神の種類
天津神(造化三神系)
配偶者
伊邪那美命
総本社
多賀大社・淡路島
活躍時代
神代(天地開闢〜禊)
神格
創造神・浄化神
📅 2025年8月19日 ✍️ 神社めぐり管理人 🗂 神様図鑑シリーズ 📖 読了目安:13分

① 名前と出典

正式名称 伊邪那岐命(いざなぎのみこと)古事記
日本書紀表記 伊弉諾尊(いざなぎのみこと)日本書紀
名前の意味 「イザナ」は「誘う・招く」を意味する動詞「いざなう」に由来するとされる。「ギ(岐)」は男性を示す接尾語。全体として「(人・神を)誘い招く男神」——天地・国土・生命を生み出すために誘い招く創造の男神、という意味を持つ。配偶者・伊邪那美命(いざなみ)の「ミ(美)」が女性を示すことと対応している。
初出文献 古事記(712年)上巻・日本書紀(720年)神代上。日本神話の根幹をなす最重要神のひとりとして、両書の冒頭近くから登場する。
🌊 注目ポイント:伊邪那岐命は日本の国土・山・川・海・火をはじめとする自然神のほとんどを生み出した「創造神の父」です。さらに黄泉の国から帰還した後に行った禊(みそぎ)から天照大神・素戔嗚尊・月読命という三貴子が誕生し、日本神話の神々の歴史全体の源流となりました。まさに日本神話の「すべての始まり」ともいえる存在です。

② 別名と出典

伊弉諾尊 いざなぎのみこと。日本書紀での表記。「弉(じゃ)」という字を使うのが日本書紀の特徴。意味・神格は古事記と同一。日本書紀
伊奘諾命 いざなぎのみこと。各地の神社縁起・祝詞などに見られる別表記。各地神社縁起
泉津日狭男 よもつひさを。黄泉の国から逃げ出した後に伊邪那岐命が名乗ったとされる、黄泉での別称。「泉津(よもつ)」は黄泉の国を意味する。古事記(上巻)
淡道之穗之狭別神 あわじのほのさわけのかみ。国生みの際に最初に生まれた「淡路島の神」として語られる称号的な名。古事記(上巻)

③ 同一神・神仏習合

伊邪那美命との夫婦神 伊邪那岐命と伊邪那美命は常に夫婦一対として信仰される。多賀大社(滋賀県多賀町)では「お多賀さん」として両神を縁結び・長寿の神として祀り、全国的に「夫婦の神の総本社」として知られる。 多賀大社社伝
神仏習合の記録 伊邪那岐命については特定の仏・菩薩との主流な習合記録はない。ただし多賀大社では中世に天台宗との関わりが深く、「多賀大明神」として地域の仏教信仰と融合した時期があった。明治の神仏分離で純粋な神道的信仰に戻った。 多賀大社記録・中世神仏習合
禊の神・祓いの祖 黄泉から帰還後の禊が「祓いの儀礼」の原点とされることから、伊邪那岐命は「禊祓いの祖神」として大祓詞(おおはらえのことば)に明記される。全国の神社で行われる祓いの儀式の根拠となる神。 延喜式・大祓詞
💡 大祓詞(おおはらえのことば)について:日本の神社で毎年6月・12月に行われる「大祓」の祝詞には、伊邪那岐命が筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原(あわぎはら)で禊を行ったことが明記されています。この禊が日本の「祓い」の伝統すべての源流となりました。

④ 神様の種類

分類 天津神(あまつかみ)——造化三神の命を受けた創造の神——天地開闢の際に高天原に出現した造化三神(天之御中主神・高御産巣日神・神産巣日神)の命を受け、妻・伊邪那美命とともに日本の国土と神々を生み出した。天津神でありながら地上(国土)を直接創造した点で、天と地の双方に深くかかわる唯一無二の神格を持つ。
神格 創造神・国生神・神生神・禊祓神・縁結神・長寿神・父神
特徴 日本神話において最も多くの神と国土を生み出した神。愛する妻を追いかけて黄泉の国へ行き、見てはならないものを見てしまって逃げ出すという、神話屈指の人間的な弱さと愛情を見せた神でもある。禊の後に三貴子を生んだことで、天津神体系全体の父神となる。

⑤ 系図

📖 系図の注記:伊邪那岐命と伊邪那美命は国生みで淡路島・四国・隠岐・九州・壱岐・対馬・佐渡・本州(大倭豊秋津島)の八大島と多くの小島を生み、さらに神生みで山・海・川・木・野・土・食物などの自然神を多数生みました。火の神・火之迦具土神を生んだことで伊邪那美命が死んだことが、神話の大きな転換点となります。

⑥ 活躍した時代

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神代のはじめ——天地開闢から国生み・神生みを経て黄泉帰還・禊まで
古事記・日本書紀の冒頭近く、天地が分かれてまもない神代のはじめに登場する。造化三神の命を受けた伊邪那岐命と伊邪那美命は、天の沼矛(あめのぬぼこ)で混沌とした大海をかき混ぜてオノゴロ島を作り、そこを拠点に日本列島と数多の神を生み出した。火の神を生んで妻が死んだ後は黄泉の国へ向かい、帰還後の禊で天照大神・月読命・素戔嗚尊の三貴子を生んだことで、その使命を全うした。古事記はその後「伊邪那岐命は淡路島の幽宮(かくりみや)に隠れた」と記し、伊邪那岐命の神代での活動が終わりを告げる。
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02

祀られる神社

📌 伊邪那岐命を祀る最重要の神社は滋賀県の多賀大社と淡路島の伊弉諾神宮の二社です。多賀大社は「お多賀さん」として長寿・縁結びの神として親しまれ、名古屋から車で約1時間半とアクセスしやすい聖地です。
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03

登場する神話・伝説

国生み——天の沼矛で島々を生み出した天地創造の神話
天地が分かれた原初の時代、高天原の神々に「漂っている国土を固めよ」と命じられた伊邪那岐命と伊邪那美命は、天の浮橋に立ち、天の沼矛(あめのぬぼこ)で下界の混沌とした大海をかき混ぜた。矛を引き上げると矛先から塩が滴り落ちて積もり、最初の島「オノゴロ島(磤馭盧島)」が生まれた。二神はそこに降り立ち、島を中心に柱を建てて互いに周りを回り結婚の誓いを交わした(柱を回る儀礼)。こうして国生みが始まり、まず淡路島(イザナミの失敗で蛭子が生まれた後)、次いで四国・隠岐・九州・壱岐・対馬・佐渡・本州と、日本列島が次々と生まれていった。

出典:古事記(上巻)・日本書紀(神代上 第四段)
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神生み——山・海・川・火を生んだ壮大な創造の物語
国土を生み出した後、二神は今度は神々を生み始めた。海の神・山の神・野の神・木の神・土の神・水の神・風の神・食物の神など、日本の自然を司る神々が次々と誕生した。しかし最後に火の神・火之迦具土神(かぐつちのかみ)を生んだとき、その炎で伊邪那美命は陰部を焼かれて亡くなった。悲しみにくれた伊邪那岐命は泣き続け、その涙から新たな神が生まれた。さらに怒りに任せて火の神を十拳剣で斬ったとき、剣の各部分から多くの山の神・雷の神が生まれた。この神生みの記述は、日本の自然信仰の神様たちのルーツを語る壮大な創造叙事詩である。

出典:古事記(上巻)・日本書紀(神代上 第五段)
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黄泉訪問——死んだ妻を追って黄泉の国へ
妻の死を嘆いた伊邪那岐命は、黄泉の国(死者の国)へ向かった。暗闇の中で「まだ産み終わっていない国があります。一緒に帰りましょう」と訴えると、伊邪那美命は「黄泉の神々に相談してきます。その間、決して見てはいけません」と告げた。しかし長い待ち時間に耐えかねた伊邪那岐命は、自分の髪飾りに火を灯して伊邪那美命の姿を見てしまった。そこには腐敗した体に八柱の雷神を身に宿した凄まじい姿があった。驚いて逃げ出した伊邪那岐命を、「恥をかかせた」と怒った伊邪那美命と黄泉の軍勢が追いかける。この生死をかけた逃走劇が黄泉比良坂(よもつひらさか)での永遠の別れへとつながる。

出典:古事記(上巻)・日本書紀(神代上 第六段)
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禊——三貴子の誕生と日本の「祓い」の起源
黄泉の穢れを体に受けながら逃げ帰った伊邪那岐命は、筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原(現・宮崎県日向市付近)で禊(みそぎ)を行った。衣を脱ぎ捨てるたびに神が生まれ(衣服から十二の神が誕生)、川に入って洗い流した穢れから禍津日神(まがつひのかみ)と直毘神(なおびのかみ)が生まれた。水の底・中流・水面に潜ってさらに多くの神が生まれ、最後に左目を洗ったとき天照大神が、右目を洗ったとき月読命が、鼻を洗ったとき素戔嗚尊が生まれた。この三柱を「三貴子(みはしらのうずのみこ)」と呼び、伊邪那岐命は高天原・夜の食国・海原をそれぞれに治めるよう命じた。禊はここから日本の浄化・祓いの儀礼の根本となった。

出典:古事記(上巻)・日本書紀(神代上 第六段)
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黄泉比良坂の大岩——「生と死」の境界を確定した神
黄泉の軍勢から逃れた伊邪那岐命は、黄泉比良坂(現世と黄泉の境の坂)に千引の岩(ちびきのいわ、千人で引いても動かない大岩)を置いて道を塞いだ。岩の向こうから伊邪那美命が「あなたの国の人を一日に千人殺す」と叫ぶと、伊邪那岐命は「ならば一日に千五百の産屋(うみや)を建てよう」と答えた。これが「人が毎日生まれ、毎日死ぬ」という生死の原理が定まった瞬間とされ、この神話が日本における「生と死の哲学的起源」を語る物語として語り継がれている。伊邪那岐命は「私はこれで離縁する」と告げ、二神の永遠の別れが確定した。

出典:古事記(上巻)・日本書紀(神代上 第六段)
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04

逸話・エピソード

💧禊(みそぎ)——伊邪那岐命が始めた日本の浄化の原点

伊邪那岐命が黄泉の穢れを流すために行った禊(みそぎ)は、現在も日本の神道儀礼・神社祭祀の根幹に息づいています。参拝前の手水(てみず)でのお清め、神職が川や海で行う禊祓い、大晦日・夏の大祓での「茅の輪くぐり」、毎年6月と12月に全国の神社で行われる「大祓式(おおはらえしき)」のすべてが、この神話に由来します。大祓詞(おおはらえのことば)には「伊邪那岐命が筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原で禊をされた」と明記されており、日本人の「清める・浄める」という精神文化の原点がここにあります。

EPISODE 01 柱を回る結婚の儀礼——日本最古の結婚式

オノゴロ島に天の御柱を建てた伊邪那岐命と伊邪那美命は、柱を中心に左右から回り、出会ったところで「あなにやし、えをとこを(ああ、なんと麗しい男よ)」「あなにやし、えをとめを(ああ、なんと麗しい女よ)」と声をかけ合って結婚した。最初は伊邪那美命が先に声をかけたため「女が先に言うのはよくない」として作り直し(最初に生まれた蛭子が不完全だったため)、次に伊邪那岐命が先に声をかけて結婚が成立した。この「柱を周回して出会う儀礼」は日本最古の結婚式の描写とされ、現代の神前結婚式の精神的な源流ともいわれる。

EPISODE 02 十拳剣で火の神を斬る——悲しみが生んだ多くの神

火の神・火之迦具土神を生んで死んだ妻への悲しみと怒りから、伊邪那岐命は持っていた十拳剣(とつかのつるぎ)で火之迦具土神を斬り殺した。するとその血や体の各部から、岩の神・雷の神・風の神・山の神・野の神など多くの神が生まれた。「怒りの破壊行為から多くの神が誕生する」というこのエピソードは、古事記神話における「死と創造の連鎖」という深いテーマを示している。のちに素戔嗚尊がヤマタノオロチを斬ったとき草薙剣を得たように、剣が神話的な創造の道具として機能するモチーフは伊邪那岐命の故事に起源を持つともいえる。

EPISODE 03 「千引の岩」——生と死の境界を決めた神話的宣言

黄泉比良坂に置かれた千引の岩(ちびきのいわ)の向こうで、伊邪那美命が「一日に千人殺す」と宣言したのに対し、伊邪那岐命が「一日に千五百の産屋を建てる」と答えた。この言い合いによって「人間は毎日生まれ、毎日死ぬ」という自然の摂理が神話的に説明された。日本神話における「死」の起源を語るこの場面は、生命の循環・自然の理(ことわり)を神話で説明する哲学的なエピソードとして、現代でも多くの人々に深い感慨を与え続けている。

EPISODE 04 お多賀さん——豊臣秀吉も信仰した長寿・縁結びの神

滋賀県多賀町の多賀大社は伊邪那岐命・伊邪那美命夫婦を祀り、「お多賀さん」の愛称で広く親しまれてきた。豊臣秀吉は母の病気回復を祈願し、回復した謝礼として米一万石を奉納した逸話が残る。これにちなんで多賀大社の名物・糸切餅(いとぎりもち)が作られたとも伝わる。長寿・縁結び・子授かりの神社として、江戸時代から「お伊勢参らばお多賀へ参れ。お伊勢お多賀はおなじくら(親)」と謳われるほど庶民に愛された。名古屋から新幹線・在来線で約1時間半と比較的アクセスしやすい聖地。

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ご利益

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禊・浄化・厄除け
日本の「禊祓い」の原点を作った神として、心身の穢れを清める浄化・厄除け・心の浄化のご利益が最も根本的なもの。大祓の祝詞に明記された神格。
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縁結び・夫婦円満
妻・伊邪那美命とともに日本最古の夫婦神として、縁結び・夫婦円満・家庭円満の守護神。多賀大社は縁結びの聖地として若い女性からの人気が高い。
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長寿・延命
多賀大社でのご利益として最も知られる「長寿・延命」。豊臣秀吉が母の病回復を祈願した故事から、病気平癒・長寿祈願に多くの参拝者が訪れる。
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国土守護・開拓
日本列島そのものを生み出した創造神として、土地・国土・郷土の守護のご利益がある。開拓・開墾・新天地での事業繁栄への祈願にも縁が深い。
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子授け・安産・子育て
多くの神と国土を生み出した「生みの神」として、子宝・安産・育児守護への信仰が厚い。多賀大社への子授け・安産祈願は古来から続く慣習。
諸願成就・開運
天地の根源たる創造神として、あらゆる願いの大元となる開運・諸願成就のご利益がある。「万物の父神」への祈願は宇宙の根源への祈りともいえる。
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関わりの深い場所・聖地巡礼

総本社・長寿縁結びの聖地
多賀大社
📍 滋賀県犬上郡多賀町多賀604
「お多賀さん」として親しまれる縁結び・長寿の総本社。豊臣秀吉の奉納にちなむ糸切餅が名物。名古屋から新幹線と在来線で約1時間半。境内の「太鼓橋」は息を止めて渡ると長寿になるとの言い伝えがある。
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幽宮・国生み神話の元宮
伊弉諾神宮
📍 兵庫県淡路市多賀740
古事記が「伊邪那岐命は淡路島の幽宮に隠れた」と記す場所に鎮座する淡路国一宮。日本で最初に造られた神社とも伝わる格式ある古社。境内の樹齢約900年の御神木・夫婦の大楠が縁結びの象徴。
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国生み神話の舞台
沼島(ぬしま)・国生みゆかりの地
📍 兵庫県南あわじ市沼島
古事記の「オノゴロ島(磤馭盧島)」に比定される説がある神秘の島。国生み神話のまさに「最初の場所」とされる候補地として、神話ファンの聖地巡礼スポット。淡路島からフェリーで約10分。
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国生みの島・淡路島巡礼
淡路島(国生みの島)
📍 兵庫県淡路市・洲本市・南あわじ市
国生み神話で最初に生まれたとされる「淡路島」。伊弉諾神宮を中心に島内各地に国生み神話ゆかりのスポットが点在する。明石海峡大橋で本州からアクセス可能。神話の島を一周する「国生み巡礼」が人気。
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黄泉比良坂・別れの聖地
黄泉比良坂(伊賦夜坂)
📍 島根県松江市東出雲町揖屋
伊邪那岐命と伊邪那美命が永遠の別れを告げた黄泉比良坂の伝承地。「黄泉の穴」と呼ばれる場所に注連縄が張られ、生と死の境界を肌で感じられる神話ゆかりの聖地。菊理姫命も登場した場所。
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禊の伝承地
江田神社(えだじんじゃ)
📍 宮崎県宮崎市阿波岐原町産母127
伊邪那岐命が禊を行った「筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原」の伝承地に鎮座する神社。禊の発祥の地として大祓詞にも名が刻まれる。境内の「御池(みいけ)」は禊の水と伝わり、神秘的な雰囲気が漂う。
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