神 様 図 鑑 — No. 076
おおげつひめのかみ 大宜都比売
古事記の食物の女神 / 素戔嗚尊に殺された後・体から五穀が生まれた / 阿波国(徳島)の食の根源神
① 名前と出典
| 正式名称 | 大宜都比売神(おおげつひめのかみ)古事記 |
|---|---|
| 別表記 | 大気都比売神(おおげつひめのかみ)・大宜都姫命(おおげつひめのみこと) |
| 名前の意味 | 「大(おお)」は偉大な。「宜都(げつ)」は「食物・食(け)」の古語——「宇気(うけ)」「保食(うけもち)」と同語源の「食べ物の霊力・恵み」を意味する。「比売(ひめ)」は女神の敬称。全体として「偉大な食物の恵みの女神」——あらゆる食物の霊力を体現した食の大女神という意味。 |
| 初出文献 | 古事記(712年)上巻。伊邪那岐命・伊邪那美命が産んだ島々(淡路島・四国・九州など)のひとつ、四国(伊予の二名島)に関連する神として登場。素戔嗚尊(No.008)が大宜都比売の「食物を体から出す」行為に怒り、斬り殺した後その体から五穀が生まれたという「農業起源神話」が記録される。 |
② 大宜都比売の体から生まれた食物
素戔嗚尊に殺された大宜都比売の体の各部位から、日本農業の根幹となる五穀・蚕・その他の食物が生まれた。神産巣日神がこれらを集めて「五穀の種」として農業が始まったとされる。
③ 活躍した時代
大宜都比売は素戔嗚尊に殺されることで、その体から日本農業の根幹となる五穀・蚕を地上にもたらした。「食の神が犠牲となって人間の食が生まれた」という農業起源神話は、「命をいただく(食への感謝)」という日本人の食の精神性の神話的根拠として位置づけられる。
祀られる神社
登場する神話・伝説
素戔嗚尊と大宜都比売——「穢れた食物」への怒りが農業の起源を生んだ
古事記によれば、素戔嗚尊が食物を求めて大宜都比売のもとを訪れた際、大宜都比売は「鼻・口・尻から様々な食物を取り出して料理として素戔嗚尊に供した」とされる。素戔嗚尊はこの行為を「穢れた食物を自分に食べさせようとした」と怒り、大宜都比売を斬り殺した。死んだ大宜都比売の体の各部位から蚕・稲・粟・小豆・麦・大豆が生まれ、神産巣日神がこれらを五穀の種として農業が始まった。この神話は保食神(日本書紀)の「月読命が月に怒って殺した」という話と同じパターンで、「神の怒りと殺害→食の起源」という古事記・日本書紀の農業起源神話の共通構造を体現している。
「阿波(あわ)」と「粟(あわ)」——大宜都比売と徳島県の深い縁
大宜都比売の体から生まれた穀物のひとつ「粟(あわ)」は、徳島県の古名「阿波(あわ)」と同じ音を持つ。「阿波国(現在の徳島県)に大宜都比売が主神として祀られ・その体から粟が生まれた」という神話と「阿波=粟の国」という地名の関係は、古代の人々が「土地と食物と神の名を一体的に理解していた」という証拠として神話研究者から注目されている。現代でも徳島県は「阿波おどり」「阿波の藍染め」など「阿波(あわ)」という名称を文化の中心に据えており、大宜都比売の神格がこの土地の文化的アイデンティティに深く根ざしていることが分かる。

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