「布刀玉命(ふとだまのみこと)」は、
日本神話において、神事(しんじ)・祭祀のはじまりに深く関わる神様です。
天照大神(あまてらすおおみかみ)が天岩戸に隠れ、世界が闇に包まれた際、
再び光を取り戻すための「岩戸開き神話」で重要な役割を果たしたことから、
祭祀・祈祷・神道儀式の起源神として古くから崇敬されてきました。
◆ 基本情報|布刀玉命とは?
項目 | 内容 |
---|---|
神名 | 布刀玉命(ふとだまのみこと)/太玉命とも記される |
系譜 | 天児屋命(あめのこやねのみこと)と並ぶ忌部(いんべ)氏の祖神 |
神格 | 神事の創始神・祈祷神・祭祀具の神・忌部氏の祖 |
ご神徳 | 厄除開運・神事成功・祈願成就・五穀豊穣・道開き・災厄除け |
◆ 神話での役割|「天岩戸神話」のキーパーソン
◉ 天照大神が岩戸に隠れたとき…
須佐之男命(すさのおのみこと)の暴れによって、
天照大神が天岩戸にお隠れになり、世界が闇に包まれた――
この危機に際して、八百万の神々が集まり、「岩戸開き」の神事が行われました。
その中心で活躍したのが、次の三柱です。
- 天児屋命(あめのこやねのみこと):祝詞(のりと)を奏上
- 天鈿女命(あめのうずめのみこと):舞い踊って場を盛り上げる
- 布刀玉命(ふとだまのみこと):儀式の采配を振るい、祭具を整える
布刀玉命は、祭具である鏡・玉・麻・榊などを用意し、儀式の式次第を整えたとされ、
このことから「神事を司る神」「祭祀の始祖神」と称されています。
◆ ご神徳と信仰
布刀玉命は「神とのつながりを整える存在」として、
次のようなご利益が信じられています。
ご神徳 | 内容 |
---|---|
神事成功 | 地鎮祭・新嘗祭などの成功と浄化 |
厄除け | 祭具の霊力による災厄除け |
五穀豊穣 | 神農の祭祀と関係深く、農業の守護 |
開運 | 目に見えぬ障害を取り除く「道開き」 |
家内安全 | 神棚の祭祀を正しく行うことで家庭円満に導く神として |
◆ 布刀玉命を祀る主な神社
神社名 | 所在地 | 特徴 |
---|---|---|
石上神宮(いそのかみじんぐう) | 奈良県天理市 | 物部氏ゆかりの古社。布刀玉命を主祭神とし、剣や神宝の神格とも関わる。 |
忌部神社(いんべじんじゃ) | 徳島県吉野川市 | 忌部氏の祖神を祀る総本社。布刀玉命を主祭神とする。 |
天日鷲神社(あめのひわしじんじゃ) | 徳島県美馬市 | 忌部系の神を祀る。布刀玉命の系譜神が関与。 |
また、多くの神社で天児屋命と共に配祀されており、
祈祷・祝詞・神宝奉納の場面で布刀玉命の存在が尊ばれています。
◆ 忌部氏と布刀玉命
布刀玉命は、古代の有力氏族「忌部氏(いんべし)」の祖神とされています。
忌部氏は、朝廷の祭祀を担当する神祇官の一翼を担った一族であり、
麻・木綿・祭具の調進を通じて、国家祭祀における中心的役割を果たしました。
つまり、布刀玉命は日本の神道儀式そのもののルーツに深く関わっている神なのです。
◆ 豆知識|「布刀玉」の意味とは?
「布刀玉(ふとだま)」という名の意味には、諸説あります。
- 「太い(大きな)霊力を宿す玉」=神宝の象徴
- 「太占(ふとまに)」=神託を得る占い・神事に関わる名
- 「太」=豊かさ、「玉」=霊的な力・神具
このように、布刀玉命という神名自体が、神聖な祭具と霊力を示すものと考えられています。
◆ まとめ|目に見えぬ“神事の力”を操る祈祷の達人
布刀玉命は、表立って活躍する神ではありませんが、
神々の儀式を裏で支え、神と人とをつなぐ「祈りの設計者」です。
神棚に手を合わせるとき、
祭りで神輿を迎えるとき、
その背後にはきっと、布刀玉命の“見えざる采配”が働いているのかもしれません。
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