■ はじめに
伊邪那岐命(いざなぎのみこと)は、日本神話に登場する国産み・神産みの神。
妻である伊邪那美命(いざなみのみこと)とともに、天の命(あまのこと)を受けてこの地上の国々を生み出したとされる、日本の創造神です。
彼の名は『古事記』や『日本書紀』の冒頭から登場し、
天と地の間に秩序を与えた「天地開闢(てんちかいびゃく)」の中心的存在として描かれています。
■ 伊邪那岐命の誕生と使命
天地がまだ分かれず、霧のように混沌としていた時代。
その中から次々と神々が生まれていく中、伊邪那岐命と伊邪那美命は「最後に生まれた神」として現れました。
高天原(たかまがはら)の神々は、二柱に命じます。
「この漂う国(日本列島)を整え、固めなさい。」
こうして、二柱の神は「天の沼矛(あめのぬぼこ)」を授けられ、
天の浮橋(あめのうきはし)に立ち、矛を海に差し入れてかき混ぜました。
そのしずくが固まり、最初の島「オノゴロ島(おのごろじま)」が生まれます。
これが「国産み(くにうみ)」の始まりです。
■ 国産みと神産み
オノゴロ島に降り立った二柱は、天の御柱(あめのみはしら)を立て、
「男女のめぐり合い(結婚)」の儀式を行いました。
しかし最初のとき、先に伊邪那美命が声をかけたため、生まれた子どもは「ヒルコ(蛭子)」という不具の子。
天の神々に問うと、「女から先に声をかけたのが間違い」とされ、儀式をやり直しました。
今度は伊邪那岐命から声をかけ、
この時に生まれたのが淡路島、四国、隠岐、九州、本州などの国々でした。
これが日本列島、つまり「大八島国(おおやしまのくに)」の誕生です。
続いて二柱は山や川、風や木、火などの自然の神々を次々と生み出していきます。
しかし、火の神「迦具土(かぐつち)」を生んだ際、伊邪那美命は炎に焼かれて亡くなってしまいました。
■ 黄泉の国と死の神話
愛する妻を失った伊邪那岐命は、伊邪那美命を追って**黄泉の国(よみのくに)**へ向かいます。
そこで彼は、すでに「穢れた姿」となった妻に再会しますが、
その恐ろしい姿を見て逃げ出し、黄泉の坂(よもつひらさか)で大岩を置いて世界を隔てました。
このとき、伊邪那美命は「あなたの国の人間を毎日千人殺す」と叫び、
伊邪那岐命は「私は毎日千五百人を生ませる」と答えました。
このやり取りが、「死」と「誕生」の循環の起源とされています。
■ 禊(みそぎ)と三貴子(さんきし)
黄泉の国から戻った伊邪那岐命は、
穢れを祓うために**筑紫の日向(今の宮崎県)**の海で禊を行いました。
この禊の際に、多くの神々が生まれましたが、
最後に目を洗ったときに生まれたのが、日本神話でもっとも重要な三柱――
- 天照大御神(あまてらすおおみかみ) … 太陽の神(左目)
- 月読命(つくよみのみこと) … 月の神(右目)
- 建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと) … 海と嵐の神(鼻)
これら三柱は「三貴子(さんきし)」と呼ばれ、
伊邪那岐命が後の日本神話の舞台を託した重要な神々です。
こうして伊邪那岐命は、自らの使命を終え、
「日向の橘の小戸の檍原(たちばなのあわぎはら)」に神籬(ひもろぎ)を立てて隠れました。
■ 伊邪那岐命の神格とご利益
伊邪那岐命は、日本という国の根源を創り出した「天地開闢の神」であり、
秩序・創造・清めの神として信仰されています。
特に「禊(みそぎ)」の神事を行ったことから、
浄化・厄除け・再生の神としての側面が強く、
人生の転機や新しいスタートを迎えるときに参拝すると良いとされています。
■ 伊邪那岐命を祀る主な神社
- 伊弉諾神宮(兵庫県淡路市)
伊邪那岐命の御陵があると伝わる神社で、日本最古の神社ともいわれます。
妻・伊邪那美命とともに祀られ、国産み神話ゆかりの聖地。 - 多賀大社(滋賀県犬上郡)
「お多賀さん」と呼ばれ、伊邪那岐命・伊邪那美命を祀る長寿・延命の神社。 - 伊佐奈岐神社(長崎県壱岐市)
国生み伝承に関わる神社で、壱岐島を生んだ神として崇敬されます。
■ まとめ
伊邪那岐命は、日本という国の「始まり」を創った創造神であり、
人間に「生」と「死」、「清め」と「穢れ」という概念をもたらした存在です。
彼の物語は、生命の誕生と喪失、再生という人間の根源的なテーマを象徴しており、
古代の人々が自然と共に生きる中で生まれた“日本的な宇宙観”そのものといえるでしょう。
📖 豆知識:伊邪那岐命の名の意味
「イザナギ」は「誘(いざな)う」に由来し、“招く・導く神”という意味があるといわれます。
つまり、天地の混沌から「秩序ある世界」へと導いた存在なのです。
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