はじめに
熱海といえば、
日本有数の温泉地として知られていますが、
その温泉文化の原点には、
自然湧出の霊泉を神聖視する古代信仰が存在していました。
その象徴が、
**「熱海七湯(あたみななゆ)」**です。
熱海七湯とは、
江戸時代以前から知られていた
熱海を代表する七つの名泉の総称であり、
単なる入浴施設ではなく、
湯そのものが神仏の力を宿す存在
として敬われてきた場所でした。
熱海七湯とは何か
七湯成立の背景
熱海は火山活動に由来する地熱地帯で、
古来より各所で温泉が自然湧出していました。
江戸時代になると、
- 湯治場としての整備
- 文人・武士・僧侶の来訪
- 紀行文や地誌への記録
が進み、
特に名高い七つの湯が
**「熱海七湯」**としてまとめて称されるようになります。
熱海七湯 一覧
| 名称 | 読み |
|---|---|
| 大湯間歇泉 | おおゆかんけつせん |
| 小沢の湯 | こさわのゆ |
| 清左衛門の湯 | せいざえもんのゆ |
| 風呂の湯・水の湯 | ふろのゆ・みずのゆ |
| 野中の湯 | のなかのゆ |
| 河原湯 | かわらゆ |
| 佐治郎の湯・目の湯 | さじろうのゆ・めのゆ |
※現在は多くが遺構・碑・モニュメントとして保存されています。
各湯の詳しい解説
① 大湯間歇泉(おおゆかんけつせん)





熱海七湯の中心・象徴的存在
大湯は、
かつて熱海最大の湯量を誇った源泉で、
七湯の中でも最も名高い存在です。
- 非常に高温
- 湯量が豊富
- 湯治・儀礼の中心
江戸時代には、
**将軍家へ献上する「御汲湯」**にも用いられ、
熱海温泉の格式を決定づけました。
② 小沢の湯(こさわのゆ)



路地奥に湧いた生活密着型の湯
小沢の湯は、
小さな谷間(小沢)に湧いたことに由来します。
- 庶民に親しまれた湯
- 共同利用が中心
- 比較的穏やかな泉質
豪壮さよりも、
日常の癒しの湯として重宝されました。
③ 清左衛門の湯(せいざえもんのゆ)



人名を冠した由緒ある湯
清左衛門の湯は、
この湯を管理・整備した人物
「清左衛門」に由来するとされます。
- 私有管理された湯
- 湯治客からの評価が高い
- 地誌や記録に頻出
江戸期の温泉管理の実態を知る上で、
重要な存在です。
④ 風呂の湯・水の湯(ふろのゆ・みずのゆ)



最も「浴用」に適した湯
その名のとおり、
- 入浴向きの温度
- 湯量が安定
- 共同浴場的性格
を持ち、
「湯に浸かる」ことを目的とした
実用性の高い温泉でした。
⑤ 野中の湯(のなかのゆ)



市街地中央部に湧いた名泉
野中の湯は、
人家の間(野中)に湧いたことから名付けられました。
- 利便性が高い
- 湯治客が集まりやすい
- 湯の効能が高いと評判
熱海が
温泉町として発展する基盤となった湯です。
⑥ 河原湯(かわらゆ)



自然と隣り合う野趣あふれる湯
河原湯は、
川原近くに湧出した温泉で、
- 洪水で湧出口が変わる
- 自然の力を強く感じる
という特徴を持っていました。
温泉を
自然霊そのものとして捉える
古代的感覚を色濃く残した湯です。
⑦ 佐治郎の湯(さじろうのゆ)



個人名を残す古湯
佐治郎の湯も、
湯の発見・管理に関わった人物名に由来します。
- 比較的小規模
- 湯治客に知られた名泉
- 地域密着型
七湯の中では控えめながら、
確かな評価を得ていました。
熱海七湯と信仰
温泉=神の恵み
熱海七湯は、
- 火山の力
- 地の熱
- 水の恵み
が融合した場所であり、
古くは神の力が地上に現れたものと考えられていました。
湯に入る前に、
- 湯前神社
- 伊豆山神社
へ参拝する習慣があったことも、
温泉が信仰対象であった証です。
現在の熱海七湯
現在、七湯の多くは:
- 湧出口の消失
- 都市化
- 温泉設備の近代化
により、
実際に入浴することはできません。
しかし、
- 石碑
- モニュメント
- 案内板
として整備され、
温泉発祥の地を巡る歴史散策ルートとして
親しまれています。
まとめ ― 熱海七湯が語るもの
熱海七湯は、
- 温泉文化の原点
- 信仰と生活が一体化した湯
- 自然への畏敬の象徴
- 熱海という町の骨格
を今に伝える存在です。
現代の温泉街を歩きながら、
かつて湯煙の立ち上った七つの泉に思いを馳せると、
熱海という土地が持つ
千年の時間の厚みを感じることができるでしょう。

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