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十羅刹女(じゅうらせつにょ)は、法華経(ほけきょう)を信じる人を守る、10人の女神です。仏教を守る天部(てんぶ)の神々に数えられます。
この記事でわかること
- 「羅刹(らせつ)」という恐ろしい鬼の名を持つ10人が、なぜ守り神になったのか
- 10人それぞれの名前の意味と、鬼子母神(きしもじん)との関係
- 平安〜鎌倉の絵に、十羅刹女が「十二単(じゅうにひとえ)の姫君」として描かれた謎
こわい名前の奥にあるのは、「法華経を信じる人を、必ず守る」という固い約束でした。
01. 十羅刹女の基本情報
| 分類 | 天部(てんぶ=仏教を守る神々) |
| 読み方 | じゅうらせつにょ |
| どんな存在 | 10人の女性の鬼神(きじん=人の力を超えた、おそろしい力を持つ神や鬼)。改心して法華経の守護神になった |
| 別名・種子字 | 確かな出典で確認できず |
| 梵名(ぼんみょう) | 10人それぞれに梵名がある(「02」の表を参照)。羅刹女はラークシャシー(rākṣasī) |
| 登場する経典 | 法華経の「陀羅尼品(だらにほん)」 |
| いっしょに祀られる神仏 | 鬼子母神・普賢菩薩(ふげんぼさつ) |
| 真言・ご縁日 | 確かな出典で確認できなかったため省略(寺院によって異なります) |
02. 十羅刹女の解説 ― 鬼の名を持つ、10人の守護神
① 一言まとめ
十羅刹女は、もとは人をおびやかす鬼女たちでした。でもお釈迦さまの教えを聞いて、法華経を信じる人を守ると誓いました。今は鬼子母神とともに、心強い守り神として祀られています。
② 由来・経典上の位置づけ
「羅刹(らせつ)」とは、古代インドで人を惑わし、人を食べるとされた鬼のことです。その女性が「羅刹女(らせつにょ)」で、十羅刹女はその10人を指します。
十羅刹女が登場するのは、法華経の「陀羅尼品(だらにほん)」です。陀羅尼(だらに)とは、守りの力を持つ呪文のことです。
この章では、薬王菩薩(やくおうぼさつ)や毘沙門天(びしゃもんてん)などが、次々に守りの陀羅尼を唱えます。そして最後に、十羅刹女が鬼子母神とその子どもたちとともに進み出て、法華経を信じる人を守ると誓うのです。
十羅刹女10人の名前と読み方・意味
10人の名前と意味は、次のとおりです(意味は名前の訳から推測されたもので、諸説あります)。
| 名前 | 読み | 梵名 | 名前の意味 |
|---|---|---|---|
| 藍婆 | らんば | ランバー (Lambā) |
人々をしばるもの |
| 毘藍婆 | びらんば | ヴィランバー (Vilambā) |
人々の仲を引き離すもの |
| 曲歯 | こくし | クータダンティー (Kūṭadantī) |
歯が曲がった、恐ろしい姿のもの |
| 華歯 | けし | プシュパダンティー (Puṣpadantī) |
歯がきれいに並んでいるもの |
| 黒歯 | こくし | マクタダンティー (Makuṭadantī) |
歯が黒い、恐ろしい姿のもの |
| 多髪 | たほつ | ケーシニー (Keśinī) |
髪の毛が多いもの |
| 無厭足 | むえんぞく | アチャラー (Acalā) |
生き物を害しても飽き足らないもの |
| 持瓔珞 | じようらく | マーラーダーリー (Mālādhārī) |
瓔珞(ようらく=首飾り)を持つもの |
| 皐諦(睾帝) | こうたい | クンティー (Kuntī) |
天と人の世界を行き来するもの |
| 奪一切衆生精気 | だついっさいしゅじょうしょうけ | サルヴァサットヴォージョーハーリー (Sarvasattvojohārī) |
すべての生き物の精気を奪うもの |
※曲歯と黒歯は、どちらも「こくし」と読みます。皐諦は、経典では「睾帝」と書かれることもあります。梵名は Wikipedia「十羅刹女」の表記によります。
なんと、ほとんどが恐ろしい意味の名前です。それほどの力を持つ鬼女たちが、味方になって守ってくれる。そこに、十羅刹女の心強さがあります。
③ 十羅刹女の姿
十羅刹女は、絵画で表された例がよく知られています。とくに有名なのが、普賢菩薩といっしょに描かれた「普賢十羅刹女像(ふげんじゅうらせつにょぞう)」です。
白い象に乗った普賢菩薩のまわりに、10人の女神が付き従います。その姿には、中国風の衣装の「唐装(とうそう)」と、日本の宮廷の衣装の「和装(わそう)」の2種類があります。
文化庁の解説によれば、唐装の図のほうが古く成立したとみられます。唐装の例が、東京の根津美術館に伝わる平安時代末期の絵です。和装の図も、遅くとも12世紀半ば(平安時代後期)には生まれていたと推測されています。
一方、和装の代表例が、奈良国立博物館の鎌倉時代(13世紀)の絵です。こちらの十羅刹女と鬼子母神は、十二単(じゅうにひとえ)を着た姿で描かれています。ちなみにこの絵では、十羅刹女のうち1人が欠けています。
十羅刹女には、決まった持物(じもつ)や台座はなく、作品ごとに姿が異なります。合掌したり、供え物を捧げたりする姿で描かれることもあります。
03. 十羅刹女のご利益・祈願
📿 信仰を守る
🏠 家内安全
🌿 病気平癒
👶 子育て(鬼子母神とともに)
こんな人におすすめ
- 悪い縁や災いから、身を守りたい人
- お経や祈りを続ける心を、支えてほしい人
- 家族みんなの無事を願う人
ご利益の根拠:十羅刹女は陀羅尼品で、法華経を信じて伝える人を守り、その人をおびやかすものを退けると誓いました。この誓いが、厄除けや魔除けの信仰のもとになっています。
さらに陀羅尼品では、1日だけの熱から、ずっと続く熱病まで、あらゆる熱で信じる人を苦しめさせない、とも誓っています。病気平癒を願う信仰は、ここにつながります。
また、子どもを守る鬼子母神といっしょに祀られることが多いため、家族や子どもの守り(家内安全など)も願われてきたとされます。ご利益の内容はお寺によって異なるので、お参りの前に確かめてください。
04. 十羅刹女と関連する仏様・神様
※神仏習合で十羅刹女と対応づけられた日本の神は、確かな出典では確認できませんでした。
05. 十羅刹女を祀る寺院・会える場所
- 根津美術館(ねづびじゅつかん/東京都港区)― 平安時代末期(12世紀後半)の「絹本著色(けんぽんちゃくしょく)普賢十羅刹女像」(重要文化財)を所蔵。唐装の十羅刹女が描かれている。
- 奈良国立博物館(奈良県奈良市)― 鎌倉時代の「普賢十羅刹女像」(重要文化財)を所蔵。十羅刹女と鬼子母神が十二単の和装で描かれている。
- 大法寺(だいほうじ/富山県高岡市)― 若き日の長谷川等伯(はせがわとうはく。当時は信春〈しんしゅん〉)が描いた「鬼子母神・十羅刹女像」(紙本著色〈しほんちゃくしょく〉・重要文化財)がある。永禄7年(1564年)の作とされる。
- 本覚寺(ほんかくじ/千葉県流山市)― 日蓮宗の寺。鬼子母神立像と十羅刹女立像(高さ20〜30cmほど)があり、流山市の有形文化財に指定されている。台座裏の墨書(ぼくしょ)から、文明12年(1480年)に修理されたことがわかり、それより古い像とされる。もとは小金(こがね)の本土寺の像だったと考えられている。
06. 見分け方ガイド ― 十羅刹女と、ほかの女神たち
- ✅ 十羅刹女:女性が10人並んで描かれる(欠けている絵もある)。白象に乗る普賢菩薩のまわりに並ぶ構図が多い。衣装は唐装か和装。
- ✅ 鬼子母神:1人で、赤ちゃんを抱き、ざくろを持つことが多い。十羅刹女といっしょに描かれた絵もある(奈良国立博物館本など)。
- ✅ 吉祥天(きちじょうてん)・弁財天(べんざいてん):ふつうは1人で表される女神。十羅刹女のように10人で並ぶ形はとらない。
- ✅ 人数に注目:女神が10人ほど並び、白象に乗る普賢菩薩がいれば、普賢十羅刹女像の可能性が高い。根津美術館本のように、幡(ばん)を捧げる天童(てんどう)2人が先導する図もある。
- ✅ 名前を書いた札や、日蓮宗の寺の掛け軸に「十羅刹女」と書かれていることもあります。
07. 十羅刹女の物語 ― 鬼女たちが進み出た日
霊鷲山(りょうじゅせん)で、お釈迦さまが法華経を説いていたときのことです。
「この教えを伝える人を、私たちが守ります」。まず薬王菩薩が立ち上がり、守りの陀羅尼を唱えました。続いて勇施菩薩、毘沙門天、持国天も、次々に誓いを立てます。
そのあと、静かに進み出た一団がありました。十人の羅刹女と、鬼子母神とその子どもたちです。かつては人々に恐れられた鬼女たちでした。
彼女たちは、声をそろえて誓います。「法華経を信じる人を、私たちが守ります。その人を悩ませる者がいれば、決して許しません」。
経典には、その者の頭は七つに割れるだろう、という激しい言葉まで記されています。恐ろしい力は、今度は守るために使われることになったのです。
お釈迦さまは、その誓いをほめたたえました。こうして十羅刹女は、法華経の守護神となったのです。
08. 十羅刹女のまとめと関連記事
この記事でわかったこと
恐ろしい名前の守り神たちは、信じる人の味方です。日蓮宗のお寺を訪ねたら、ぜひ探してみてください。
09. ゆる仏様トーク ― 十羅刹女編
十羅刹女は、今でいえば「元・やんちゃだった10人組が、町内の頼れる見守り隊になった」ような存在です。こわさを知っているからこそ、悪い者を寄せつけません。
名前の意味は「しばる」「引き離す」「精気を奪う」……。どう見ても敵の名前です。──そう、だからこそ、味方になったときの安心感は誰にも負けないのです。
※経典の言葉ではなく、十羅刹女の誓いをイメージしたセリフです。

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