――神武天皇の兄、悲運の皇子を祀る社――
◾ はじめに
和歌山県和歌山市に鎮座する「竈山神社(かまやまじんじゃ)」は、古代日本の建国神話と深い関わりをもつ古社です。
ここは、初代天皇・神武天皇の兄にあたる 彦五瀬命(ひこいつせのみこと) の御陵を祀る神社であり、天皇家の祖先を祀る極めて由緒正しい聖地として知られています。
熊野三山や日前国懸神宮と並んで「紀国一之宮」と称されることもある、和歌山を代表する神社です。
◾ 御祭神
主祭神:彦五瀬命(ひこいつせのみこと)
彦五瀬命は、神武天皇の兄にあたり、東征の途中で命を落とした皇子です。
兄弟の中でも特に勇猛で、神武天皇が九州・日向から東へ向かう際に軍勢を率いた重要な人物でした。
しかし、長髄彦(ながすねひこ)との戦いで負傷し、弟である神武天皇に「吾は日向に還らむ」と別れを告げ、この竈山の地で崩御されたと伝えられています。
その御陵の上に建てられたのが、現在の竈山神社です。
◾ 由緒と歴史
『日本書紀』や『古事記』にも記される彦五瀬命の物語は、まさに“日本建国の原点”。
紀元前660年頃、神武天皇が天下を治めるために九州から大和へ向かう「東征」を開始します。
その途上、紀伊の国(現在の和歌山県)に上陸した際、敵との戦いで彦五瀬命が流れ矢に当たって重傷を負います。
命は「我は天日矛(あまのひほこ)の子孫なり。日を背にして戦うは不利」と悟り、弟に戦略を伝えたのち、竈山で息を引き取ったと伝えられています。
神武天皇は深く悲しみ、この地に兄の墓を築き、御霊を祀ったことが神社の始まりとされます。
その後、歴代天皇から篤い崇敬を受け、特に明治天皇が「建国の精神を伝える地」として社殿を整備しました。
◾ 神社の見どころ
● 鳥居と参道
朱塗りの大鳥居をくぐると、緑に包まれた静かな参道が続きます。
都市部にありながら、境内には清々しい気が漂い、古代の気配を感じさせます。
● 本殿と拝殿
現在の社殿は、明治時代に再建されたもので、木のぬくもりを感じる端正な造り。
御陵を背にして建てられ、背後には彦五瀬命の御墓(竈山陵)が鎮座しています。
神社と陵墓が一体となった神聖な構成は、全国的にも珍しい存在です。
● 竈山陵(かまやまのみささぎ)
彦五瀬命の御陵は、宮内庁により正式に「竈山陵」として管理されており、静かに祀られています。
円墳状の形をしており、古代日本の王族の墓として非常に貴重です。
◾ ご利益
竈山神社のご利益は、主祭神の彦五瀬命が「勇気」「忠義」「兄弟愛」の象徴であることから、次のように信仰されています。
- 勇気と決断力を授かる
- 困難を乗り越える力を与える
- 家族・兄弟の絆を深める
- 国家安泰・家内安全
- 進学・出世祈願
また、神武天皇の兄を祀ることから、“道を切り開く神”としても知られています。
人生の転機や新しい挑戦を前に訪れるのにふさわしい神社です。
◾ 年中行事
- 例祭(10月13日)
彦五瀬命の偉業を讃える重要な祭典。地元の人々も多く参列し、厳粛な雰囲気に包まれます。 - 紀元祭(2月11日)
神武天皇即位の日を祝う祭典として行われ、竈山神社は全国でも特に意義深い場所とされています。
◾ アクセス
- 所在地: 和歌山県和歌山市和田438
- アクセス:
JR阪和線「和歌山駅」からバスで約10分「竈山神社前」下車すぐ - 駐車場: 無料駐車場あり(普通車・大型車可)
◾ まとめ
竈山神社は、
「兄の志を継いで日本を建てた弟の思い」
が宿る、建国神話の原点ともいえる聖地です。
神武天皇の兄・彦五瀬命が命をかけて示した忠義と勇気は、時代を超えて今も人々に勇気を与えています。
華やかではなくとも、確かな誇りと静かな力を感じるこの神社は、“心を正し、志を新たにする場所”として多くの参拝者を惹きつけています。
和歌山を訪れるなら、ぜひ一度その清らかな空気を肌で感じてみてください。

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