仏習合の影響を受け、「成相寺」とともに信仰の中心地として発展。
明治時代には旧官幣大社に列せられ、現在も多くの参拝者が全国から訪れます。
◆ご利益
籠神社のご利益は多岐にわたりますが、特に次のようなご利益で知られています。
- 開運招福
- 商売繁盛
- 五穀豊穣
- 家内安全
- 縁結び
- 交通安全
- 厄除け
中でも「天照大神」と「豊受大神」をともに祀る神社は全国でも非常に珍しく、
“陽と食の両面”を司る開運・繁栄の神社として厚く信仰されています。
◆見どころ
◇天橋立と一体の聖地
籠神社は、日本三景のひとつ「天橋立」の北端に位置しています。
古代にはこの天橋立が“天上界と地上界をつなぐ梯子”であると信じられており、
まさに神々が往来する聖なる場所に籠神社が鎮座しているのです。
◇本殿・拝殿
現在の社殿は明治時代の再建で、檜皮葺の荘厳な造り。
伊勢神宮の建築様式「神明造」に近く、白木の美しさが際立ちます。
神域全体が清浄に保たれており、足を踏み入れた瞬間に空気が変わるような厳かな雰囲気を感じます。
◇奥宮・真名井神社(まないじんじゃ)
籠神社の北約1kmに位置する「真名井神社」は、その奥宮にあたります。
こちらは籠神社の本源とされ、「元伊勢の元」ともいわれる最重要聖地。
「天の真名井の水」と呼ばれる霊泉が湧き出し、今も多くの参拝者が浄化と祈願のために訪れます。
※真名井神社は撮影禁止のため、静かに参拝するのが作法です。
◆年中行事
- 例大祭(4月24日):平安時代から続く大祭で、舞楽・神輿渡御などが盛大に行われます。
- 新嘗祭(11月23日):収穫を感謝し、五穀豊穣を祈願。
- 歳旦祭(1月1日):初詣には多くの人々が参拝に訪れます。
◆アクセス情報
- 所在地:京都府宮津市大垣430
- アクセス:
京都丹後鉄道「天橋立駅」から天橋立ケーブルカー経由で約15分
「府中」バス停下車徒歩3分
舞鶴若狭自動車道「宮津天橋立IC」から車で約20分 - 駐車場:あり(無料)
◆まとめ
籠神社は、伊勢神宮の源流「元伊勢」として、
日本神話の原点に触れることができる数少ない神社です。
天橋立という神秘的な地形とともに、
天照大神・豊受大神・彦火明命という重要な神々を祀るこの地は、
まさに“日本の始まり”を感じることができる聖域です。
伊勢神宮へ参る前に、まず「元伊勢」へ。
古代から続く神々の系譜をたどりながら、
心静かに手を合わせてみてはいかがでしょうか。

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