■ 概要
三重県桑名市多度町に鎮座する**多度大社(たどたいしゃ)は、古くから「伊勢の北の守護神」として崇敬されてきた名社です。
伊勢神宮の「北伊勢大神」とも称され、「お伊勢参りに行くなら多度さんにも」**と語られるほど、人々の信仰を集めてきました。
境内の奥にそびえる多度山は古来より神が鎮まる霊峰とされ、その麓に鎮座する多度大社は、自然と信仰が調和した神聖な空気に包まれています。
■ 歴史と由緒
多度大社の創建は非常に古く、**第11代垂仁天皇の時代(約1900年前)**と伝わります。
『日本書紀』にも「多度神(たどのかみ)」の名が見え、古代から朝廷の崇敬を受けてきました。
御祭神は天津彦根命(あまつひこねのみこと)。
この神は天照大神の御子神であり、伊勢神宮の外宮(豊受大神宮)を守護する神として信仰されています。
また、多度大社は古くから「伊勢神宮の北方守護神」として位置づけられ、伊勢神宮との関係も非常に深い神社です。
中世には源頼朝や織田信長も崇敬し、江戸時代には桑名藩主・松平家の庇護を受けました。
そのため、社殿は荘厳な造りを残しながらも、どこか温かみのある雰囲気を漂わせています。
■ ご祭神とご利益
◯ 主祭神
- 天津彦根命(あまつひこねのみこと)
天照大神の御子神の一柱であり、天孫降臨の際に国土を平定する役目を担ったと伝えられる神です。
また、農業や商業、さらには人の運命を導く神としても信仰されています。
◯ 相殿神
- 天目一箇神(あめのまひとつのかみ)
鍛冶・金属工芸の神であり、産業繁栄や技能上達のご利益をもたらすとされます。
◯ ご利益
- 交通安全
- 厄除開運
- 商売繁盛
- 勝運祈願
- 縁結び
- 家内安全
また、白馬信仰による「雨乞い」「豊作祈願」の神としても知られ、地元では“雨を呼ぶ神”として親しまれています。
■ 伝説と神秘 ― 白馬神事と「上げ馬神事」
多度大社といえば、全国的にも有名なのが**「上げ馬神事(あげうましんじ)」**です。
◯ 上げ馬神事とは
毎年5月4日・5日に行われる多度まつりの中心行事で、
若者たちが全速力で約2メートルの土壁を馬で一気に駆け上がるという勇壮な神事です。
この神事は単なる馬術競技ではなく、古代から伝わる**「神馬(しんめ)」による神託**の儀式。
馬が土壁を登り切ると「その年は豊作になる」とされ、地域の人々にとって豊穣の象徴とされてきました。
その姿はまさに神々への挑戦であり、見物客からも「命がけの神事」と呼ばれるほどの迫力があります。
◯ 白馬の伝説
多度大社では、神の使いは白馬とされています。
ある年、旱魃に苦しむ人々が祈願したところ、白馬に乗った神が現れ恵みの雨を降らせたという伝説が残っています。
現在でも、社殿の近くには神馬が飼育されており、参拝者は実際に白馬を見ることができます。
「神の使い」としての神馬に手を合わせると、幸運に恵まれるといわれています。
■ 境内と見どころ
◯ 本殿
伊勢神宮の社殿様式に似た神明造で、檜皮葺(ひわだぶき)の屋根が美しい荘厳な社殿。
境内の森と調和し、凛とした神気に満ちています。
◯ 神馬舎(しんめしゃ)
境内には白馬「錦山号(きんざんごう)」が飼育されています。
参拝時に会えることもあり、特に子どもたちに人気のスポットです。
◯ 瀧祭神社(たきまつりじんじゃ)
境内奥にある摂社で、伊勢神宮でも重要な神を祀る神社。
水の神として知られ、浄化・厄除け・開運のご利益があるとされています。
■ 年中行事
- 上げ馬神事(5月4日・5日):豊作祈願の勇壮な祭り。
- 御例祭(10月15日):秋の大祭で、五穀豊穣と地域安泰を祈願。
- 歳旦祭(1月1日):新年の祈りとともに初詣で賑わいます。
■ アクセス情報
- 所在地: 三重県桑名市多度町多度1681
- アクセス:
・養老鉄道「多度駅」から徒歩約15分
・名古屋方面から車で約1時間 - 駐車場: あり(無料・有料あり)
■ まとめ
多度大社は、伊勢神宮と並んで古代からの格式を誇る北伊勢の総鎮守。
白馬が駆け上がる上げ馬神事は「神と人とが交わる瞬間」とも言われ、まさに日本の神道文化の原点を感じさせます。
その神々しい多度山の麓で、自然と共に息づく信仰の姿に触れれば、きっとあなたの心にも“神の息吹”が宿るはずです。

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