神 話 図 鑑 古事記 第3話
「神生みと火神の悲劇」
多くの神々を生み出した二柱を、火の神が引き裂いた。
イザナミの死と、イザナギの深い悲しみ。
📋 この記事でわかること
- 国生みの後、イザナギ・イザナミが生み出した多くの神々(神生み)の全リスト
- 火の神迦具土神(カグツチ)の誕生と、イザナミが受けた致命的な傷
- イザナミの死と、出雲国と伯伎国の境の比婆山への埋葬
- 怒りに燃えたイザナギがカグツチを斬る——そこから生まれる新たな神々
📜 あらすじ(3行まとめ)
イザナギは深く悲しみ、妻の傍らに伏して泣き続け、その涙からも神が生まれた。
怒りに駆られたイザナギは腰の剣でカグツチの首を斬り、その返り血と体の各部からさらに多くの神々が生まれた。
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国生みを終えた後、イザナギとイザナミは続いて多くの神々を生み出しました。海の神・山の神・川の神・風の神・木の神など、自然界のあらゆるものを司る神々が次々と誕生しました。
※神生みで誕生した主な神々は以下の「登場する神々」の表にまとめています。
次に火の神、火之夜藝速男神を生みたまいき。またの名は火之炫毘古神、またの名は火之迦具土神。ここに伊邪那美命は、この火の神を生みたまいしに因りて、みほとを炙かれて、病みたまいき。その吐きたまえる神の名は金山毘古神、次に金山毘売神。その屎にあれる神の名は波邇夜須毘古神、次に波邇夜須毘売神。その尿にあれる神の名は弥都波能売神、次に和久産巣日神。この神の子は豊宇気毘売神なり。かく病みたまいて、遂に神避りたまいき。
つぎにひのかみ、ほのやぎはやをのかみをうみたまいき。またのなはほのかがびこのかみ、またのなはほのかぐつちのかみ。ここにいざなみのみことは、このひのかみをうみたまいしによりて、みほとをやかれて、やみたまいき。そのはきたまえるかみのなはかなやまびこのかみ、つぎにかなやまびめのかみ。そのくそにあれるかみのなははにやすびこのかみ、つぎにはにやすびめのかみ。そのゆばりにあれるかみのなはみつはのめのかみ、つぎにわくむすびのかみ。このかみのこは、とようけびめのかみなり。かくやみたまいて、つひにかむさりたまいき。
神々を次々と生み出した後、最後に火之迦具土神(ほのかぐつちのかみ)——火の神——を生みました。
この火の神を産んだとき、イザナミは陰部(みほと)を焼かれて深刻な病に倒れました。
病に伏したイザナミの体からも神々が生まれました。吐いたものからは金山毘古神・金山毘売神(金属の神)が、排泄物からは波邇夜須毘古神・波邇夜須毘売神(土の神)が、尿からは弥都波能売神(水の神)と和久産巣日神(若い創造の力の神)が生まれました。和久産巣日神の子は豊宇気毘売神(食物の神)です。
こうして病み苦しんだ末に、イザナミは遂に命を落とされました(神避りたまいき)。
ここに伊邪那岐命、その枕辺に匍匐り、その足辺に匍匐り泣きたまいき。その時に泣きたまう涙より成りし神の名は、泣沢女神。これ、香山の畝尾の木本に坐す神ぞ。かくして、伊邪那美命を、出雲国と伯伎国との堺の比婆之山に葬りき。
ここにいざなぎのみこと、そのまくらべにはいまわり、そのあとべにはいまわりなきたまいき。そのときになきたまうなみだよりなりしかみのなは、なきさわめのかみ。これ、かぐやまのうねおのこのもとにいますかみぞ。かくして、いざなみのみことを、いずものくにとほうきのくにとのさかいの、ひばのやまにほうむりき。
イザナギはイザナミの枕元に伏し、足元に伏して、ひたすら泣き続けました。
その涙から生まれた神の名は泣沢女神(なきさわめのかみ)。この神は、香山(かぐやま)の畝尾(うねお)の木の下においでになる神とされます。
こうしてイザナミは出雲国と伯伎国(現在の島根県と鳥取県)の境にある比婆之山(ひばのやま)に葬られました。
ここに伊邪那岐命、この子が故に、その御腰に佩ける十拳剣を抜きて、その子迦具土神の頸を斬りたまいき。かくて、その御刀の前についている血、かつかつ岩の群に触れて成りし神の名は石析神、次に根析神、次に石筒之男神。御刀の本についている血もまた、岩の群に触れて成りし神の名は甕速日神、次に樋速日神、次に建御雷之男神、またの名は建布都神、またの名は豊布都神。次に御刀の手上についている血、その岩の群に触れて成りし神の名は闇淤加美神、次に闇御津羽神。右、石析より闇御津羽神まで、并せて八柱の神は、御刀につく血の成りし神なり。
ここにいざなぎのみこと、このこがゆえに、そのみこしにはかせるとつかのつるぎをぬきて、そのこかぐつちのかみのくびをきりたまいき。かくて、そのみはかしのさきについているち、かかみいわのむれにふれてなりしかみのなはいわさくのかみ、つぎにねさくのかみ、つぎにいわつつのをのかみ。みはかしのもとについているちもまた、いわのむれにふれてなりしかみのなはみかはやびのかみ、つぎにひはやびのかみ、つぎにたけみかづちのをのかみ、またのなはたけふつのかみ、またのなはとよふつのかみ。つぎにみはかしのたがみについているち、そのいわのむれにふれてなりしかみのなはくらおかみのかみ、つぎにくらみつはのかみ。
イザナギは愛する妻を奪った我が子・迦具土神への怒りに駆られ、腰に帯びた十拳剣(とつかのつるぎ)を抜いて、迦具土神の首を斬りました。
剣の刃先についた血が岩に触れて生まれた神々:石析神(いわさくのかみ)・根析神(ねさくのかみ)・石筒之男神(いわつつのをのかみ)
剣の根元についた血が岩に触れて生まれた神々:甕速日神(みかはやびのかみ)・樋速日神(ひはやびのかみ)・建御雷之男神(たけみかづちのをのかみ)(別名:建布都神・豊布都神)
剣の手元(鍔)についた血が岩に触れて生まれた神々:闇淤加美神(くらおかみのかみ)・闇御津羽神(くらみつはのかみ)
これら剣の血から生まれた八柱の神々が、この時に誕生しました。
また斬られたる迦具土神の身に成りし神、頭に成りし神の名は正鹿山津見神。次に胸に成りし神の名は淤縢山津見神。次に腹に成りし神の名は奥山津見神。次に陰に成りし神の名は闇山津見神。次に左の手に成りし神の名は志芸山津見神。次に右の手に成りし神の名は羽山津見神。次に左の足に成りし神の名は原山津見神。次に右の足に成りし神の名は戸山津見神。并せて八柱の神は、迦具土神の身に成りし神なり。
またきられたるかぐつちのかみのみにもなりしかみ、かしらになりしかみのなはまさかやまつみのかみ。つぎにむねになりしかみのなはおどやまつみのかみ。つぎにはらになりしかみのなはおくやまつみのかみ。つぎにほとになりしかみのなはくらやまつみのかみ。つぎにひだりのてになりしかみのなはしぎやまつみのかみ。つぎにみぎのてになりしかみのなははやまつみのかみ。つぎにひだりのあしになりしかみのなははらやまつみのかみ。つぎにみぎのあしになりしかみのなはとやまつみのかみ。
さらに斬られた迦具土神の体の各部位からも山の神々が生まれました。
頭 → 正鹿山津見神(まさかやまつみのかみ)
胸 → 淤縢山津見神(おどやまつみのかみ)
腹 → 奥山津見神(おくやまつみのかみ)
陰部 → 闇山津見神(くらやまつみのかみ)
左手 → 志芸山津見神(しぎやまつみのかみ)
右手 → 羽山津見神(はやまつみのかみ)
左足 → 原山津見神(はらやまつみのかみ)
右足 → 戸山津見神(とやまつみのかみ)
迦具土神の体から八柱の山の神(山津見神)が生まれました。
⚡ 用語解説
| 言葉 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| 神生み | かみうみ | イザナギ・イザナミが多くの神々を生み出す行為。国生みの後に行われた。 |
| 迦具土神 | かぐつちのかみ | 火の神。正式名称は火之夜藝速男神。イザナミの死の原因となった。 |
| みほと | みほと | 陰部・女性器のこと。イザナミはここを焼かれて死に至った。 |
| 神避り | かむさり | 神が亡くなること。「神去り」とも書く。神の死の婉曲表現。 |
| 十拳剣 | とつかのつるぎ | 十拳(約80cm)の長さを持つ神剣。イザナギがカグツチを斬った剣。 |
| 山津見神 | やまつみのかみ | 山を司る神。カグツチの体の各部位から生まれた八柱の神の総称。 |
| 比婆之山 | ひばのやま | イザナミが葬られた山。出雲国と伯伎国(島根・鳥取)の境に位置する。 |
👑 登場する神々
| 神名 | 読み方 | 司る領域 | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 大事忍男神 | おおことおしをのかみ | 諸事を司る神 | 神様図鑑 |
| 石土毘古神 | いわつちびこのかみ | 岩・土の神 | 神様図鑑 |
| 石巣比売神 | いわすひめのかみ | 岩の神(女神) | 神様図鑑 |
| 大戸日別神 | おおとひわけのかみ | 戸口・出入りの神 | 神様図鑑 |
| 天之吹男神 | あめのふきをのかみ | 屋根・葺く技術の神 | 神様図鑑 |
| 大屋毘古神 | おおやびこのかみ | 家屋・住まいの神 | 神様図鑑 |
| 風木津別之忍男神 | かざもつわけのおしをのかみ | 風・木の神 | 神様図鑑 |
| 大綿津見神 | おおわたつみのかみ | 海全体を司る神。竜宮の神。 | 神様図鑑 |
| 速秋津日子神・速秋津比売神 | はやあきつひこ・はやあきつひめ | 河口・水門の神(夫婦神) | 神様図鑑 |
| 志那都比古神 | しなつひこのかみ | 風の神 | 神様図鑑 |
| 久久能智神 | くくのちのかみ | 木の神 | 神様図鑑 |
| 大山津見神 | おおやまつみのかみ | 山の神の総称。全国の山神の祖。 | 神様図鑑 |
| 鹿屋野比売神(野椎神) | かやのひめのかみ | 野の神・草の神 | 神様図鑑 |
| 鳥之石楠船神 | とりのいわくすふねのかみ | 船・交通の神 | 神様図鑑 |
| 大宜都比売神 | おおげつひめのかみ | 食物全般の神。農業・食の起源に関わる。 | 神様図鑑 |
| 火之迦具土神(カグツチ) | ほのかぐつちのかみ | 火の神。その誕生がイザナミの死を招いた。後にイザナギに斬られる。 | 神様図鑑 |
| 神名 | 読み方 | 由来 | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 金山毘古神・金山毘売神 | かなやまびこ・かなやまびめ | 吐いたものから誕生。金属・鉱山の神。 | 神様図鑑 |
| 波邇夜須毘古神・波邇夜須毘売神 | はにやすびこ・はにやすびめ | 屎(くそ)から誕生。土・埴土(はにつち)の神。 | 神様図鑑 |
| 弥都波能売神 | みつはのめのかみ | 尿から誕生。水・灌漑の神。 | 神様図鑑 |
| 和久産巣日神 | わくむすびのかみ | 尿から誕生。若い生命力・産業の神。子に豊宇気毘売神がいる。 | 神様図鑑 |
| 豊宇気毘売神 | とようけびめのかみ | 和久産巣日神の子。食物・五穀の神。伊勢外宮に祀られる。 | 神様図鑑 |
| 泣沢女神 | なきさわめのかみ | イザナギの涙から誕生。悲しみ・嘆きを司る女神。 | 神様図鑑 |
| 神名 | 読み方 | 備考 | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 石析神・根析神・石筒之男神 | いわさく・ねさく・いわつつのを | 剣の刃先の血から誕生。雷・武の神。 | 神様図鑑 |
| 甕速日神・樋速日神 | みかはやび・ひはやび | 剣の根元の血から誕生。 | 神様図鑑 |
| 建御雷之男神 | たけみかづちのをのかみ | 剣の根元の血から誕生。雷・武の大神。後の国譲り神話で重要な役割を担う。別名:建布都神・豊布都神。 | 神様図鑑 |
| 闇淤加美神・闇御津羽神 | くらおかみ・くらみつは | 剣の手元の血から誕生。水・雨の神。 | 神様図鑑 |
| 神名 | 読み方 | 部位 | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 正鹿山津見神 | まさかやまつみのかみ | 頭 | 神様図鑑 |
| 淤縢山津見神 | おどやまつみのかみ | 胸 | 神様図鑑 |
| 奥山津見神 | おくやまつみのかみ | 腹 | 神様図鑑 |
| 闇山津見神 | くらやまつみのかみ | 陰部 | 神様図鑑 |
| 志芸山津見神 | しぎやまつみのかみ | 左手 | 神様図鑑 |
| 羽山津見神 | はやまつみのかみ | 右手 | 神様図鑑 |
| 原山津見神 | はらやまつみのかみ | 左足 | 神様図鑑 |
| 戸山津見神 | とやまつみのかみ | 右足 | 神様図鑑 |
🏯 関連する神社・名所
| 名称 | 所在地 | この神話との関係 | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 愛宕神社(全国総本社) | 京都府京都市 | 火之迦具土神を主祭神とする全国の愛宕神社の総本社。火防の神として信仰される。 | 神社めぐり |
| 秋葉山本宮秋葉神社 | 静岡県浜松市 | 火之迦具土神を祀る。全国の秋葉神社の総本社。火防の神として名高い。 | 神社めぐり |
| 鹿島神宮 | 茨城県鹿嶋市 | 建御雷之男神(カグツチの血から誕生)を主祭神とする。武の神の総本社。 | 神社めぐり |
| 大山祇神社 | 愛媛県今治市 | 大山津見神を主祭神とする全国山神の総本社。 | 神社めぐり |
| 豊受大神宮(伊勢外宮) | 三重県伊勢市 | 豊宇気毘売神(和久産巣日神の子)を祀る伊勢神宮外宮。食物・産業の神。 | 神社めぐり |
| 名称 | 所在地 | この神話との関係 | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 比婆山(ひばやま) | 広島県庄原市 | イザナミが葬られたとされる比婆之山の有力候補地。比婆山連峰の主峰。 | 名所めぐり |
📚 この神話が書かれている書物
| 書物 | 記述の特徴 | 古事記との主な違い | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 古事記(上巻) | 神生みの神々を詳細に列挙。カグツチを斬った際の神々も丁寧に記す。 | —(基準) | 書物図鑑 |
| 日本書紀(本文) | 神生みの内容はほぼ同じだが、イザナミの死の描写や神の名称に一部差異がある。 | カグツチを斬る場面での誕生神の数・名称が一部異なる。 | 書物図鑑 |
🔍 古事記考察:この神話を深く読む
💭 考察①「なぜ火の神が最後に生まれたのか」
神生みで生まれた神々の順序を見ると、海・山・川・風・木など自然界の基盤となるものが先に生まれ、火が最後に生まれていることがわかります。これは偶然でしょうか。
一つの解釈として、火は自然界の中で最も「管理が難しい」ものであると考えられます。海や山は制御しなくても存在できますが、火は放っておけば周囲を焼き尽くす。神話はその「危険さ」を、生み出した瞬間に母神を死なせるという形で象徴的に表現したとも読めます。火の誕生は文明の誕生でもあり、同時に破壊の始まりでもある——古代人がそこに感じた畏怖が、この神話に刻まれているのかもしれません。
💭 考察②「病体から生まれた神々の意味」
イザナミの吐いたものから金属の神が、排泄物から土の神が、尿から水の神が生まれました。現代人の感覚では不思議に思えるこの描写ですが、古代の世界観では「汚れたもの」にも神が宿るという考え方(ケガレとタマ)があったと考えられます。
金属は地中の鉱脈から産まれ、土は生命を育む大地の素材、水は生命を支える源泉——これらはすべて「生命の根源にあるもの」です。死にゆくイザナミの体から生命の基盤となる神々が生まれるという構造は、「死は終わりではなく、新たな生の始まりである」という再生思想を表しているとも読み取れます。
💭 考察③「建御雷之男神はここから生まれた」
カグツチを斬った剣の血から生まれた神々の中に、建御雷之男神(タケミカヅチ)がいます。この神は後の「国譲り神話(第12話)」で大国主命と対峙する重要な神として再登場します。
つまり、悲劇の場面から生まれた雷神が、後に日本の国家形成を決定づける重要な役割を担うわけです。第3話の時点では、その将来の重要性はまだわかりません。しかし古事記はここで静かにその伏線を張っています。神話全体を通して読むと、古事記の構成の巧みさが見えてきます。
📣 あなたはどう読む?イザナミの死とイザナギの嘆き、そしてカグツチを斬る場面——この神話をどう感じましたか?コメント欄へぜひどうぞ。
📝 まとめ
第3話「神生みと火神の悲劇」では、海・山・川・風など自然界の神々が次々と誕生し、最後に火の神・迦具土神(カグツチ)を生んだことでイザナミが命を落としました。悲しみのイザナギがカグツチを斬ると、さらに多くの神々が誕生し、神話の世界はより豊かに広がっていきます。
次の第4話「黄泉の国」では、妻を追ったイザナギが死者の国へと降り立ち、見てはいけないものを目にしてしまう——恐ろしい黄泉の物語が始まります。
第4話「黄泉の国」を読む →

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