静岡市葵区に鎮座する「神部神社(かんべじんじゃ)」。同じ境内には浅間神社、そして大歳御祖神社を含め合計七社が並び立ち、総称して「静岡浅間神社」と呼ばれる大きな神社群の中心的存在の一つです。
その中でも、神部神社は最も古い歴史を持つ社と位置づけられています。
■主祭神
大己貴命(おおなむちのみこと)
国造りの神、大国主命である大己貴命を祀ることからも、古来よりこの地は「国土そのものの安定」「国の基盤」を祈る場所だったことがわかります。
■歴史と由緒
社伝によると、神部神社の創建は景行天皇が東国平定のために巡行した時代に遡るとされます。その後、平安時代の延喜式神名帳にも名神大社として記載されており、駿河国の中でも非常に重い格を持つ神社の一つでした。
鎌倉時代以降には浅間信仰がこの地に重なり、現在のような七社の集合体としての「静岡浅間神社」の形が整えられていきます。つまり古代の「名神大社」神部神社の存在が基礎にあり、その上に浅間信仰が載って巨大な社域へと発展していったという歴史構造があるのです。
■見どころ
・神部神社が持つ「古代駿河国総社」の立ち位置
・豪壮華麗な社殿群
・拝殿と本殿に施された漆塗りと極彩色の装飾
・徳川家康とも関わりが強く、江戸時代の大造営の痕跡が随所に残る
特に、現在の社殿は江戸時代後期の造営によるものが多く、静岡浅間神社全体の美しい装飾建築は全国でも稀有なレベルの規模と美しさを誇っています。
■伝承・不思議な話
神部神社の「神部(かんべ)」という名は、古代における神社に奉仕する「神戸(かんべ)」の制度に由来すると考えられています。
つまり、この地には古代国家から供出された“神に仕える特別な集団”が存在したということです。
神部神社という神名自体が、古代の「神祇と国家行政が深く結びついた名残」をそのまま現代に残している、非常に珍しいケースと言えます。
また、静岡浅間神社全体として、富士山の噴火鎮護、国土安泰、生産発展など、国家規模の祈りが集積し続けてきました。神部神社はその根幹部分を保ってきた存在なのです。
■まとめ
神部神社は、浅間信仰の華やかさの奥に潜む「古代国家の神祇システム」の深淵を感じられる神社です。
静岡浅間神社を訪れる際には、ただ全体を見るのではなく「神部神社の位置」を意識することで、時代の層の違い・信仰のレイヤーがより明確に理解できるはずです。
静岡を代表する神社の中でも、最も深い古層を担った神社。
それがこの神部神社です。

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