鬼子母神(きしもじん・きしぼじん)とは、安産・子育ての守り神として、日蓮宗を中心に信仰されている天部の女神です。
この記事でわかること
- 人の子をさらっていた鬼子母神(きしもじん)が、なぜ子育ての守り神になったのか
- 手に持つ「ざくろ」の意味と、安産・子育てのご利益・真言
- 雑司ヶ谷鬼子母神堂(ぞうしがや)の「鬼」の字に、角(つの)がない理由
かつて人の子をさらっていた母が、今は子どもを守る仏様として祈られています。その間にあったのは、ひとりの母の、深い悲しみでした。
01. 鬼子母神の基本情報
| 分類 | 天部(てんぶ=仏教を守る神々) |
| 読み方 | きしもじん(「きしぼじん」とも読む) |
| 別名 | 訶梨帝母(かりていも)・歓喜母(かんぎも) |
| 梵名(ぼんみょう) | ハーリーティー(Hārītī) |
| 真言(しんごん) | オン・ドドマリ・ギャキテイ・ソワカ(代表的なもの。宗派によって異なることもあります) |
| 種子字(しゅじ) | 資料によって異なる(諸説あり) |
| ご縁日 | 寺院によって異なる(雑司ヶ谷鬼子母神堂の御会式〈おえしき〉は例年10月16日〜18日) |
| 持物(じもつ) | 吉祥果(きちじょうか。日本ではざくろで表される)・赤ちゃん |
| 登場する経典 | 法華経(陀羅尼品〈だらにほん〉)・鬼子母経(きしもきょう)など |
02. 鬼子母神の解説 ― 子を失う悲しみを知った母
① 一言まとめ
もとは人の子をさらって食べていた、恐ろしい鬼女でした。でもお釈迦さまに諭(さと)されて改心し、子どもと母親を守る仏様になりました。今は安産や子育ての守り神として、多くの人に親しまれています。
② 由来・経典上の位置づけ
鬼子母神は、もともと古代インドの鬼神(きじん)ハーリーティーです。仏教では、毘沙門天(びしゃもんてん)に仕える夜叉(やしゃ)の大将・般闍迦(はんじゃか)の妻とされます。
経典によれば、鬼子母神にはたくさんの子どもがいました。その数は500人とも1000人とも伝わります(経典によって異なります)。
ところが鬼子母神は、自分の子を育てるために、人間の子をさらっては食べていました。困り果てた人々は、お釈迦さまに助けを求めます。そこからの物語は、「07 物語コラム」でくわしく紹介します。
改心したあと、鬼子母神は仏教の守護神になりました。法華経の「陀羅尼品(だらにほん)」では、十羅刹女(じゅうらせつにょ)とともに「法華経を信じる人を守る」と誓っています。
この誓いがあるため、法華経を大切にする日蓮宗(にちれんしゅう)では、鬼子母神がとくに篤(あつ)く信仰されています。宗祖の日蓮聖人も、鬼子母神を法華経の守護神として大切にしました。
③ 鬼子母神の姿・持物
鬼子母神の像には、大きく分けて2つの姿があります。
ひとつは、やさしい天女のような姿です。赤ちゃんを抱き、手にざくろを持つ形が多く見られます。
たとえば岩手県平泉(ひらいずみ)の毛越寺(もうつうじ)には、子院(しいん)の大乗院(だいじょういん)に伝わった12世紀の像があります。左手に赤ちゃんを抱き、右手にざくろを持っています(岩手県指定文化財)。
もうひとつは、角を生やし、口を大きく開いた「鬼形(きぎょう)」の姿です。改心する前の、厳しい力をそのまま表したものとされます。
経典では、鬼子母神が持つ果物は「吉祥果(きちじょうか)」とされます。ただ、吉祥果が何の果物なのかははっきりしません。中国に伝わったとき、ざくろで表されるようになったといわれます(諸説あり)。
ざくろは、たくさんの実がつまっていることから、子宝や子孫繁栄の象徴とされます。ちなみに「ざくろは人の肉の味がするから」という話もよく聞きますが、これは後の時代の言い伝えで、由来には諸説あります。
03. 鬼子母神のご利益・祈願
👶 子育て・子どもの健康
🌱 子授け
🏠 家内安全・夫婦円満
🛡️ 厄除け
こんな人におすすめ
- 赤ちゃんを授かりたい人、出産をひかえた人
- 子どもの健やかな成長を願う親や家族
- 子育てに悩み、心の支えがほしい人
ご利益の根拠:鬼子母神は、わが子を失う悲しみを知ったことで、すべての子どもを守ると誓いました。「子を思う母の気持ちを、誰よりもわかっている仏様」だからこそ、安産や子育ての願いが託されてきたのです。
また、法華経では「法華経を信じる人を守る」と誓った守護神でもあります。そのため子どもだけでなく、家族みんなの無事を願う信仰にも広がりました。
お参りの記念には、ゆかりの郷土玩具もおすすめです。雑司ヶ谷では、すすきの穂で作ったみみずくの郷土玩具「すすきみみずく」が、江戸時代から親しまれてきました。今は地元の保存会が作り、参道の案内処などで手に入ります(販売の時期は事前に確認してください)。
04. 鬼子母神と関連する仏様・神様
05. 鬼子母神を祀る主要な寺院
雑司ヶ谷・入谷・中山(法華経寺)は「江戸三大鬼子母神」と呼ばれます。3つのお寺のくわしい見どころは、江戸三大鬼子母神の記事で紹介しています。
06. 見分け方ガイド ― 鬼子母神と他の女神の違い
07. 物語コラム ― お釈迦さまが隠した、たったひとりの子
ある日、鬼子母神が家に戻ると、いちばん可愛がっていた末っ子の姿がありませんでした。
家じゅうを探しても、どこにもいません。町を探し、山を探し、何日も世界じゅうを駆けめぐったといいます(経典の説話より)。それでも、わが子は見つかりません。
泣き叫びながら、鬼子母神はお釈迦さまのもとへたどり着きます。するとお釈迦さまは、静かにこう問いかけました。
※経典の内容をもとに、わかりやすく言い換えたものです。
その言葉に、鬼子母神は初めて気づきます。自分がしてきたことが、どれほど多くの親を悲しませてきたのかを。
実は、末っ子はお釈迦さまが鉢の中に隠していたのでした。鬼子母神は泣いて罪を悔い、二度と人の子を奪わないと誓います。そして、すべての子どもを守る仏様になったのです。
08. 鬼子母神のまとめと関連記事
この記事でわかったこと
- 鬼子母神は、人の子をさらう鬼女だったが、お釈迦さまに諭されて子どもを守る仏様になった
- 手に持つざくろは「吉祥果」。子宝・子孫繁栄の象徴で、鬼子母神を見分ける目印になる
- 法華経を守る神として、日蓮宗の寺で篤く信仰されている
子どもの健やかな成長を願うときは、ぜひ鬼子母神に会いに行ってみてください。
09. ゆる仏様トーク ― 鬼子母神編
鬼子母神は、今でいえば「つらい過ちを乗り越えた人が、いちばん頼れる保育園の園長先生になった」ような存在です。痛みを知っているからこそ、誰よりも子どもと親の気持ちに寄り添えるのです。
子どもは500人(1000人という説も)。それなのに、たった一人がいなくなっただけで、世界じゅうを探し回ります。──そう、何百人いても、どの子も「かけがえのないひとり」だったのです。
※経典の言葉ではなく、鬼子母神の誓いをイメージしたセリフです。


コメント