八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)とは、天皇の位のしるしとして受けつがれる三種の神器のひとつです。神話では、天岩戸の前で玉祖命が作ったと語られ、のちに地上へ降りる孫神に授けられました。「八尺の勾玉」と書かれることもあります。いまは皇居にあるとされます。
八尺瓊勾玉とは?30秒でわかるまとめ
| 読み方 | やさかにのまがたま |
|---|---|
| 古事記での書き方 | 八尺の勾璁(やさかのまがたま)の五百津(いおつ)の御須麻流(みすまる)の珠 |
| 日本書紀での書き方 | 八坂瓊曲玉(やさかにのまがたま)など |
| 何のこと? | 三種の神器のひとつ。ほかの2つは八咫鏡(やたのかがみ)と草薙剣(くさなぎのつるぎ) |
| 作った神 | 玉祖命(たまのおやのみこと) |
| 登場する神話 | 天岩戸・誓約(うけい)・天孫降臨 |
| いまどこにある? | 皇居の「剣璽の間(けんじのま)」に納められているとされる |
| 形・素材 | 公開されたことがなく、わかっていない(ヒスイ説・メノウ説などがある) |
八尺瓊勾玉の意味|「八尺」と「瓊」とは
名前の意味には、いくつかの説があります。
| 言葉 | 読み | 意味(諸説あり) |
|---|---|---|
| 八尺 | やさか | 玉のまわりの長さ、玉をつなぐ緒(ひも)の長さとする説。ただ「大きい・長い」の意味とする説や、「弥栄(いやさか)」がもとになったとする説もある |
| 瓊 | に | 美しい玉。とくに赤い玉をさすとされ、メノウのこととする説がある(ただし、熱で赤くしたメノウは江戸時代以降という指摘もある) |
| 勾玉 | まがたま | アルファベットの「C」のように曲がった形の玉 |
形についても、「大きな1つの勾玉」とする説と、「長い緒にたくさんの勾玉をつないだもの」とする説があります。古事記の「五百津(いおつ)の御須麻流(みすまる)の珠」は、たくさんの玉をひもで通したもの、という意味に読めます。
八尺瓊勾玉が登場する神話
① 誓約|天照大神の勾玉から神が生まれた
古事記で最初に「八尺の勾璁」が出てくるのは、天照大神と素戔嗚尊の誓約(うけい)の場面です。天照大神は、この玉を髪や腕に巻いていました。
素戔嗚尊はこの玉を受けとってかみくだき、吹き出した息の霧から天忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)などの男神が生まれました。天忍穂耳命は、のちに地上へ降りる邇邇芸命(ににぎのみこと)の父です。
この玉が、次の天岩戸で作られた玉と同じものかどうかは、はっきりしません(諸説あり)。
② 天岩戸|玉祖命が作り、榊にかけられた
誓約のあと、素戔嗚尊の乱暴に心を痛めた天照大神は、天岩戸(あまのいわと)にこもってしまいます。世界は真っ暗になりました。
神々は天照大神を外へ呼びもどすため、お祭りの準備をします。このとき玉祖命が作ったのが八尺瓊勾玉です。伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)は八咫鏡を作りました。
勾玉と鏡は、布刀玉命(ふとだまのみこと)が捧げ持つ榊(さかき)の枝にかけられました。
③ 天孫降臨|邇邇芸命に授けられた
天照大神の孫・邇邇芸命が地上へ降りるとき、八尺瓊勾玉は鏡・剣とともに授けられました(天孫降臨)。
こうして三種の神器は、天皇の位とともに受けつがれる宝になったと語られます。
八尺瓊勾玉はいまどこにある?
八尺瓊勾玉は、皇居の御所にある「剣璽の間(けんじのま)」に、剣とともに納められているとされます。
- 「剣璽(けんじ)」の「璽(じ)」が、八尺瓊勾玉のことです
- 皇居にある剣は、熱田神宮の草薙剣の形代(かたしろ=代わりのもの)とされます
- 八咫鏡は伊勢神宮にまつられ、皇居の賢所(かしこどころ)には形代がまつられます
- 2019年の天皇の代替わりのときには赤坂御所へ移り、2021年に皇居へもどりました
中身は公開されたことがありません。そのため、形や素材ははっきりわかっていません。
八尺瓊勾玉の伝説|壇ノ浦で浮かんだ箱、開けようとした天皇
壇ノ浦の戦い|箱ごと浮かんで回収された
1185年の壇ノ浦の戦いで、平家は追いつめられました。『平家物語』では、二位尼(にいのあま)が勾玉(神璽)と剣を身につけ、幼い安徳天皇を抱いて海へ入ります。鏡は船に残ったとされます。
このとき八尺瓊勾玉は箱に入っていたため、箱ごと浮かび上がり、源氏に回収されたとされます。漁師が網で引き上げたという別の話もあります。安徳天皇をまつる下関市の赤間神宮は、この戦いの地の近くにあります。
冷泉天皇|箱を開けると白い煙が
平安時代の学者・大江匡房(おおえのまさふさ)の談話を記録した『江談抄(ごうだんしょう)』などに伝わる話です。冷泉天皇(れいぜいてんのう)は、勾玉の箱を開けようとしたといいます。ところが、封じたひもをほどくと白い煙がわき出たため、確かめるのをやめたといいます。
八尺瓊勾玉の能力・効果は?
アニメやゲームでは、八尺瓊勾玉が特別な力をもつアイテムとして登場することがあります。しかし、古事記や日本書紀には、勾玉そのものが不思議な力をふるう話はありません。
神話の中の役割は、神さまを迎えるお祭りの道具、そして天皇の位を受けつぐしるしです。
ここからは筆者の見方です。古代の日本では、「玉(たま)」と「魂(たま)」が同じ音で、玉は命や魂を宿すものと考えられていたともいわれます。
注目したいのは、誓約の場面です。古事記では、玉の持ち主である天照大神の子とされたのが、勾玉から生まれた天忍穂耳命でした。その子が邇邇芸命です。つまり勾玉は、皇室の祖先とされる神が「生まれるもと」になった玉でもあります。
剣は力、鏡は太陽の神の姿を思わせます。それに対して勾玉は、「命が受けつがれていくこと」をあらわす宝として大切にされてきたのかもしれません。
古代の勾玉はどうやって作られた?
八尺瓊勾玉そのものの素材はわかりませんが、古代の勾玉にはヒスイ(翡翠)・メノウ(瑪瑙)・水晶・碧玉(へきぎょく)などが使われました。
石を割って形を整え、砥石で削って曲がった形にし、穴をあけて磨き上げます。とくにヒスイはとても硬く、加工にはすぐれた技術が必要でした。
『越後国風土記』の逸文(いつぶん=ほかの本に引用されて残った文)とされる文には「青八坂丹(あおやさかに)の玉」という言葉があります。このことから、八尺瓊勾玉は青緑色のヒスイだったのでは、と考える説もあります。
八尺瓊勾玉ゆかりの神社
八尺瓊勾玉についてよくある質問
Q. 八尺瓊勾玉とは、かんたんに言うと?
A. 天皇の位のしるしとして受けつがれる三種の神器のひとつの「玉」です。神話では天岩戸の前で作られました。
Q. 八尺瓊勾玉に能力や効果はある?
A. 古事記・日本書紀には、勾玉が不思議な力をふるう話はありません。ゲームやアニメの「能力」は、作品ごとの創作です。
Q. 八尺瓊勾玉の色は?
A. わかっていません。「瓊」から赤いメノウとする説、『越後国風土記』逸文の「青八坂丹の玉」から青緑のヒスイとする説があります。
Q. 剣や鏡のように形代(代わりのもの)はある?
A. 皇居の剣と鏡は形代とされますが、勾玉については形代の話は伝わっていません。皇居にあるものが、そのまま受けつがれてきたとされます。
Q. 本物を見ることはできますか?
A. できません。皇居に納められているとされ、一度も公開されたことはありません。
Q. 三種の神器のほかの2つは?
A. 八咫鏡と、草薙剣(天叢雲剣)です。八咫鏡は伊勢神宮、草薙剣は熱田神宮にまつられているとされます。
まとめ|八尺瓊勾玉は「受けつがれる命」の宝
- 八尺瓊勾玉は、三種の神器のひとつの「玉」
- 天岩戸で玉祖命が作り、天孫降臨で邇邇芸命に授けられた
- いまは皇居の剣璽の間に納められているとされ、形や素材はわかっていない
- 壇ノ浦で箱ごと浮かんだ話、冷泉天皇の白い煙の話などの伝説がある
見ることのできない宝だからこそ、神話の中の姿を知ると、三種の神器がぐっと身近になります。鏡については「八咫鏡」の記事もどうぞ。
参考:古事記(誓約・天岩戸・天孫降臨)、日本書紀、『平家物語』巻十一「先帝身投」、『越後国風土記』逸文、Wikipedia「八尺瓊勾玉」「三種の神器」、コトバンク「玉祖神社」

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