〜神話の海に抱かれた“母なる愛”の聖地〜
◆はじめに
日向灘を望む断崖絶壁、その岩窟の中に朱塗りの社殿を構える「鵜戸神宮(うどじんぐう)」。
宮崎県日南市に鎮座し、「日本随一の洞窟神社」として知られます。
海風に包まれながら参拝すると、神々の息吹と母なる大地の温もりを感じる——そんな不思議な力を宿す神社です。
◆由緒・歴史
鵜戸神宮の創建には、日本神話の重要なエピソードが深く関わっています。
主祭神は「鸕鶿草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)」。
天照大神の孫・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)と海神の娘・豊玉姫命(とよたまひめのみこと)との間に生まれた神です。
伝承によると、豊玉姫は夫である瓊瓊杵尊の子を身ごもり、出産のためにこの鵜戸の海辺に帰ってきました。
しかし、海神族の姿を人に見られてはならぬ掟があったため、彼女は産屋を急いで造るように頼んだものの、葺き終える前に出産。
そのため子の名は「草葺不合(くさぶきあえず)」と名づけられました。
この物語は「母の愛」「命の誕生」を象徴し、鵜戸神宮は安産・育児の神社として信仰を集めています。
◆御祭神
- 主祭神:鸕鶿草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)
日本神話で日向三代の最後の神。神武天皇の父にあたります。 - 配祀神:
- 大日孁貴命(おおひるめむちのみこと/天照大神)
- 天忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)
- 彦火瓊々杵命(ひこほのににぎのみこと)
- 彦火火出見命(ひこほほでみのみこと)
- 豊玉姫命(とよたまひめのみこと)
まさに「天皇家のルーツに関わる神々」を祀る、皇祖神ゆかりの社でもあります。
◆神話と伝説
鵜戸神宮の洞窟は、豊玉姫が出産のために籠った「産屋の跡」とされています。
出産後、豊玉姫は海神の姿を見られたことを恥じ、子を残して海に帰りました。
そのとき、自らの乳を岩に塗って去ったと伝えられています。
その乳がしみついたという岩が、今も本殿のそばに残る「おちち岩」。
天井から滴る水滴を「お乳水」として信仰し、母乳の出が良くなるよう祈る風習が今も続いています。
◆見どころ
◯ 洞窟の中に建つ本殿
全国でも珍しい、海蝕洞の中に鎮まる社殿。
朱塗りの本殿が青い海を背景に輝き、幻想的な光景をつくり出します。
本殿へは長い石段を下って向かい、まるで“母なる海の胎内”に入るような感覚を覚えるでしょう。
◯ 亀石と「運玉投げ」
境内の海辺には、亀の形をした岩「亀石」があります。
その背中のくぼみに、参拝者が「運玉(うんだま)」を投げ入れると、願いが叶うといわれています。
男性は左手、女性は右手で投げるのが作法。成功すれば、まさに“運をつかんだ”証です。
◯ 夫婦岩と日向灘の絶景
本殿を出て階段を登ると、日向灘を一望できる展望スポットがあります。
寄り添うように立つ「夫婦岩」は、縁結びや夫婦円満の象徴。
青い海と朱の社殿が織りなす景観は、まさに神話の世界そのものです。
◆ご利益
鵜戸神宮は「母なる神の社」とも呼ばれ、以下のようなご利益で有名です。
- 安産・子授け
- 育児・母乳の出
- 縁結び・夫婦円満
- 開運招福
- 交通安全(旅の守護神)
特に妊婦さんや新婚夫婦が多く訪れる神社として知られています。
◆主な祭事
- 初詣(1月):新年には多くの参拝者で賑わう。
- 春季大祭(2月):国家安泰と五穀豊穣を祈る神事。
- 例祭(8月25日):本殿で厳かに執り行われる、最も重要な祭典。
◆アクセス
- 所在地:宮崎県日南市大字宮浦3232
- アクセス:
JR日南線「伊比井駅」から車で約10分
宮崎空港から車で約1時間 - 駐車場:あり(有料・無料あり)
◆おわりに
神話の舞台にして、母なる祈りが息づく「鵜戸神宮」。
海風に包まれ、波音が響く洞窟の中で手を合わせると、まるで自然と神々が一つになった世界にいるような感覚になります。
母なる愛、命の誕生、そして運命を切り拓く力。
古代から続く祈りが、今も静かにこの地で脈打っています。
宮崎を訪れる際には、ぜひ「神話の胎内」とも呼ばれる鵜戸神宮で、心の原点に触れてみてください。

コメント