― 千本鳥居が導く、稲荷信仰の総本宮 ―
◆ 全国三万社の総本宮
京都市伏見区に鎮座する「伏見稲荷大社」は、全国約3万社ある稲荷神社の総本宮です。
朱塗りの千本鳥居が続く幻想的な景観で、国内外から多くの参拝者が訪れる日本屈指の人気神社ですが、その歴史は古く、奈良時代にまでさかのぼります。
創建は和銅4年(711年)と伝わり、秦伊侶具(はたのいろぐ)という豪族が、稲荷山の三ヶ峰に稲を植えた際、稲の穂が天に向かって伸びたことを瑞兆とし、この地に神を祀ったのがはじまりとされています。
以来、伏見稲荷大社は「五穀豊穣」「商売繁盛」「家内安全」「諸願成就」の神として、時代を超えて厚く信仰されてきました。
◆ 御祭神 ― 宇迦之御魂大神(うかのみたまのおおかみ)
主祭神は「宇迦之御魂大神」。
古くは食物・穀物を司る神として崇められ、やがて商売繁盛の神としても信仰が広まりました。
さらに、配祀神として以下の四柱が祀られています。
- 佐田彦大神(さたひこのおおかみ)
- 大宮能売大神(おおみやのめのおおかみ)
- 田中大神(たなかのおおかみ)
- 四大神(しのおおかみ)
この五柱を総称して「稲荷大神(いなりのおおかみ)」と呼びます。
“お稲荷さん”という親しみやすい呼び名で、全国各地の人々から篤く信仰されています。
◆ 稲荷信仰のはじまり
稲荷信仰のルーツは「食」の神への感謝でした。
農業が生活の中心であった古代日本では、稲の実りこそが命を支える源。
その恵みをもたらす神として、稲荷大神は人々の暮らしに深く根付いていきました。
やがて時代が進み、商業や工業が発展するにつれ、“五穀豊穣=商売繁盛”へと信仰の意味が広がり、商人や職人にも崇敬されるようになりました。
現在では「成功」「出世」「繁栄」を象徴する神として、あらゆる分野の人々が参拝しています。
◆ 千本鳥居と稲荷山信仰
伏見稲荷大社の象徴といえば、なんといっても「千本鳥居」。
朱色の鳥居が無数に連なり、山頂へと続く参道を幻想的に彩ります。
この鳥居は、願いが成就した人々が“お礼”として奉納したもので、現在も企業や個人からの寄進が絶えません。
そのため、「願いを通す道」として、鳥居をくぐること自体が祈りの行為とされています。
参道の先に広がる稲荷山は、古来より“神体山”として崇められてきました。
山全体がご神域であり、頂上まで約4kmの「お山巡り」は信仰登山として多くの参拝者が行います。
途中には「奥社奉拝所」や「三ツ辻」「一ノ峰」などの霊地があり、願い事を祈る人々で賑わいます。
◆ 狐は神の使い
境内のいたるところに鎮座する狐の像。
この狐は稲荷大神の“眷属(けんぞく)”であり、神の使いとされています。
口にくわえた鍵や巻物、稲穂は、それぞれ「倉を開く鍵」「知恵」「豊穣」を象徴。
信仰の対象である神そのものではなく、神の意志を伝える存在として崇められています。
◆ 伏見稲荷と歴史の深いつながり
平安時代には、朝廷が国家安泰と五穀豊穣を祈るための奉幣を行い、延喜式名神大社にも列せられました。
また、戦国時代には織田信長や豊臣秀吉など、名だたる武将も参拝した記録が残っています。
とくに秀吉は母・大政所の病気平癒を祈願し、その快復を機に本殿を造営したと伝えられています。
◆ 神徳・ご利益
伏見稲荷大社は、あらゆる「願いごとを叶える神社」として知られています。
- 商売繁盛
- 五穀豊穣
- 開運招福
- 家内安全
- 交通安全
- 学業成就
「祈願の道」を自ら歩むことで、願いの成就をより強く祈る――
そんな信仰の形が、今も伏見稲荷の山中に息づいています。
◆ アクセス
- 所在地:京都市伏見区深草藪之内町68
- アクセス:JR奈良線「稲荷駅」下車すぐ/京阪本線「伏見稲荷駅」徒歩5分
◆ まとめ
朱の鳥居が永遠に続くように、人々の祈りもまた途切れることなく続いてきた伏見稲荷大社。
その美しさの奥には、千年以上にわたる「生きることへの感謝」と「繁栄を願う力強い信仰」が宿っています。
訪れるたびに心が浄化され、前向きな気持ちに導かれる——
伏見稲荷大社はまさに、日本人の祈りの原点を感じられる場所です。
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