伊勢神宮と天照大神信仰を深く調べていくと、必ず登場する言葉があります。
それが「元伊勢」です。
元伊勢とは、天照大神が現在の伊勢神宮(内宮)へ鎮まる以前に、倭姫命が安住の地を求めて全国を巡行した際、一時的に祀られたと伝えられる場所の総称です。
つまり、伊勢神宮成立以前の「天照大神、奉安の候補地」記憶を今も地名・神社として残している場所こそが元伊勢と呼ばれるのです。
天照大神信仰が固定され、国家的な中心に据えられる前段階の「歴史の痕跡」。
それを現代でも目にできるのが元伊勢巡りの魅力です。
元伊勢と呼ばれる場所一覧(代表的24ヶ所)
| 地 | 神社名 / 場所 | 由緒・理由 |
|---|---|---|
| 奈良県 桜井市 | 橿原(宮中内神)関連 | 天照大神が皇居外へ移される前段階の原点位置と伝承 |
| 奈良県 桜井市 | 笠縫邑(大神神社周域) | 倭迹迹日百襲媛命・倭姫命関連地として古伝承に登場 |
| 奈良県 桜井市 | 大和笠縫邑 | 天照大神が宮中の外で最初に祀られた地と伝承 |
| 奈良県 宇陀市 | 宇陀 | 巡行候補地として古伝承に記録 |
| 奈良県 吉野郡 | 吉野 | 倭姫命の奉斎地候補とされる地 |
| 奈良県 高市郡 | 葛城 | 天照大神を祀ったとされる巡行候補地 |
| 大阪府 羽曳野市 | 河内 | 河内国内で一時祀られたと伝えられる |
| 大阪府 大阪市 | 難波 | 天照大神を奉じた候補地のひとつ |
| 兵庫県 灘 | 神戸 | 神戸(かんべ)地名由来の基層とされる |
| 兵庫県 明石周辺 | 明石 | 巡行候補として伝承 |
| 京都府 福知山市 | 元伊勢外宮「豊受大神社」 | 丹後地方へ遷り、豊受大神を祀った旧跡 |
| 京都府 宮津市 | 元伊勢籠神社 | 丹後一宮。天照大神の旧地伝承の中核 |
| 京都府 宮津市 | 籠神社奥宮 真名井神社 | 天照大神を祀った記憶が最も濃いとされる旧地 |
| 京都府 舞鶴市 | 元伊勢神社 三社(内宮・外宮・天の岩戸) | 丹後巡行伝承群のセット |
| 京都府 京丹後市 大宮町 | 内宮 皇大神社 | 天照大神元宮と伝承 |
| 京都府 京丹後市 大宮町 | 外宮 豊受大神社 | 伊勢外宮の淵源と伝えられる |
| 京都府 京丹後市 大宮町 | 天の岩戸神社 | 天照大神が籠った岩戸がこの地という伝承 |
| 京都府 京丹後市 峰山町 | 比沼麻奈為神社 | 元伊勢外宮説の有力地 |
| 京都府 京丹後市 峰山町 | 奥宮 真名井原 | 丹後元伊勢系伝承の濃厚地 |
| 京都府 京丹後市 網野町 | 小祠群 | 巡行伝承に含まれる候補群 |
| 京都府 京丹後市 弥栄町 | 元伊勢細小路 | 倭姫命の休憩地・奉安地伝承 |
| 三重県 多気町 | 瀧原宮 | 伊勢到達直前、天照大神を安置した最終候補地 |
| 三重県 度会郡 | 伊雑宮 | 古く伊勢御厨の中核。元伊勢相当地とする説が強い |
| 三重県 伊勢市 | 伊勢神宮 内宮 | 最終鎮座地 |
(※元伊勢は地域の古伝承の積層により、資料によって数の差異が出るが、ここは中核となる24ヶ所)
元伊勢を理解する最大ポイント
元伊勢は「伊勢より古い・格が高い」という意味ではありません。
伊勢神宮に落ち着く“までの道程そのもの”。
神道史のストーリーを地上で見られる稀有な連続遺跡群です。
つまり元伊勢は
「伊勢に至るまでの歴史を証言する場所」
と言うことができます。

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