神 様 図 鑑 — No. 045
たまよりびめのみこと 玉依毘売命
神武天皇の母神 / 豊玉毘売命の妹として御子を養育した海の女神 / 賀茂神社の縁結びの神
① 名前と出典
| 正式名称 | 玉依毘売命(たまよりびめのみこと)古事記 |
|---|---|
| 日本書紀表記 | 玉依姫(たまよりひめ)日本書紀 |
| 名前の意味 | 「玉(たま)」は宝玉・霊魂・霊力。「依(より)」は「霊が依り憑く・霊魂が宿る」という意味の古語。「毘売(びめ)」は女神・姫の敬称。全体として「霊魂が依り憑く玉の姫神」——神霊を体内に受け入れて宿すという巫女的・シャーマン的な神格を持つ女神という意味。神の霊を宿す「依り代(よりしろ)」としての性格が名前に凝縮されている。 |
| 初出文献 | 古事記(712年)中巻・日本書紀(720年)神代下。豊玉毘売命(No.044)の妹として登場し、姉が海へ帰った後に残された鵜葺草葺不合命を養育し、後に婚姻して神武天皇を産んだ神として記録される。また別の神話文脈では賀茂氏の祖神(下鴨神社・上賀茂神社)としての玉依毘売命も存在する。 |
② 神様の種類・神格と賀茂神社との関係
| 分類 | 国津神・海の女神——霊を宿す玉の姫・神武天皇の母——豊玉毘売命(姉)と同じく海神の娘として生まれ、姉が残した御子を養育・婚姻して神武天皇を産んだ神。「霊魂を宿す玉」という名の通り、霊的な受容・育成・縁を結ぶという神格を持つ。 |
|---|---|
| 賀茂神社の玉依毘売命 | 下鴨神社(賀茂御祖神社)・上賀茂神社(賀茂別雷神社)に祀られる「玉依媛命(たまよりひめのみこと)」は、同名だが賀茂氏の伝承上の神・別の玉依毘売命とされることが多い(賀茂建角身命の娘)。ただし「玉依(たまより)」という霊を宿す女神という神格が共通しており、縁結り・子育て・水の神として同様に信仰される。賀茂御祖神社社伝 |
| 神格 | 縁結神・子育て神・水神・霊依代神(霊を宿す神)・安産神・母神 |
③ 系図
④ 活躍した時代
姉・豊玉毘売命が海へ帰った後、残された鵜葺草葺不合命を養育した玉依毘売命は、その御子が成長すると婚姻し神武天皇を産んだ。「甥を育てて夫とした」という特異な関係は、古代の海の民(海人族)の婚姻慣習を反映しているともされる。玉依毘売命は「縁の下の力持ち」として、最終的に日本の初代天皇の母となるという重大な役割を静かに果たした神として日本神話に刻まれている。
祀られる神社
登場する神話・伝説
下鴨神社・上賀茂神社の縁起において「玉依媛命(たまよりひめのみこと)」が川(鴨川の上流)で水浴びをしていたところ、川上から朱塗りの矢が流れてきた。その矢を拾って寝床に置いたところ身ごもり、生まれた子が「賀茂別雷命(かもわけいかずちのみこと)」——上賀茂神社の主祭神——だったというのが賀茂神社の縁起伝承です。この「川に流れてきた物を通じて神の子を孕む」という「感精神話(かんせいしんわ)」のパターンは日本神話に繰り返されるテーマで、玉依毘売命の「霊を宿す玉の姫」という名前の本質を体現する伝承です。
鵜葺草葺不合命の養育と婚姻——天皇家の血統を繋いだ女神
古事記・日本書紀によれば、豊玉毘売命(姉)が産後すぐに海へ帰った後、残された鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)の養育を玉依毘売命が引き受けた。甥の育児を担当した玉依毘売命は、鵜葺草葺不合命が成長すると婚姻し四柱の御子神を産んだ。その末子が神倭伊波礼毘古命(かむやまといわれびこのみこと)——後の神武天皇——である。「姉の残した子を育てて夫とする」という特異な婚姻の形は、古代の海人族の慣習とも、「天孫の血統を海の血統で補完する」という神話的必然とも解釈される。玉依毘売命の献身が天皇家の血統を完成させたとも言える。
下鴨神社と糺の森——縁結りの神として京都に息づく玉依毘売命
下鴨神社(賀茂御祖神社)の境内には「糺の森(ただすのもり)」と呼ばれる原生林が広がり、縄文時代から続く古い森として保護されてきた。玉依媛命を祀る下鴨神社では縁結りの神として信仰が厚く、縁結りを願う参拝者が葵(あおい)の葉を縁結びのお守りに用いる慣習がある。また毎年5月の葵祭(あおいまつり)は下鴨神社・上賀茂神社の最大の祭礼で、平安時代の装束をまとった行列が京都市内を練り歩く京都三大祭のひとつ。「玉依毘売命の霊力が葵の花に宿る」という信仰が葵祭の根本にある。
逸話・エピソード
下鴨神社(賀茂御祖神社)の参道に広がる糺の森は約12.4ヘクタールの原生林で、縄文時代から続く古い森として京都の世界遺産のひとつに数えられる。欅・槻・榎など古木が立ち並ぶ森の参道を歩くだけで「玉依毘売命の霊力が満ちる神聖な空間」を感じられると多くの参拝者が語る。毎年1月の「蹴鞠はじめ」・5月の「葵祭」・秋の「糺の森 古本市」など四季を通じて行事が行われており、「縁結り・子育て・学問」のご利益を求めて名古屋からの日帰り参拝も多い。河合神社(下鴨神社の摂社)では玉依毘売命の「美しくなる」ご利益として鏡絵馬が有名。
毎年5月15日に行われる葵祭(あおいまつり)は下鴨神社・上賀茂神社の最大の祭礼で、京都三大祭のひとつ。平安時代の装束をまとった約500人の行列が御所から下鴨神社・上賀茂神社へと歩く「路頭の儀(ろとうのぎ)」が特に有名で、「葵(あおい)の葉」で牛車・行列を飾る華やかな光景が沿道の多くの観客を魅了する。葵祭の「葵(あおい)」は玉依毘売命(賀茂の神)への奉納植物で、「賀茂の神の霊力が葵に宿る」という信仰から参拝者が葵をお守りとして持つ慣習が生まれた。名古屋から新幹線・電車で約1時間半の京都で5月15日に葵祭を観覧するというのは神社ファンの一大イベント。

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