高天原から地上へ。
日本神話における“神々の国譲り”において、最初にその使命を託された神がいます。
その名は、天之忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)。
彼は、天照大神の御子であり、天孫降臨の始祖とされる神。
この記事ではその由緒と役割、そしてご神徳について詳しくご紹介します。
◆ 基本情報|天之忍穂耳命とは?
項目 | 内容 |
---|---|
神名 | 天之忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと) |
別表記 | 天忍穂耳命、正勝吾勝勝速日天忍穂耳命(『日本書紀』) |
系譜 | 父:天照大神、母:高木神の娘(思兼神の妹など諸説あり) |
子 | 邇邇芸命(ににぎのみこと) |
ご神徳 | 国家安泰、五穀豊穣、子孫繁栄、皇室守護、農業神 |
◆ 神話における役割|「天孫降臨」の前段
天之忍穂耳命は、天照大神の命によって地上を治める役目を担った最初の神とされています。
しかし、地上(葦原中国)はまだ平定されておらず、
様々な神々が乱れていたため、すぐに降臨することはありませんでした。
この時、国譲り交渉のために神々が次々と地上に派遣され、交渉の末に大国主命が国を譲ることになります。
その間、天之忍穂耳命は準備を整え、ついには自らが地上に降臨することなく、
その役目を息子の邇邇芸命(ににぎのみこと)に託すことになります。
◆ 名前の意味
「忍穂耳(おしほみみ)」の名には、以下のような意味が込められています:
- 忍(おし):静かに耐え、導く力を持つ
- 穂:稲穂の象徴。五穀をもたらす農業神の側面
- 耳:知恵や受容を意味する(神の声を聴く存在)
つまり、稲穂のように豊かで、しなやかな精神を持つ神として表現されています。
◆ ご神徳と信仰
天之忍穂耳命は、農業や国家統治に関わる神として、以下のようなご神徳があります:
ご神徳 | 内容 |
---|---|
五穀豊穣 | 稲穂の象徴であり、農耕の恵みをもたらす。 |
国家安泰 | 天孫系統の先祖神として、皇室や国の安定を守護。 |
子孫繁栄 | 邇邇芸命を通じて皇統へとつながる血脈の神。 |
知恵・導き | 高天原で状況を見極め、地上への道を開いた神。 |
◆ 祀られている主な神社
神社名 | 所在地 | 備考 |
---|---|---|
鹿児島神宮 | 鹿児島県霧島市 | 邇邇芸命の父神として祀られる。 |
霧島神宮 | 鹿児島県霧島市 | 邇邇芸命が主祭神だが、父神として関連深い。 |
高千穂神社 | 宮崎県高千穂町 | 天孫降臨ゆかりの地。子孫とともに祀られる。 |
安房神社(上の宮) | 千葉県館山市 | 天太玉命とともに祀られ、技芸・産業の神としても信仰される。 |
◆ 神武天皇とのつながり
天之忍穂耳命は、天皇家の祖先神として重要な位置にある神です。
- 天之忍穂耳命
└ 邇邇芸命
└ 火遠理命(山幸彦)
└ 鵜草葺不合命(うがやふきあえず)
└ 神武天皇
このように、神武天皇(初代天皇)へとつながる皇統の血筋は、
すべてこの天之忍穂耳命から始まっています。
◆ まとめ|“静かな導き手”としての神格
天之忍穂耳命は、目立った活躍を神話の中で見せる神ではありません。
しかし、その“静かなる決断”が、地上支配と皇統の始まりを導いたとも言えます。
- 高天原の命を受けて地上に降臨せんとした最初の神
- 自らの使命を子に託し、日本神話の核心を形成
- 豊穣と秩序の守り神として現在も神社に祀られる
「導く力」「受け継ぐ意思」
──そんな静かな神格に、私たちは現代でも学ぶことが多いのではないでしょうか。
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