神 様 図 鑑 — No. 074
うけもちのかみ 保食神
食物を体から生み出す神 / 月読命に殺された食の女神 / 死の体から五穀・家畜が生まれた農業起源神話
① 名前と出典
| 正式名称 | 保食神(うけもちのかみ)日本書紀 |
|---|---|
| 古事記表記 | 古事記では直接の登場はなく、日本書紀に詳細が記される。古事記の「大宜都比売(おおげつひめ)」が類似の神話を持つ神として対応関係が議論される。古事記・日本書紀の比較研究 |
| 名前の意味 | 「保(う)」は「宇(う)」——食物・食べ物の古語。「食(け・もち)」は食べ物・食物を保持する。「神(かみ)」は神霊。全体として「食物を保ち体現する神」——あらゆる食物の霊力を体に保ち、それを他者に与える食の神という意味。「食物を生み出す神」という神格が名前にそのまま込められている。 |
| 初出文献 | 日本書紀(720年)神代上。天照大神の使いとして月読命(No.014)が保食神のもとへ遣わされた場面で登場。「保食神が食物を口から吐き出して供応した」ことに月読命が怒り、剣で切り殺したとされる。保食神の死後その体から五穀・蚕・家畜などが生まれた。 |
② 保食神の体から生まれた食物・家畜
月読命に殺された保食神の体の各部位から、日本農業・食文化・養蚕・牧畜の根源となる生物が生まれたとされる。これは「神の犠牲が人間の食の恵みになる」という世界共通の穀物起源神話のパターンを日本神話で体現したもの。
③ 活躍した時代
保食神は月読命に殺されることで、その体から日本農業・食文化・養蚕・牧畜の起源となる生物をすべて地上にもたらした。「神が死んで人間の食が生まれる」という犠牲の神話は、日本人の「食への感謝・いただきます」という精神の神話的根拠のひとつとして深く意味を持つ。
祀られる神社
登場する神話・伝説
月読命と保食神——「口から食物を出す」という供応が招いた悲劇
日本書紀によれば、天照大神は月読命を保食神のもとへ遣わした。保食神は訪れた月読命をもてなすために、「陸の方を向いて口から米飯を吐き出し・海の方を向いて口から魚を吐き出し・山の方を向いて口から獣の肉を吐き出して」料理を並べた。しかし月読命はこの「口から食物を吐き出す」という行為を「穢れた食物を神に供する」と怒り、剣を抜いて保食神を斬り殺した。天照大神は月読命の行為に激怒し「あなたとは会いたくない」と言って以来、太陽(天照大神)と月(月読命)が一緒に空に出なくなった——これが「昼と夜が分かれた理由」の神話的説明となっている。
保食神の死体から生まれた五穀——「死と豊穣」という農業神話の普遍的テーマ
殺された保食神の体の各部位から五穀・蚕・牛馬が生まれたという神話は、世界各地の「穀物起源神話」と共通するパターンを持つ。インドネシアの「ハイヌウェレ神話」(少女の体から食物が生まれる)・北欧神話(ユミルの体から世界が作られる)など世界各地に「神の犠牲から食や世界が生まれる」という神話が存在し、保食神の神話もその世界的なパターンの日本版として位置づけられる。この神話が伝える「食は神の犠牲から生まれた」という感覚が、日本の「いただきます」という食前の言葉——命をいただく(神への感謝)——の神話的根拠のひとつとも考えられている。

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