静岡県熱海市伊豆山に鎮座する伊豆山神社(いずさんじんじゃ)は、相模湾を望む高台に建ち、古代から「伊豆山権現」として崇敬を集めてきた古社です。関東随一の霊験あらたかな神社の一つであり、源頼朝と北条政子の恋の舞台としても知られることから、「縁結び」「開運」「災難除け」の神として今も多くの参拝者を集めています。
御祭神
伊豆山神社の主祭神は、伊豆大神(いずのおおかみ)。これは三柱の神の総称で、
・正哉吾勝勝速日天忍穂耳命(まさかあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)
・拷幡千千姫命(たらしひめのみこと)
・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)
が祀られています。
これらは天照大神の御系譜に連なる神々であり、天孫降臨の神々を祀る神社としても由緒正しき存在です。
歴史と由緒
社伝によると、創建は約2400年前とも伝えられ、古代より「伊豆山権現」として山岳信仰と温泉信仰が融合した独特の神格を有していました。古名を「走湯山(そうとうさん)」といい、現在も社殿の下方には「走湯(はしりゆ)」と呼ばれる源泉が湧き出ています。この湯は日本三古泉の一つとされ、古代から霊泉として人々を癒してきました。
平安時代には修験道の聖地として隆盛し、やがて関東の守護神として崇敬を集めるようになります。鎌倉時代には、源頼朝が流刑地の伊豆で挙兵する際、伊豆山権現に戦勝を祈願したと伝わり、その後の平家討伐成功によって社勢は大いに高まりました。
北条政子と頼朝が密かに逢瀬を重ねた場所としても知られ、二人が結ばれた後、政子は社前に夫婦円満・子孫繁栄を祈ったと伝えられています。こうした伝承が、伊豆山神社を縁結びの聖地たらしめています。
不思議な話・伝承
伊豆山神社には、古代より「赤白二龍神」の伝承があります。
・赤龍は天の火を司り陽を象徴し、
・白龍は地の水を司り陰を象徴する神。
この二神が力を合わせて天地の調和を保つとされ、伊豆山の神霊はこの「陰陽の調和」の象徴とされています。境内には「赤白二龍」の紋章が随所に見られ、この神話的な世界観を今に伝えています。
また、「走湯神社(はしりゆじんじゃ)」は、伊豆山神社の摂社として源泉のそばに鎮座しており、かつてはこの走湯こそが本社だったともいわれています。噴き上がる熱湯の勢いから、「神の力が地中から湧く」と畏敬されたそうです。
見どころ
・長い石段と海を望む絶景
本殿へと続く837段の石段を登ると、相模湾の美しい眺望が広がります。古来より修行の道ともされ、心身を清めながら参拝する「登拝」の道です。
・本殿の荘厳な造り
朱塗りの社殿は、江戸時代の再建で、日光東照宮を思わせる華やかな彫刻が施されています。境内の「拝殿の龍」も必見です。
・頼朝・政子の腰掛石
二人が語らいを交わしたと伝えられる石が残されており、縁結びのパワースポットとして人気を集めています。
・走湯温泉
古代から「神の湯」と呼ばれた源泉地。現在も熱海温泉郷の源流として人々に親しまれています。
まとめ
伊豆山神社は、古代の温泉信仰、修験道、そして源頼朝・北条政子の恋の伝説が交錯する、まさに歴史と神話が融合した聖地です。
赤白二龍の伝承に象徴されるように、「陰と陽」「火と水」「人と神」が交わる場として、今なお訪れる人々の心を惹きつけています。
静寂の森に包まれ、相模湾を望むこの神域で、古代から連綿と続く祈りの息吹を感じてみてはいかがでしょうか。

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