🌸はじめに
伊邪那美命(いざなみのみこと)は、日本神話に登場する創造の女神であり、国土を生み、神々を産み出した「母なる存在」です。
夫である伊邪那岐命(いざなぎのみこと)とともに日本列島を形づくり、多くの神々を誕生させました。しかし、最後には“死”という境界を越えた存在として語られる、光と影の両面を持つ女神でもあります。
🗾天地創造と国産みの神話
古事記・日本書紀によると、伊邪那美命と伊邪那岐命は、高天原(たかまがはら)の神々から「この漂う国を修め、固めよ」と命じられ、天の沼矛(あめのぬぼこ)を授かりました。
二柱は天の浮橋に立ち、矛で海をかき混ぜ、その滴から生まれたのが**「淤能碁呂島(おのごろじま)」**です。
その島で婚姻の儀式「国産みの儀」を行い、淡路島や四国、九州、本州といった日本の主要な島々を次々と誕生させました。
🔥神産みと悲劇
伊邪那美命は国を生んだ後も、次々と神々を産みました。
しかし、**火の神・火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)**を産んだとき、その炎に焼かれ命を落としてしまいます。
伊邪那岐命は妻の死を深く嘆き、涙からも新たな神が生まれました。
そして怒りのあまり、火之迦具土神を斬り、その血や身体の破片からも多くの神々が誕生したといわれています。
👁黄泉の国での再会
伊邪那岐命は愛する妻を取り戻すため、死者の国「黄泉の国(よみのくに)」へと向かいます。
そこで再会した伊邪那美命は、黄泉の国の食べ物を口にしてしまい、もはや現世へ戻ることができない存在となっていました。
伊邪那岐命がその姿を見て逃げ出すと、伊邪那美命は怒り狂い、「あなたの国の人々を毎日一千人殺そう」と誓います。
これに対し伊邪那岐命は「それなら私は一日に一千五百人を生ませよう」と答えたことで、**“生と死の循環”**がこの世に定まったと伝えられています。
🌑伊邪那美命が象徴するもの
伊邪那美命は、単に「創造の女神」ではなく、「死と再生の神」としての側面も持っています。
彼女の神話は、命の尊さや、母としての愛、そして避けられぬ死の存在を教えてくれます。
また、後世には黄泉津大神(よもつおおかみ)、あるいは**神産巣日神(かみむすひのかみ)**と同一視される場合もあります。
⛩伊邪那美命を祀る神社
全国には伊邪那美命を祀る神社が数多く存在します。
特に有名なのは以下の神社です。
- 花の窟神社(はなのいわやじんじゃ)(三重県熊野市)
└ 伊邪那美命の御陵と伝わる巨岩が御神体。日本最古の神社の一つとも言われています。 - 黄泉比良坂(よもつひらさか)(島根県松江市)
└ 黄泉の国と現世の境目とされる場所。伊邪那美命が冥界へ去った伝承が残ります。 - 多賀大社(滋賀県犬上郡)
└ 伊邪那岐命と伊邪那美命の二柱を祀る「延命長寿」「縁結び」の神として有名。
🌕まとめ
伊邪那美命は、日本神話の中でも最も人間的で、深い感情を持つ女神です。
彼女の物語には「創造」「愛」「喪失」「再生」というテーマが重なり合い、
今もなお人々の心に強い印象を残しています。
死の向こう側にあっても、命の循環を守ろうとする伊邪那美命。
その姿は、“母なる大地”として、すべての生命を包み込む神の象徴といえるでしょう。
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