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【仏様図鑑】孔雀明王(くじゃくみょうおう)-孔雀に乗る慈悲の明王、ご利益・真言と「怒らない明王」の謎

仏様図鑑

金色の孔雀に乗る、やさしい顔の明王。それが孔雀明王(くじゃくみょうおう)です。

この記事でわかること

  • 毒や災いを除くご利益と、真言・姿
  • 蛇にかまれた僧と「金色の孔雀王」の物語
  • 【謎】なぜ明王なのに怒った顔をしていないのか

答えは、「明王」という名前の意味にかくれていました。

01. 孔雀明王の基本情報

孔雀明王(くじゃくみょうおう)基本情報
分類 明王(みょうおう)。ただし姿は、やさしい菩薩形(ぼさつぎょう)です
読み方 くじゃくみょうおう
別名 仏母大孔雀明王(ぶつもだいくじゃくみょうおう)、孔雀仏母(くじゃくぶつも)、孔雀王母菩薩(くじゃくおうもぼさつ)、摩訶摩瑜利(まかまゆり)
梵名(ぼんみょう) マハーマーユーリー・ヴィディヤーラージュニー(Mahāmāyūrī-vidyā-rājñī)
真言(しんごん) オン・マユラキランテイ・ソワカ
種子字(しゅじじ) マ(ma)
出典の経典 『仏母大孔雀明王経』(ぶつもだいくじゃくみょうおうきょう/不空訳)、『孔雀王呪経』(くじゃくおうじゅきょう/鳩摩羅什訳など)
ご縁日 孔雀明王としての定まったご縁日は、確認できる資料では見つかりませんでした
💡 出典:別名・梵名・真言・経典名は Wikipedia「孔雀明王」と、コトバンク(精選版日本国語大辞典・世界大百科事典)によります。種子「マ」は精選版日本国語大辞典によります。

02. 孔雀明王とは? ― 毒蛇を食べる孔雀が仏様になった

① 一言まとめ

孔雀明王は、毒蛇を食べる孔雀を神格化した仏様です。どんな毒や災いも取り除くとされます。明王の仲間なのに、怒りの顔ではなく、やさしい菩薩の顔をしています。

② 由来・経典上の位置づけ

インドは毒蛇の被害が多い土地でした。そのため、蛇の天敵である孔雀は、神聖な鳥とされました。ヒンドゥー教で女神として神格化された孔雀が、仏教に取り入れられたとされます。

もとはインドの女神マハーマーユーリーです。仏教では、5人の守護の女神「パーンチャ・ラクシャー(五守護女神)」の一人にも数えられます。

孔雀明王の呪文(陀羅尼〈だらに〉)を説く経典は、早くから中国で訳されました。古いものに、訳者不明の『大金色孔雀王呪経』(東晋の帛尸梨蜜多羅〈はくしりみったら〉の訳とも伝わる)や、鳩摩羅什(くまらじゅう)の訳とされる『孔雀王呪経』があります。梁の僧伽婆羅(そうぎゃばら)も『孔雀王呪経』を訳しました。唐代には義浄(ぎじょう)や不空(ふくう)も訳しました。

日本では、宝亀(ほうき)11年(780年)の『西大寺資財流記帳』に、孔雀明王の像の記録があります。これが記録に残る最初の例とされます。空海以降、真言宗で特に重んじられました。

💡 出典:インドの女神・五守護女神は Wikipedia「孔雀明王」、蛇と孔雀の話は世界大百科事典、780年の記録は精選版日本国語大辞典によります。

③ 姿・持物の特徴

  • 顔:明王なのに、怒りの顔ではありません。慈悲(じひ)をあらわす、穏やかな菩薩の顔です。
  • 体:多くは一つの顔に4本の手(一面四臂〈いちめんしひ〉)。体は白色とされます。
  • 乗り物:金色の孔雀の背に乗り、蓮華(れんげ)の上に座ります。
  • 持ち物:開いた蓮華、倶縁果(ぐえんか=ミカンの仲間の実)、吉祥果(きちじょうか=ザクロとされる実)、孔雀の尾羽です。

3つの顔に6本の手(三面六臂)の姿もあります。なんと、京都・仁和寺(にんなじ)に伝わる中国・宋代の絵(国宝)がその例です。

💡 姿と持ち物は、精選版日本国語大辞典が引く『孔雀明王儀軌』の説明と、デジタル大辞泉によります。三面六臂の仁和寺本は Wikipedia「孔雀明王」によります。倶縁果・吉祥果の果物の種類は一般的な説明です。

03. 孔雀明王のご利益 ― 毒・災い・病を除き、雨を呼ぶ

🐍 毒や災いを除く(息災〈そくさい〉)
🩺 病気平癒・延命
🌧 雨乞い(祈雨)
🤰 安産
🛡 鎮護国家(ちんごこっか=国を守る)

孔雀は、毒蛇や毒虫を食べても平気な鳥です。そこから、孔雀明王を祈ると、あらゆる害毒が除かれると信じられました。のちには、人の心の三毒(さんどく=むさぼり・怒り・おろかさ)を食べてくれる、という解釈も広まりました。

孔雀明王を本尊とする密教の祈りを「孔雀経法(くじゃくきょうほう)」といいます。10世紀には、雨乞いの祈りとして行われました。11世紀には、天変(てんぺん=空の異変)を消し、病を除き、命を延ばし、安産を願う祈りとして、貴族の間で盛んになりました。孔雀には、雨を予知する力があるとも考えられました。

💡 出典:孔雀経法の歴史は世界大百科事典、三毒と雨の予知は Wikipedia「孔雀明王」、害毒を除くご利益はデジタル大辞泉によります。

こんな人におすすめ

  • 病気や心配ごとなど、体や暮らしの「毒」を取り除きたい人
  • 出産をひかえ、母子の無事を祈りたい人
  • イライラやねたみなど、心の毒に悩んでいる人

ご利益の根拠:不空訳の『仏母大孔雀明王経』は、この大陀羅尼(だいだらに)を唱えると、蛇の毒などあらゆる毒の災いを滅し、安らかになると説きます(日本大百科全書)。

04. 孔雀明王の関連する仏様

五大明王不動明王を中心とする、怒りの顔の5人の明王。孔雀明王とは姿が対照的です
不動明王明王の代表。剣と羂索(けんじゃく=なわ)を持ち、炎を背負う怒りの姿
愛染明王同じ明王の仲間。赤い体で、愛欲を悟りの力に変えるとされます
迦楼羅(かるら)龍(蛇)を食べる金色の神鳥。「蛇を食べる鳥」という点で孔雀明王と通じます
大日如来胎蔵曼荼羅(たいぞうまんだら)の中心の仏。孔雀明王は、その曼荼羅の蘇悉地院(そしつじいん)にいます

孔雀明王は、胎蔵曼荼羅(胎蔵現図曼荼羅)では蘇悉地院に描かれます(精選版日本国語大辞典)。不動明王などの明王が並ぶ持明院(じみょういん)とは、別の場所です。曼荼羅の中では、2本の手で、孔雀に乗らない姿で描かれるとされます(JAANUS)。

なお、神仏習合で孔雀明王と結びつけられた日本の神は、特に知られていません。

ほかの明王たちのくわしい話は、五大明王や愛染明王の記事で紹介しています。

05. 孔雀明王をまつる主な寺院・会える場所

  • 金剛峯寺(高野山霊宝館/和歌山県高野町):快慶(かいけい)作の孔雀明王坐像(重要文化財)があります。正治(しょうじ)2年(1200年)に落慶した高野山の孔雀堂の本尊です(インターネットミュージアムの展覧会レポート)。彫刻の孔雀明王の代表作とされます。展示の時期は霊宝館の案内で確認してください。
  • 仁和寺(京都市右京区):中国・宋代の孔雀明王像(国宝)が伝わります。三面六臂の姿です。北宋の作とも南宋の作ともいわれます(Wikipedia/世界大百科事典)。
  • 東京国立博物館(東京都台東区):平安時代・12世紀の絹本著色孔雀明王像(国宝)を所蔵します。縦147.9cmの大きな絵で、細く切った金箔(截金〈きりかね〉)の文様が見事です(東京文化財研究所の解説)。展示は期間限定です。
  • 安楽寿院・智積院・松尾寺・法隆寺・醍醐寺など:孔雀明王の絵(重要文化財とされます)が伝わります(Wikipedia)。安楽寿院・智積院・松尾寺の絵は正面を向いています。しかし法隆寺の絵は、ななめ左を向いた姿です(世界大百科事典)。
  • 正暦寺(しょうりゃくじ/奈良市):鎌倉時代の孔雀明王の彫像があるとされます(Wikipedia「孔雀明王」)。文化財の指定や公開の状況は確認できませんでした。くわしくは寺に確認してください。

06. 孔雀明王の見分け方ガイド ― 孔雀と尾羽とやさしい顔

✅ 孔雀明王かどうか、ここをチェック!

  • 孔雀に乗っている:いちばんの目印です。羽を大きく広げた孔雀が台座になっています。
  • 手に孔雀の尾羽:長い羽を束ねて持っています。
  • 顔がやさしい:明王なのに、怒りの顔ではありません。
  • 手は4本が多い:蓮華と果物と孔雀の羽を持ちます。

似ている仏様とのちがい

  • ほかの明王(不動明王など):怒りの顔で、炎を背負い、武器を持ちます。
  • 迦楼羅:鳥の顔をした神です。孔雀明王は人(菩薩)の顔で、鳥に乗っています。
  • 普賢菩薩:動物に乗る点は同じですが、普賢菩薩の乗り物は白い象です。

07. 孔雀明王の物語 ― 黒い蛇にかまれた僧と、金色の孔雀王

お釈迦さまが、舎衛城(しゃえじょう)の祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)にいたころのことです。

出家したばかりの若い僧・莎底(さてい/スヴァーティ)がいました。莎底は、仲間のために薪を割り、お風呂をわかす仕事をしていました。

そのときです。くさった木の穴から、大きな黒い蛇がはい出してきました。蛇は莎底の右足の親指にかみつきます。毒はたちまち全身に回りました。莎底は地面に倒れ、口から泡をふき、目は白目をむいてしまいました。

それを見た阿難(あなん)は、急いでお釈迦さまのもとへ走ります。「世尊(せそん)、莎底が毒にやられ、ひどく苦しんでいます。どうか救ってください」。世尊とは、お釈迦さまを敬う呼び名です。

お釈迦さまは答えました。「私には、摩訶摩瑜利(まかまゆり)仏母明王の大陀羅尼がある。あらゆる毒と、恐れと、災いを消す力をもつ。これを持って、莎底を守りなさい」。

そしてお釈迦さまは、ある昔話をはじめます。ヒマラヤ(雪山〈せっせん〉)の南に、金色の孔雀の王が住んでいました。孔雀王は毎朝この陀羅尼を唱え、昼を無事に過ごしました。夕方にも唱え、夜を無事に過ごしました。

ところがある日、孔雀王は唱えるのを忘れてしまいます。たくさんの雌の孔雀たちと、林から林、山から山へと遊びに夢中になり、気がゆるんでいたのです。そして山の穴に入ったところを、待ちぶせていた猟師の網に捕らえられてしまいました。

縛られた孔雀王は、はっと我に返ります。そして陀羅尼を唱えました。すると、縄は自然にほどけ、孔雀王は仲間とともに無事にすみかへ帰ることができたのです。

お釈迦さまは言いました。「その金色の孔雀王こそ、昔の私なのだ」と。

📖 出典:不空訳『仏母大孔雀明王経』巻上(大正新脩大蔵経第19巻)の原文を、意味をとってやさしく書きました。セリフは原文の内容を短くまとめたものです。

08. 孔雀明王のまとめと関連記事

この記事でわかったこと

  • 孔雀明王は、毒蛇を食べる孔雀を神格化した仏様。毒や災い、病を除くとされる
  • 経典では、蛇にかまれた僧・莎底を救う陀羅尼として説かれ、お釈迦さまの前世の孔雀王の物語が語られる
  • 日本では孔雀経法の本尊として、雨乞いや病気平癒、安産の祈りに重んじられた

博物館や霊宝館で孔雀明王に出会ったら、怒らない明王の、やさしい顔をじっくり見てみてください。

09. ゆる仏様トーク ― 孔雀明王編

🍵 ゆる仏様トーク①(たとえ話)

孔雀明王は、今でいえば「どんな毒にも効く、万能の解毒剤」です。しかも、毒を食べても平気で、羽はますます美しい。苦いものを飲みこんで、きれいに笑っていられる、たのもしいお母さんのような存在です。

🍵 ゆる仏様トーク②(ツッコミ)

毎朝毎晩、欠かさず陀羅尼を唱えていた金色の孔雀王。なのに、仲間と遊ぶのが楽しくて、うっかり忘れた日に網にかかってしまいます。毎日欠かさず続けることのむずかしさは、お釈迦さまの前世でも同じだったようです。──そう、悟りへの道も、ときどき寄り道をしたのです。

🍵 ゆる仏様トーク③(ひとこと)
「毒は、怒って追い払うだけが道ではない。のみこんで、清らかなものに変えればよいのです。」

※経典の言葉ではなく、孔雀明王の姿と「10」の考察をもとにイメージしたセリフです。

10. 孔雀明王の謎 ― なぜ「明王」なのに怒った顔をしていないのか

【謎】孔雀明王は、なぜ明王なのに慈悲の顔をしているのか
【謎】
不動明王も愛染明王も、明王といえば、炎を背負った怒りの顔です。ところが孔雀明王だけは、穏やかな菩薩の顔をしています。同じ「明王」なのに、なぜこれほど違うのでしょうか。
【事実の整理】
① 「明王」の「明」は、サンスクリット語のヴィディヤー(vidyā)の訳です。密教では、仏が説いた真言・呪文を指します。明王とは「呪文の王者」という意味です(Wikipedia「明王」)。
② 孔雀明王の梵名は、マハーマーユーリー・ヴィディヤーラージュニーです(世界大百科事典ほか)。後半のヴィディヤーラージュニーは、「明(呪文)の女王」という意味になります。孔雀明王は女性の尊格で、本来は「明王」より「明妃(みょうひ)」にあたる、という説明もあります(日本美術の用語辞典 JAANUS)。別名も「孔雀仏母」「孔雀王母菩薩」です。
③ 経典の題名は、時代とともに変わりました。4〜5世紀ごろの古い訳の題は、『大金色孔雀王呪経』や『孔雀王呪経』(鳩摩羅什の訳とされる)です。唐の義浄の訳は『大孔雀呪王経』。そして8世紀の不空の訳で、『仏母大孔雀明王経』となります(台湾大学仏学資料の書誌による)。経典の題名に「明王」の語が入るのは、この不空の訳からです。
④ 不動明王の名が経典に初めて現れるのは、709年に訳された『不空羂索神変真言経(ふくうけんじゃくじんぺんしんごんきょう)』とされます(JAANUS)。
⑤ 明王の怒りの顔は、仏の世界をおびやかす煩悩や悪に対する「護法(ごほう=仏の教えを守ること)の怒り」をあらわすと説明されます(Wikipedia「明王」)。
⑥ 「07」の経典の物語では、救いの力は「陀羅尼を唱えること」にあります。孔雀王が網にかかったのは、唱えるのを忘れた日でした(『仏母大孔雀明王経』)。
【私の考察】
私が注目したのは、③の題名の移り変わりです。「孔雀王の呪」→「孔雀の呪王」→「孔雀明王」。①のとおり、「明」は呪文のことです。つまり「呪王」も「明王」も、意味の上ではどちらも「呪文の王」なのです。
孔雀明王は、「明王」と呼ばれるよりずっと前、4〜5世紀の古い訳のころから、まず「呪文」として信仰されていました。力の源は、⑥のように呪文を唱えることそのものです。怒った顔で敵をおどす必要は、もともとありませんでした。
そして8世紀、不空の訳で、題名に「明王」の名がつきます。そのころには、④のように不動明王など、怒りの顔の明王たちも経典に現れていました。でも孔雀明王は、名前が「明王」になっても、呪文の女神としてのやさしい姿をそのまま保ったのではないでしょうか。②の「明(呪文)の女王」「仏母」という呼び名も、それを物語っているように思えます。
もう一つは、孔雀という鳥の性質です。孔雀は毒蛇を食べても平気で、しかも美しい羽をもっています。毒を「追い払う」のではなく、「のみこんで消してしまう」。だから、怒りの顔は必要ありません。⑤の「護法の怒り」とは別の方法で、災いに向きあう仏様なのです。
【結論(あくまで推測)】
孔雀明王が怒った顔をしていないのは、「明王」と呼ばれる前から、「呪文の女王」として信仰されてきたからではないでしょうか。明王の名を得たあとも、そのやさしい姿は変わりませんでした。毒をのみこんで美しく生きる孔雀のように、やさしい顔のまま、どんな毒も消してしまう。それが、この明王の強さなのだと思います。
ただし、明王の姿がどのように生まれたのかには、諸説があります。ここでは、経典の題名と名前が現れた時期を手がかりにしただけです。あくまで私の考察です。あなたはどう思いますか?

11. 孔雀明王データベース早見表

項目 内容
分類 明王(姿は菩薩形)
読み方 くじゃくみょうおう
別名 仏母大孔雀明王・孔雀仏母・孔雀王母菩薩・摩訶摩瑜利
梵名 マハーマーユーリー・ヴィディヤーラージュニー
真言 オン・マユラキランテイ・ソワカ
種子 マ
姿 一面四臂、孔雀に乗る。持物は蓮華・倶縁果・吉祥果・孔雀の尾羽
ご縁日 確認できず
主なご利益 息災(毒・災いを除く)・病気平癒・祈雨・安産
主な作例 金剛峯寺(快慶作)・仁和寺(国宝画)・東京国立博物館(国宝画)

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