「天之常立神(あめのとこたちのかみ)」は、
日本神話において天地開闢(てんちかいびゃく)の時、
最初に現れた神々の一柱として登場する、極めて尊い存在です。
そのお名前が表すように、「天に常に立つ神」として、
世界の基礎・柱・中心軸を象徴する神とされています。
この記事では、古事記・日本書紀に登場するこの古代神について、
役割・意味・信仰などをわかりやすく紹介します。
◆ 基本情報|天之常立神とは?
項目 | 内容 |
---|---|
神名 | 天之常立神(あめのとこたちのかみ) |
出現 | 『古事記』では五番目に登場する独神/『日本書紀』では造化神に準ずる扱い |
種別 | 天神(あまつかみ)・独神(ひとりがみ) |
ご神徳 | 土台形成、安定、継続、永続性、空間の中心・天地の柱 |
◆ 天之常立神の登場と役割
『古事記』によれば、世界がまだ混沌としていた時、
最初に現れた三柱(造化三神)の後、以下の二柱が登場します。
- 宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ)
- 天之常立神(あめのとこたちのかみ)
この五柱は、「別天津神(ことあまつかみ)」と呼ばれ、
天地開闢の直後に“自ずから現れた”最古の神々です。
天之常立神の名は、
- 「天(あめ)」=天の世界
- 「常立(とこたち)」=恒久に立つ、動かず、揺るがない存在
つまり、天と地を支える“柱”そのものの神格化とも言われます。
◆ 姿なき存在=独神(ひとりがみ)
造化期に登場する神々の多くは、姿を見せず、配偶神もいません。
天之常立神もそのひとりであり、「独神(ひとりがみ)」とされます。
神話の物語上では目立った行動をとりませんが、
存在そのものが“空間と秩序の安定”を象徴しているため、
神話の「場」を支える“縁の下の力持ち”的な神なのです。
◆ 天之常立神のご神徳と信仰
ご神徳 | 内容 |
---|---|
安定・不動 | 家庭や国家の土台を固めるエネルギー |
永続・繁栄 | 長く続く商売、組織運営などに |
中心軸・柱 | 自身の信念・方向性を保ちたい人に |
鎮魂・守護 | 地鎮祭や建築安全祈願との関係も深い |
神社建築では「棟持柱」や「御柱」など、柱=神の依代とされることが多く、
天之常立神のような“柱の神”は、建築・土地・空間の守護にも関係しています。
◆ 天之常立神を祀る主な神社
天之常立神は単独で祀られることは少なく、
複数の神々とともに祀られる例が一般的です。
神社名 | 所在地 | 備考 |
---|---|---|
高千穂神社 | 宮崎県高千穂町 | 天孫降臨の地。別天津神の信仰が根付く。 |
大元神社(出雲大社摂社) | 島根県出雲市 | 天之常立神を含む天地創成の神々を祀る特異な神社。 |
天津神社(各地) | 全国 | 別天津神の一柱として合祀される場合あり。 |
◆ 豆知識|“天地の柱”と日本神話の構造
古代日本では、「柱」は神そのものと考えられてきました。
神社建築でも“御柱”を神の依代としたり、
地鎮祭で柱を立てることで土地の鎮魂を行う伝統が残っています。
天之常立神は、「天と地を支える目に見えぬ柱」として、
古代人の精神的な中心軸であったことがわかります。
◆ まとめ|物語には登場せずとも“世界を支える神”
天之常立神は、神話の中で活躍する場面はありませんが、
「在ること」そのものが意味を持つ神です。
目には見えず、声も聞こえない――
でも、確かにそこに立ち、私たちを見守り続けている。
そんな“世界の背骨”のような神として、いまも多くの神社に名を連ねています。
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