はじめに
「鴨三社(かもさんしゃ)」とは、奈良県葛城地方に点在する高鴨神社・葛木御歳神社・鴨都波神社の三社を指し、古代氏族**賀茂氏(鴨氏)**の信仰構造を最も原初的な形で今に伝える神社群です。
京都の上賀茂神社・下鴨神社の源流にあたるのが、この葛城の鴨三社であり、本記事では【神社めぐり】として、三社の関係性・成立背景・信仰構造を史料に基づいて体系的に解説します。
鴨三社とは何か
鴨三社の基本構成
三社はいずれも葛城山系の麓から平野部にかけて配置され、地形そのものが信仰構造を形成している点が大きな特徴です。
鴨三社成立の背景
葛城地方という聖地
葛城地方は、
- 出雲系神話
- 葛城氏
- 鴨氏(賀茂氏)
- 秦氏など渡来系氏族
が交錯した、古代日本屈指の宗教・政治拠点でした。
鴨三社は、この地で成立した在地首長層の信仰体系が、後に国家神道へ組み込まれていく前段階の姿を留めています。
上鴨社・高鴨神社
御祭神と性格
高鴨神社は、**阿遅志貴高日子根命(味鋤高彦根命)**を主祭神とし、
- 雷神
- 農耕神
- 首長神
としての性格を併せ持つ、鴨信仰の根源神を祀ります。
この神は、後の賀茂別雷神へと継承される原初的雷神像と理解されます。
中鴨社・葛木御歳神社
農耕と時間を司る神
葛木御歳神社の主祭神御歳神は、
- 五穀豊穣
- 歳(時間)の循環
- 土地の安定
を司る神であり、鴨氏の生活基盤そのものを神格化した存在です。
上鴨社の「天的神格」と、下鴨社の「人祖神」をつなぐ中核的存在といえます。
下鴨社・鴨都波神社
人祖神としての建角身命
鴨都波神社は、建角身命を主祭神とし、
- 氏族祖神
- 開拓神
- 境界神
として信仰されてきました。
山城国風土記逸文に語られる八咫烏神話は、賀茂氏が王権成立に深く関与したことを象徴的に物語っています。
鴨三社に共通する信仰構造
鴨三社を貫く信仰の骨格は、次の三層構造です。
- 神(雷・天) …… 高鴨神社
- 土地(農耕・歳) …… 葛木御歳神社
- 人(氏族・社会) …… 鴨都波神社
これは、
- 自然
- 生産
- 人間社会
を一体として捉える、極めて古層の日本的世界観を反映しています。
京都賀茂社との関係
京都の上賀茂神社・下鴨神社は、 葛城の鴨三社信仰が王都近郊へ展開した結果成立した神社です。
- 神格の再編
- 国家祭祀への組み込み
- 氏族神から王権神への転換
が行われ、現在の「賀茂社」となりました。
鴨三社を巡る意味
鴨三社参拝は、単なる神社巡りではなく、
- 日本神話の形成過程
- 古代氏族の移動
- 国家成立以前の信仰
を、地形と神社配置を通して体感する行為です。
おわりに
鴨三社は、京都賀茂社の“前史”であると同時に、 日本神道の原型をそのまま留める稀有な信仰空間です。
賀茂氏・葛城・出雲神話に関心を持つ方にとって、 鴨三社巡礼は欠かすことのできない原点回帰の旅となるでしょう。

コメント