日本の国は、どのようにして生まれたのか。 『古事記』や『日本書紀』の最初を飾る「国生み神話」において、二柱の神様、伊弉諾尊(イザナギノミコト)と伊弉冉尊(イザナミノミコト)が天の沼矛(ぬぼこ)で混沌をかき混ぜ、最初に生み出した“特別な島”。それが、瀬戸内海に浮かぶ最大の島、「淡路島(あわじしま)」です。
平成28年には『「古事記」の冒頭を飾る「国生みの島・淡路」〜古代国家を支えた海人の営み〜』として日本遺産にも認定されたこの島には、今も神話の息吹を感じられる神秘的な名所が数多く存在します。
今回は、現代の楽園でありながら古代の聖地でもある淡路島の、歴史が色濃く残るパワースポットを巡ります。
1. 淡路島が「国生みの島」と呼ばれるルーツ
神話によると、イザナギとイザナミの二神は、まだドロドロとして固まっていなかった地上を「天の沼矛」でかき混ぜました。その矛の先から滴り落ちた雫(しずく)が積もってできたのが「おのころ島」です。
二神はおのころ島に降り立ち、巨大な柱の周りを回って結婚の儀式を行い、日本列島の島々を次々と生み落としていきました。その「最初に誕生した島」こそが、淡路島であると記されています。
なぜ、九州や本州ではなく「淡路島」が最初だったのか。 そこには、優れた航海術と独自の製塩技術、そしていち早く鉄器文化(淡路市の五斗長垣内遺跡など)を取り入れ、大和朝廷(畿内王権)の誕生と都の暮らしを根底から支えた「海人(あま)」と呼ばれる海の民の存在があったからだと考えられています。
2. 神話の記憶を体感する「国生み」の名所たち
淡路島を訪れたら絶対に外せない、神話の舞台となった主要な名所をご紹介します。
① 日本最古の歴史を宿す社 ── 伊弉諾神宮(いざなぎじんぐう)
淡路島の中部に鎮座する、淡路国の一宮であり、日本最古の神社の一つです。
- 由緒と伝説: 国生みや神々を生むという壮大な神功(任務)を果たされたイザナギノミコトが、国家の統治権を天照大御神に譲り、自らの終の棲家(幽宮:かくりのみや)を構えて余生を過ごされた地。その跡地に建てられたのがこの神宮です。
- 見どころ: 境内には、元々は2本だった木が根元で結合し、1本になったと伝えられる樹齢約900年の「夫婦大楠(めおとおおくす)」があります。イザナギ・イザナミの二神が宿る御神木として、夫婦円満や縁結び、安産祈願の象徴となっています。
② 天地創造の第1歩 ── おのころ島神社(自凝島神社)
南あわじ市の、かつて「御原入江」と呼ばれた湿地帯の中に佇む丘にあります。ここ自体が、神々が最初に作った「おのころ島」の伝承地の一つです。
- 日本三大鳥居の一つ: 遠くからでも目を引く、高さ21.8メートルの真紅の大鳥居が出迎えてくれます(平安神宮、厳島神社と並ぶ大きさです)。
- 鶺鴒(せきれい)石: 境内には、二神が結婚の仕方に悩んでいた際、セキレイという鳥が尾を振る姿を見て夫婦の道を悟ったという神話にちなんだ「鶺鴒石」があり、良縁を望む参拝者が絶えません。
③ 海に浮かぶ原初の記憶 ── 沼島(ぬしま)と「上立神岩」
淡路島の南方にぽつりと浮かぶ周囲約10kmの「沼島」は、島全体が勾玉(まがたま)のような形をしており、こここそが本物の「おのころ島」であるという根強い伝説があります。
- 上立神岩(かみたてがみいわ): 沼島の海岸線にそびえ立つ、高さ約30メートルの巨大な奇岩です。その姿は、イザナギとイザナミが国を生むために大地をかき混ぜた「天の沼矛」の先端のようでもあり、あるいは二神が婚姻の儀式を行った「天の御柱(みはしら)」のようでもあります。押し寄せる荒波の中に直立する姿は、言葉を失うほどの神々しさです。
④ 北の玄関口に浮かぶ国生みの聖地 ── 絵島(えしま)
明石海峡大橋を渡ってすぐ、淡路島の北端にある小さな島(現在は陸続き)です。 ここもおのころ島の候補地の一つ。長年の波風によって削られた、美しい地層の模様が剥き出しになった珍しい岩島で、古来より和歌の名所としても愛されてきました。夜にはライトアップされ、現代の絶景スポットとしても人気を博しています。
3. 渦潮(うずしお)と神話のシンクロニシティ
淡路島の南端、鳴門海峡で見られる世界最大級の「渦潮」。 大迫力で激しく渦巻く海水を見ていると、古代の人々が「巨大な神の矛で、海を勢いよくかき混ぜている様子」をこの光景から連想し、国生み神話の描写(天地創造)を生み出したのではないか……というロマン溢れる想像が自然と膨らんでいきます。
4. まとめ:神話の島は、今も人々を癒す島
現代の淡路島は、美味しい玉ねぎや淡路牛、新鮮な海の幸が楽しめる「御食国(みけつくに)」としての魅力や、オシャレなシーサイドカフェが並ぶリゾート地としての顔が注目されがちです。
しかし、一歩その歴史の奥深くへ足を踏み入れると、そこには1300年以上前の『古事記』『日本書紀』に描かれた、日本の“はじまりの空気”がそのまま残されています。
青い海と豊かな自然に癒されながら、かつてこの島から日本を創り上げた神々と、それを支えた古代「海人」たちの足跡を辿る旅へ。あなたも出かけてみませんか?
【名所めぐり・旅のヒント】 淡路島は北(絵島)から中央(伊弉諾神宮)、南(おのころ島神社・沼島)へと神話のスポットが縦断するように点在しています。効率よくすべての聖地を巡るには、車(レンタカー)での移動が最もおすすめです。各スポットの近くには、淡路島自慢のご当地グルメスポットも充実していますよ!

コメント