この記事でわかること
- 金剛薩埵とはどんな菩薩か。名前の意味と、五鈷杵・五鈷鈴を持つ姿
- 神々の王・大自在天(だいじざいてん)に「薬叉(やしゃ)」とよばれた話
- 【謎】仏のボディーガードだった「金剛手(こんごうしゅ)」が、なぜ真言八祖の第二祖になったのか
いちばんそばで仏を守った者が、いちばん先に教えを受けとった。その道のりをたどります。
01. 金剛薩埵の基本情報
| 分類 | 菩薩(密教の菩薩) |
| 読み方 | こんごうさった |
| 別名 | 執金剛(しゅうこんごう)・金剛手(こんごうしゅ)・持金剛(じこんごう。本来は別の尊格とする説もあります)・秘密主(ひみつしゅ)・大勇金剛(だいゆうこんごう)など。普賢菩薩と同じ仏ともいわれます |
| 梵名(ぼんみょう) | ヴァジュラサットヴァ(Vajrasattva)。ヴァジュラは「金剛(こんごう。ダイヤモンドのように堅い)」、サットヴァは「薩埵(さった)」と音写され、「勇ましい者」「生きもの(有情〈うじょう〉)」という意味です |
| 真言 | オン・バサラ・サトバ・アク |
| 種子字 | バン(vaṃ)(Wikipediaによる。ほかの説もあります) |
| 位置づけ | 真言宗の付法の八祖の第二祖。大日如来から教えを受け、龍猛(りゅうみょう。龍樹)に伝えたとされます |
| ご縁日 | 決まったものは確認できませんでした |
02. 金剛薩埵とは? ― 大日如来と人々をつなぐ菩薩
① 一言まとめ
金剛薩埵は、「さとりを求める心(菩提心〈ぼだいしん〉)」をあらわす菩薩です。大日如来と、わたしたち人々をつなぐ役目をもつとされます(デジタル大辞泉)。
② 由来・経典上の位置づけ
金剛薩埵のルーツは、インドの「ヴァジュラパーニ(金剛手。金剛杵を手に持つ者)」にさかのぼると考えられています。お釈迦さまのそばで教えを守った神です。お寺の門に立つ金剛力士(仁王)と同じルーツで、別名の「執金剛」「金剛手」も、金剛力士の別名と重なります。
のちの密教では、この金剛手が大きく位を上げます。『金剛頂経(こんごうちょうぎょう)』や『理趣経(りしゅきょう)』では、大日如来の教えを受けとる中心の菩薩として登場します。
そして真言宗では、教えのリレーの2番目「付法の第二祖」とされます。大日如来の教えをまとめ、それを龍猛に伝えたとされるのです(Wikipedia「金剛薩埵」、コトバンク「真言宗」)。龍猛が南天鉄塔(なんてんてっとう)で教えを受けた話は、龍樹の記事でくわしく紹介しています。
曼荼羅(まんだら)の中では、胎蔵界曼荼羅の金剛手院(こんごうしゅいん)の中心にいます。金剛界曼荼羅では、理趣会(りしゅえ)の本尊です(コトバンク)。
③ 姿・持物・印相
- 頭:五仏(ごぶつ)の宝冠(ほうかん)をかぶった、菩薩の姿です
- 右手:胸の前で五鈷杵(ごこしょ)をにぎります。迷いをくだく、かたい心のしるしです
- 左手:腰のあたりで五鈷鈴(ごこれい)を持ちます。鈴の音で、仏の心をよびさますといわれます
- すわり方:両足を組む結跏趺坐(けっかふざ)ですわります
ただし、胎蔵界と金剛界では、持ち物や手の位置に差があるとされます(世界大百科事典)。
03. 金剛薩埵のご利益 ― 菩提心・迷いをくだく力・修行の守り
🔔 迷いをはらう
📿 修行・学びの守り
🌱 さとりを求める心を育てる
- ゆるがない心:「金剛」はダイヤモンドのように堅いという意味です。こわれない心をあらわします(Wikipedia)
- 迷いをはらう:五鈷杵は迷いをくだき、五鈷鈴は仏の心をよびさますとされます
- 修行・学びの守り:密教の教えを受けとる菩薩として、学ぶ人の手本とされます
- さとりを求める心を育てる:人がもともと持っている菩提心をあらわす、とされます(世界大百科事典)
ご利益の根拠:金剛薩埵に決まったご利益があると書いた資料は、確認できませんでした。ここでは、名前の意味と、菩提心をあらわすという位置づけから紹介しています(筆者の見方)。
こんな人におすすめ:新しいことを学びはじめた人。やると決めたことを、最後までやりとげたい人です。
04. 金剛薩埵と関係の深い仏様 ― 大日如来・普賢菩薩・愛染明王
05. 金剛薩埵をまつる主な寺 ― 東寺・随心院・根来寺
- 東寺(教王護国寺。京都市南区):講堂の五大菩薩像の一体が金剛薩埵です。平安時代の国宝です。日本でいちばん古い金剛薩埵像ともいわれます(ブリタニカ)。五大菩薩の中心の金剛波羅蜜多菩薩(こんごうはらみったぼさつ)は、江戸時代の作です。一方、金剛薩埵は平安時代のはじめの像が残ります(Wikipedia「東寺」)。講堂は拝観できるお堂です。料金・時間は東寺の公式サイトで確かめてください。くわしくは東寺の記事へ
- 随心院(ずいしんいん。京都市山科区):鎌倉時代の金剛薩埵坐像が残ります(日本大百科全書)。快慶(かいけい)の作と伝わります(観光案内による)。公開の時期は、お寺に確かめてください
- 根来寺(ねごろじ。和歌山県岩出市):大伝法堂(だいでんぽうどう。重要文化財)に、大日如来・金剛薩埵・尊勝仏頂(そんしょうぶっちょう)の三尊がまつられます(文化遺産オンライン)。くわしくは覚鑁の記事へ
- 高野山(和歌山県高野町):金堂の秘仏だった金剛薩埵像は、1926年の火事で焼けてしまったとされます(日本大百科全書)
06. 金剛薩埵の見分け方ガイド
✅ これがあれば金剛薩埵かも?チェックリスト
- □ 宝冠をかぶった、おだやかな菩薩の姿
- □ 右手に五鈷杵を胸の前でにぎる
- □ 左手に五鈷鈴を腰のあたりで持つ
- □ 真言八祖の絵で、大日如来のすぐ次にいる菩薩
まちがえやすい仏様とのちがい
07. 金剛薩埵の物語 ― 「薬叉の言うことなど聞けるか」
『金剛頂経』の降三世品(ごうざんぜほん)に、金剛手(金剛薩埵)が神々の王と向きあう場面があります。
金剛手は、大自在天(シヴァ)に告げます。「仏・法・僧に帰依して、さとりの智慧を求めなさい」。
ところが大自在天は、自分こそが世界の主だとほこっていました。そして、こう言い返したと伝わります。
(どうしてわたしが、薬叉〈やしゃ〉ごときの命令に従わねばならないのか。)
(Wikipedia「降三世明王」に引かれた『金剛頂経』の訳文)
薬叉(夜叉)は、インドでは森や財宝を守る精霊のような神々です。神々の王から見れば、ずっと身分の低い存在でした。大自在天は、金剛手を「仏のそばにいる、ただの薬叉」と見たのです。
金剛手は、金剛杵(こんごうしょ)を投げつけながら、もう一度命じます。大自在天は「こんな命令を出すのはだれだ」と、仏にたずねました。
最後に、大自在天は金剛手に降伏させられ、仏の教えに入ったと伝わります。降三世明王が大自在天と妃を足でふむ姿は、この場面をあらわしたものとされます。くわしくは降三世明王の記事へ。
──そう、同じお経の中で、金剛手は「ただの薬叉」とも、「大日如来の教えを受けとる菩薩」とも見られていたのです。
08. 金剛薩埵のまとめと関連記事
この記事でわかったこと
お寺で真言八祖の絵を見たら、大日如来のとなりにいる菩薩をさがしてみてください。
09. ゆる仏様トーク ― 金剛薩埵編
金剛薩埵は、今でいえば「社長のボディーガードをしていたら、いつのまにか社長の考えをいちばん知る人になり、後継者に選ばれた人」です。そばにいる時間の長さは、ときに大きな力になります。
神々の王に「薬叉ごときが」と言われた金剛手。でも同じ『金剛頂経』では、大日如来の教えを受けとる中心の菩薩です。──そう、見る人によって、ただの薬叉にも、いちばん大事な弟子にも見えたのです。
金剛薩埵が、何かを学びはじめたばかりの人に声をかけるとしたら――
※経典の言葉ではありません。大日如来の教えを受けとり伝えたという金剛薩埵の役目をもとに、イメージしたセリフです。


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