日本神話において、太陽の化身であり、神の使いとして現れる神聖な鳥――
それが「八咫烏(やたがらす)」です。
古事記・日本書紀の両方に登場し、神武天皇を大和の地へ導いたとされる「天の使い」。
古代から「導き」「勝利」「再生」の象徴として信仰され、現代では日本サッカー協会のシンボルマークとしても知られています。
この記事では、八咫烏の神話的起源から、各地に残る信仰や伝説、祀られている神社までを詳しく解説します。
■ 八咫烏とは ― 三本足の神鳥
八咫烏の「八咫(やた)」とは、「八=多い・大きい」「咫=ひとあた(両手を広げた距離)」を意味し、
つまり「非常に大きな烏(からす)」という意味になります。
その特徴は、なんといっても 「三本の足」。
この三本の足には、さまざまな意味が込められています。
- 天・地・人を結ぶ三界の象徴
- 太陽の昇・中天・没の三位
- 天照大神の三魂(あらみたま・にぎみたま・さきみたま)
この三足烏は、中国の神話にも登場し、太陽の中に棲む霊鳥として描かれます。
日本の八咫烏も、この「太陽の神格化」された鳥として受け継がれたと考えられています。
■ 神話における八咫烏の役割
八咫烏が最も有名なのは、『日本書紀』に記された神武東征の神話です。
紀元前、日向の地(現在の宮崎県)を出発した神武天皇は、東へと進軍して大和を平定しようとしました。
しかし、熊野で荒ぶる神々に道を阻まれ、軍は苦境に立たされます。
そのとき、高天原の神々が天照大神の使いとして遣わしたのが――八咫烏。
八咫烏は神武天皇の先導役として大和への道を導き、
ついに天皇は橿原の地に都を開くことができたのです。
このことから、八咫烏は古来より「導きの神・勝利の神」として信仰されるようになりました。
■ 八咫烏の象徴的な意味
八咫烏は、神の使いとしてだけでなく、以下のような意味を持つとされています。
- 導き・方向を示す神
迷いを晴らし、正しい道へ導く。人生の「道しるべ」となる神鳥。 - 勝利の象徴
神武天皇を勝利に導いたことから、戦勝・必勝の神としても信仰。 - 太陽の化身
天照大神の御使いであり、闇を照らす光の象徴。 - 再生・復活の象徴
太陽の運行とともに、暗闇から光へと導く霊的存在。
■ 八咫烏を祀る神社
◎ 熊野本宮大社(和歌山県田辺市)
八咫烏信仰の中心地。
神武天皇を導いた八咫烏は、熊野の神「熊野大神」の使いとされます。
境内には「八咫烏ポスト」や「八咫烏みくじ」など、神鳥信仰にちなんだ授与品も多く見られます。
また、全国の熊野神社の総本宮としても知られます。
◎ 熊野速玉大社(和歌山県新宮市)
熊野三山のひとつ。八咫烏を神の御使いとして祀り、交通安全・道開きの神徳を伝えます。
社紋にも八咫烏が描かれています。
◎ 熊野那智大社(和歌山県那智勝浦町)
那智の滝を御神体とする社。八咫烏はこの地の神々の使いとして信仰され、修験者の守護神ともなっています。
◎ 高倉神社(奈良県橿原市)
神武天皇が八咫烏の導きによって大和へ進軍した地とされるゆかりの社。
導きの神として信仰が厚い。
◎ 熊野神社(全国各地)
熊野信仰の広がりとともに、全国に約3,000社ある熊野神社の多くで八咫烏がシンボルとして崇敬されています。
■ 八咫烏にまつわる伝説・言い伝え
● 神武天皇を導く黒い光
熊野の深い霧の中、天皇の行軍が進めなくなったとき、
突如として黒い大きな烏が現れ、その後を追うと霧が晴れ、道が開けた――
それが八咫烏と伝えられます。
この伝説は、「どんなに道が見えなくても、神は必ず導いてくれる」という信仰の象徴です。
● 熊野三山の神使として
熊野の神は「現世の浄化・再生」を司る神であり、
八咫烏はその意志を地上に伝える「神と人をつなぐ仲介者」。
死者の魂を浄め、再び新しい命として導く神聖な鳥とされています。
■ 八咫烏とサッカーの関係
意外にも、現代日本で八咫烏が最もよく知られているのは、日本サッカー協会のエンブレムです。
これは、神武天皇を導いた八咫烏が「チームを勝利へ導く象徴」として採用されたもので、
選手たちの健闘・正しい道への導きを願う意味が込められています。
また、熊野本宮大社では、サッカー必勝祈願に訪れる選手も多く、
「スポーツの神」としても新たな信仰が広がっています。
■ 八咫烏の信仰と現代的な意味
現代においても八咫烏は、
- 人生の道を照らす「導きの神」
- 挫折から立ち上がる「再生の象徴」
- 団結と勝利の「チームの守護神」
として、幅広い層から信仰されています。
また、交通安全や旅行安全の祈願にも「道を導く神鳥」として信仰が残り、
熊野古道を歩く人々の心の支えにもなっています。
■ まとめ
- 八咫烏は三本足の霊鳥で、天照大神の使い。
- 神武天皇を大和へ導いた「導きの神」「勝利の神」。
- 熊野三山を中心に全国の熊野神社で信仰される。
- 現代では日本サッカー協会のシンボルとしても有名。
- 「正しい道を照らす神鳥」として、今も多くの人の信仰を集めている。


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