この記事でわかること
- 十一面観音(じゅういちめんかんのん)の頭の上に、なぜたくさんの顔があるのか
- 笑う顔・怒る顔など、11の顔それぞれの意味と、ご利益・真言
- 国宝の十一面観音7体と、会いに行けるお寺
やさしい顔、怒った顔、そして後ろには大笑いする顔。ひとつの仏様に、どうしてこんなにたくさんの表情があるのでしょうか。
01. 十一面観音の基本情報
| 分類 | 菩薩(観音菩薩の変化身〈へんげしん〉のひとつ) |
| 読み方 | じゅういちめんかんのん |
| 正式な名前 | 十一面観世音菩薩(じゅういちめんかんぜおんぼさつ) |
| 別名 | 大光普照観音(だいこうふしょうかんのん/天台宗の六観音での呼び名) |
| 梵名 | エーカーダシャムカ(Ekādaśamukha/サンスクリット語で「11の顔」) |
| 真言 | オン・ロケイ・ジンバラ・キリク・ソワカ(代表的なもの。宗派によって異なる真言も伝わります) |
| 種子字 | キャ |
| ご縁日 | 毎月18日(観音菩薩の縁日) |
| 主な経典 | 十一面観世音神呪経(じゅういちめんかんぜおんじんしゅきょう)・十一面神呪心経(じゅういちめんじんしゅしんぎょう) |
| 六観音での担当 | 阿修羅道(あしゅらどう)の人々を救う(真言宗・天台宗の六観音の場合) |
02. 十一面観音の解説 ― たくさんの顔でみんなを見守る観音様
① 一言まとめ
頭の上に、たくさんの小さな顔をのせた観音様です。あらゆる方向を見わたし、どんな人も見逃さずに救うといわれます。奈良時代から信仰され、国宝の仏像も多い人気の観音様です。
② 由来・経典上の位置づけ
観音菩薩は、困っている人の声を聞いて救いに来てくれる菩薩です。救う相手に合わせて、さまざまな姿に変わるとされます。その変化した姿のひとつが、十一面観音です。
もとはインドで生まれた信仰で、密教(みっきょう)の中で育ちました。中国で『十一面観世音神呪経』などのお経が訳され、日本には奈良時代に伝わります。
実は、日本で最も早く広まった「変化観音(へんげかんのん)」のひとつが十一面観音です。東大寺の二月堂(にがつどう)では、752年から十一面観音の前で罪を悔い改める法要が続いています。これが、春を呼ぶ行事として有名な「お水取り」(修二会〈しゅにえ〉)です。
③ 十一面観音の姿・持物・11の顔の意味
いちばんの特徴は、頭の上にのった小さな顔です。数え方には、もとの顔を含めて11とする説と、頭上だけで11とする説があります。
頭上の顔には、それぞれ意味があるとされます。頭上だけで11面と数えた場合の、よく知られている解釈は次のとおりです(左右は経典の記述にもとづく配置で、像によって異なることもあります)。
| 顔の種類 | 数・位置 | 表情 | 意味(一般的な解釈) |
|---|---|---|---|
| 菩薩面(ぼさつめん) | 3つ・正面 | おだやか | 善い心の人に、やさしくほほえむ |
| 瞋怒面(しんぬめん) | 3つ・左側 | 怒り | 悪い心の人を叱り、正しい道へ導く |
| 狗牙上出面(くげじょうしゅつめん) | 3つ・右側 | 牙を出す | 正しい行いをする人を励ます |
| 暴悪大笑面(ぼうあくだいしょうめん) | 1つ・後ろ | 大笑い | 悪を笑い飛ばし、改心させる |
| 仏面(ぶつめん) | 1つ・頂上 | 仏の顔 | 最後に目指す、悟りの姿 |
多くの像は、左手に水瓶(すいびょう)を持ち、そこに蓮の花を挿しています。右手は下に垂らすか、数珠を持つ姿がよく見られます。
ちなみに、奈良の長谷寺の十一面観音は、右手に錫杖(しゃくじょう=旅のお坊さんが持つ杖)を持っています。この形は「長谷寺式」と呼ばれます。
03. 十一面観音のご利益・祈願
🛡️ 厄除け・災難除け
💰 財運・衣食に困らない
🔥 火難・水難除け
🪷 安らかな往生(おうじょう)
こんな人におすすめ
- 自分や家族の病気の回復を願う人
- どちらを向いても悩みがあり、何から手をつければいいかわからない人
- 見守ってくれる存在がほしい人
ご利益の根拠:『十一面神呪心経』というお経には、十一面観音を信じる人が受ける利益が書かれています。この世で受ける「十種勝利(じっしゅしょうり)」と、亡くなるときに受ける「四種果報(ししゅかほう)」です。
十種勝利には、病気にかからない、財産や食べ物に困らない、火や水の災いにあわない、などがあります。四種果報には、臨終(りんじゅう)のときに仏に会える、極楽浄土に生まれる、などがあります。
04. 十一面観音と関連する仏様・神様
白山の神と十一面観音の結びつきには、こんな言い伝えがあります(伝承)。717年、泰澄大師(たいちょうだいし)が白山の頂に登ったとき、光り輝く十一面観音が現れたというのです。今の白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)では、白山比咩大神(しらやまひめのおおかみ)を主祭神として祀っています。この神は菊理姫命(くくりひめのみこと。菊理媛尊とも書く)とも呼ばれます。伊邪那岐命(いざなぎのみこと)・伊邪那美命(いざなみのみこと)も一緒に祀られています。
05. 十一面観音を祀る主要な寺院
06. 見分け方ガイド ― 十一面観音と他の観音様の違い
07. 物語コラム ― 土の中で戦火を越えた十一面観音
渡岸寺観音堂の十一面観音は、寺伝によれば、奈良時代に聖武天皇の願いを受けて泰澄大師が彫ったものとされます。白山で十一面観音に出会ったという、あの泰澄です。
1570年(元亀〈げんき〉元年)。近江(おうみ/今の滋賀県)の北部は、織田信長と浅井長政(あざいながまさ)の戦いに巻き込まれていました。
渡岸寺観音堂のある渡岸寺(どうがんじ)の村にも、戦の火が迫ります。お堂はついに焼けてしまいました。
けれども、本尊の十一面観音は無事でした。住職の巧円(こうえん)と村人たちが、観音様を土の中に埋めて守ったと伝えられています(伝承)。川に沈めて隠したという話もあり、伝え方には諸説あります。
その後、住職は浄土真宗に改め、向源寺(こうげんじ)を開きました。観音堂は、そのあとも村人たちが守り続けています。今この像は国宝となり、少し腰をひねった優美な姿を見せてくれます。
湖北(こほく)と呼ばれるこの地域には、村人が守ってきた観音様が今もたくさん残っています。十一面観音が人々を見守ってきたように、人々もまた観音様を守ってきたのです。
08. 十一面観音のまとめと関連記事
この記事でわかったこと
- 十一面観音は、観音菩薩が変化した姿。頭上の顔で、あらゆる方向の人を見守る
- やさしい顔・怒った顔・牙の顔・大笑いの顔・仏の顔には、それぞれ救い方の違いが表れている
- 国宝は7体。長谷寺の約10mの観音様や、背中側まで拝める渡岸寺観音堂など、会いに行けるお寺も多い
お寺で十一面観音に出会ったら、ぜひ横や後ろにも回って、顔のひとつひとつを見てみてください。
09. ゆる仏様トーク ― 十一面観音編
十一面観音は、今でいえば360度カメラを頭にのせた、見守りのプロです。前も横も後ろも、死角なし。どこで誰が困っていても、ちゃんと気づいてくれます。
やさしい顔、怒った顔、牙をむく顔……ここまでは「まあ、使い分けだよね」と納得できます。でも、後ろの顔はなんと大笑い。しかも、正面からは見えない場所です。──そう、仏様にも「背中で語る」一面があったのです。
※経典の言葉ではなく、十一面観音の姿をイメージしたセリフです。


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